(第28章)宿敵(前編)

(第28章)宿敵(前編)
 
その日の夜、ジルの隠れ家。
モイラ・バートンは今回闘う事になる姑獲鳥は凶暴で
普通の人間の武器じゃ全く太刀打ちできないばかりか
逆に怒らせると非常に危険があるとザルバに説明されていた。
ザルバの説明を聞いたモイラは素直に明日の国連会議の準備の為、
NGO団体テラセイブの本部で仕事仲間の
アイザックと協力し準備を忙しく続けていた。
ジルは隠れ家の外の誰も使っていない駐車場の中央に一人立っていた。
隠れ家の外に立っていたジルは両手で黒いジャンバーを左右に開いた。
腰にはベルトが付いており
円形のバックルに付いている球体が真っ赤に発光した。
一瞬で頭部を除いて全身は異形の鎧を纏った姿に変身した。
ジルは昆虫に似た2対の緑色の太い触角の付いた
マスクを自分の頭部に両手で装着した。
ジルは両腕を天に向かって勢い良く突き上げた。
「ウニャアアアアアアッ!」
ジルはまるで野獣の様な咆哮を上げた。
それから鋼牙に言われた事を思い出した。
「子を守る為!母がどこまで命を懸けられるか考えるんだ!」
ジルはそれを考えてみたものの答えは見つからなかった。
暫くジルは無言で考え込んだ。
間も無くして静寂を打ち破る様にまるで雀の威嚇を彷彿とさせる
甲高い鳴き声が寒空の空気を切り裂き、周囲に響き渡った。
「ジュジュジュジュジュジュジュン!ジュジュジュジュジュジュン!」
「来たわね!」
ジルの赤い複眼は夜空を自由に飛び続ける
巨大な青い雀の姿をした魔獣ホラー・姑獲鳥の姿をはっきりと捉えた。
バン!と言う大きな音と共にモイラと
鋼牙が日中に仕掛けて置いた結界が発動した。
そして誰も使っていない駐車場は巨大な紫色に輝く分厚い壁に覆われた。
結果、ジルと姑獲鳥は内部に閉じ込められる事となった。
つまりこれで1対1の闘いである。
姑獲鳥は恐らくジルの魂を捕食する。
そして倉庫の入口の扉に仕掛けた結界を
破壊して隠れ家の中に侵入するだろう。
ジルはそう予想した。
しかし姑獲鳥は意外な行動と取った。
姑獲鳥はジルを
『子供を奪った天敵であり、先に倒すべき相手』と認知した。
姑獲鳥は再び雀の威嚇を彷彿とさせる甲高い鳴き声を上げた。
「ジュジュジュジュジュジュジュン!ジュジュジュジュジュジュン!」
姑獲鳥はジルに向かって急降下した。
巨大な青い羽根から青く輝く多数の羽毛を
バラバラとジルが立っている周囲にばらまいた。
そして青く輝く多数の羽毛が周囲のコンクリートに触れた途端、
次々と大爆発を起こした。
ドガガガガガガガガガガン!
「ぶわあっ!」
思わずジルは両腕で爆風と炎を防ごうとした。
しかし四方八方から爆風は防ぎきれず、グルリと身体を一回転させた。
その後、地面に仰向けに倒れた。
姑獲鳥は再び急上昇し、大きく青く輝く羽根を閉じた。
身体をグルグルと回転させた。
再び閉じていた青く輝く羽根を広げ、空中でホバリングした。
そして空中と地上で姑獲鳥とジルは対峙した。
姑獲鳥は黒い眼球でジルをじっと見ると今度は
網目模様の付いた青い嘴を大きく開いた。
その時、ジルは咄嗟に素早く右に転がった。
同時に姑獲鳥の嘴からオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体を放った。
しかもオレンジ色に輝く槍は追尾性があるらしい。
槍は僅かに方向を変えて右に転がって回避し、油断していた
ジルの右腕を僅かにかすめ、緑色の鎧の一部を切り裂いた。
「ぐっ!」ジルは僅かに顔を歪めた。
そして右腕を抑えた。
姑獲鳥は嘴を開いたまま今度は口内を真っ赤に発光させた。
「うわっ!また別の攻撃が!」
ジルは左に転がって回避した。
姑獲鳥は嘴から真っ赤に輝く熱光線を放った。
幸いにもジルはどうにか真っ赤に輝く熱光線を回避できた。
