(第10章)英傑(後編)

(第10章)英傑(後編)
 
「うっ!ぐあっ!何故だっ!何故だっ!ぐおおおっ!負けるかあっ!」
ウォスカは歯を食いしばり、意地を張り、一歩一歩、歩き始めた。
同時にウルトラマンスコットが放った
グラ二ウム光線は徐々に短くなって行った。
次第にウルトラマンスコットは押され、後退して行った。
「グッ!ジュッ!」
その時、母親のエミリーが声援を送った。
「何をしているの!しっかりしなさい!」
続けてその場の空気にのまれたトーマスおじいさんと
ヨハネスお爺ちゃんも精一杯声を張り上げ、檄を飛ばした。
「こりゃ!しっかりせい!若造!」
「何しているんだ!もっと踏ん張れえええっ!」
ウルトラマンスコット負けないで!」
横笛を吹いていた烈花の心にはウルトラマンスコットを応援する
彼らの強い想いの声が届き、響いていた。
自身も心を大きく揺さぶられ、彼らの強い想いを胸に。
一層、強く『時の中を走り抜けて』を吹き続けた。
彼女の両目からは涙が流れ、笛の音色のメロディの様に
無数の粒が飛び、月の光で照らされ、キラキラと美しく輝いた。
やがてウルトラマンスコットの全能力が一気にアップした。
同時にグラ二ウム光線の色はより強く青く輝いた。
「うっ!ぐあああああああああっ!
馬鹿な!こんな……たかが霊魂如きにっ!
いや、餌になるだけの存在……だった人間の想いがっ!
まさか!俺の陰我が断ち切ら……れる……と……は……」
やがてウォスカの筋肉質な身体は爆四散した。
ズゴオオオオオオン!
「やったあああっ!」
「やった!やった!倒したっ!」
「大したもんじゃ!」
「本当に倒した……信じられん……」
しかし烈花の笛の音は止まらなかった。
ウォスカを封印したウルトラマンスコットはクルリと
母親エミリーと息子のスコット少年に向き直った。
フッとウルトラマンスコットの姿が消えた。
同時にそこには生前と変わらない金色に輝く
若々しい男性の姿が立っていた。
もちろん母親のエミリーもスコット少年も見覚えがあった。
いや、そもそも見間違う筈もなかった。
「貴方!」
「パパっ!」
「おい!あれは……」
「レイ!レイなのか?」
するとレイと呼ばれた若々しい男性は無言で頷いた。
そして生前、愛する妻だったエミリーと息子の
スコット少年を愛しい目で優しく見つめた。
エミリーは不意の出来事に驚き、感動し、
涙が一気に滝の様に流れ、零れ落ち続けた。
「うっ!レイ!貴方だったのね……レイ……」
エミリーは嬉しくなり、青緑色に輝くレイの仮の身体を抱きしめた。
しかも不思議な事に体温は生前と全く変わっていなかった。
とても優しく温かかった。続けてエミリーは愛する夫にキスを交わした。
その様子を見ていた烈花も涙が止まらなかった。
彼女は分っていた。もう彼は現世の人間では無いと。
既に彼の肉体は現世に存在しない。
彼は幽霊なのだ。
つまり本来、幽霊がいるべき場所、極楽へ戻らなければならなかった。
別れの時間はもうすでに目の前に迫っていた。
だからこそこれから本来いるべき場所である
極楽へ旅立つ若い霊魂に敬意を払い、
ちゃんと最後まで送り出してやるのもまた魔戒法師の大事な務めでもある。
彼女は一心不乱にその笛の音を奏で続けた。
『時の中を走り抜けて』
これが勇敢な英傑の霊魂に捧げる鎮魂歌(レクイエム)だ!
霊魂であるレイは愛する息子のスコット少年の前で膝を付いた。     
レイは自らの左胸に手を置いた。
続けてスコット少年の左胸を指さした。
スコット少年は父親のメッセージを理解した。
「分ったよ!パパ!極楽でもっと!
もっと強くなって!またいつか何処かで会おうね!」
レイは無言で頷き、生前と変わらない優しい頬笑みを見せた。
そして立ち上がるとヨハネスお爺ちゃんとトーマスおじさんに一礼をした。
続けて自分の為に『時の中を走り抜けて』
を吹いている烈花法師にも一礼をした。
「それじゃ!もう行くよ!」と言う様に手を上げた。
彼は交通事故で命を落とす前と同じいつもの笑顔を見せた。
その後、彼はクルリと背を向け、走り出した。
「さよなら!レイ!」
「すまなかった……レイ!レイ!」
「本当に……分ったよ……安らかに……ぐすん……うっ!」
トーマスおじさんも泣き出した。
ヨハネスお爺ちゃんも静かに泣いていた。
烈花も横笛を吹きながらー。
さよならだ!よかったな!
彼らに存在を認めて貰えたからあんたは成仏できるよ!
レイはその場にいた烈花法師、トーマスおじさん、ヨハネスお爺ちゃん、
母親のエミリー、息子のスコット少年に別れを告げ、
再びウルトラマンスコットになった。
彼は「デユワアアッ!」と声を上げ、
天高く本来、霊魂がいるべき極楽に戻って行った。
息子のスコット少年は涙を流し、精一杯手を振り、
極楽へ旅立つ父親の霊魂を見送った。
トーマスおじさん、ヨハネスお爺ちゃん、母親のエミリーも見送った。
 
翌朝のスコット少年が通うキリスト教系の神学校の校庭。
「さあ!皆の好きなキャラクターを言ってごらん!」
神学校の先生は校庭に集めた生徒達にそう尋ねた。
生徒達はそれぞれ自分の好きなテレビアニメのキャラクターを初め、
マーベルコミックのヒーローや特撮ヒーローの名前を言った。
アンジェラと言う女の子は「スパイダーマン」。
カプランと言う男の子は「ウルヴァリン」。
ワンと言う男の子は「仮面ライダーゴースト」。
レインと言う小さな女の子は「セーラームーン」。
スコット少年は「ウルトラマンスコット」と答えた。
すると神学校の先生はそれぞれの好きな
キャラクターのフィギュアを取り出した。
続けていきなり無言で予め着火しておいたドラム缶の中に投げ入れた。
そしてフィギュアはあっと言う間に火の中で
ビニールゴムが溶けて、燃え尽きた。
神学校の先生はこう言った。
「神が一番だ!」
しかし自分の好きなキャラクターの人形を焼かれても
何故か子供達は平然としていた。
「違うよ!あたしの中で一番なのはセーラームーン」。
「僕の中の一番はスパイダーマン」。
「僕の中の一番はウルヴァリン」。
「僕の中の一番は仮面ライダーゴースト」。
「僕の中の一番はウルトラマンスコット」。
神学校の先生は生徒達の予期せぬ答えに激しく動揺した。
「なんでだい?キャラクターの人形は神の炎で焼かれたんだ!」
しかしスコット少年は先生の前に一歩出て、こう言った。
「そんな事をしても、僕達のヒーローを想う気持ちは消せないよ!
だってヒーローは今ここに!」
スコット少年は自分の右胸に手を置いた。