真っ赤な熱光線は瞬時にコンクリートの床を高熱で溶かし、蒸発させた。
続けて姑獲鳥は再びジルに向かって一気に急降下した。
そしてまた巨大な青い羽根から青く輝く羽毛を
バラバラとジルが立っている周囲にばらまいた。
再び青く輝く羽毛が周囲のコンクリートの床に当たった。
途端に次々と大爆発を起こした。
ドガガガガガガガガガガガガガガン!
「うおおおっ!」
ジルはまた両腕で爆風と炎を防ごうとした。
やはり四方八方からの爆発は防ぎきれず、グルリと身体を回転させた。
今度はアスファルトの地面に仰向けに倒れた。
姑獲鳥は再び急上昇し、大きく青く輝く羽根を閉じた。
身体をグルグルと回転させた。
再び閉じた青く輝く羽根を広げた。
そして空中でホバリングした。
更にまた嘴を開き、追い打ちをかける様に
嘴からオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体を放った。
ジルは足元をふらつかせて立ち上がった。
姑獲鳥の嘴から放たれたオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体はジルの緑色の鎧の胸部に高速で迫った。
咄嗟にジルは右腕で飛んで来たオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体を弾き返した。
弾き返されたオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体は近くのコンクリートにグサリと突き刺さった。
しかしその時、ジルは右腕の緑色の鎧を深々と切り裂かれ、悲鳴を上げた。
「ぐあああああっ!」
ジルは堪らず右膝をコンクリートの床に付いた。
姑獲鳥はまた口内を真っ赤に発光させた。
ジルはふと自分の背後に日中、鋼牙とモイラが仕掛けて置いた
紫色の結界に覆われた自分の隠れ家の扉がある事に気付いた。
その為、その場から動けなかった。
代わりに両腕を顔面で組み、防御の体勢に入った。
姑獲鳥は嘴から真っ赤に輝く熱光線を放った。
真っ赤に輝く熱光線はガードしている両腕に直撃した。
とりあえず顔面の直撃は免れたものの代わりに両腕は熱光線で焼かれ、
両腕を覆っている分厚い緑の鎧は高熱を帯び、徐々に表面が溶け出した。
「ぐあああああっ!」
ジルは悲鳴を上げ、両腕の高熱による激痛に苦しんだ。
姑獲鳥は真っ赤な熱光線を吐くのを止めた。
姑獲鳥は小首を左右に傾げ、大きな青く輝く羽根を閉じた。
そして鋭く長い黒い鉤爪が生えた両足を
コンクリートの床に食い込ませ、着地した。
「ジュジュジュジュジュジュジュン!ジュジュジュジュジュジュン!」
姑獲鳥は雀の威嚇を彷彿とさせる鋭い鳴き声を上げた。
ジルは苦しそうに荒く息を吐き続けた。
彼女の両腕の表面は先程の熱光線に焼かれ、表面が溶け出し、
熱を持ちブスブスと煙を上げていた。
姑獲鳥はしゃべり始めた。
「そこをどきなさい!あたしの可愛い子供がまっているのよ!
早くどきなさい!どきなさい!ジュジュジュジュジュジュン!」
「断るわ!彼女に父親も母親はいないのよ!」
「ふざけるな!ふざけるな!母はここにいる!ここにいる!」
「違う!貴方はクレアの母親じゃない!」
ジルは力強くそう言い切った。
「黙れえええええええっ!ジュジュジュジュジュジュン!」
姑獲鳥は激昂し、再び嘴からオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体を放った。
嘴から放たれたオレンジ色に輝く鋭利な三角形の棘が
4対生えた長い槍状の物体は再びジルの胸部に高速で迫った。
ジルはそれをまともに受けた。
胸部の分厚い緑の鎧から大量の火花が散った。
更に突き刺さり、内部の衣服を着たジルの肉体に達する事無く止まった。
 
(第29章・宿敵(後編)に続く)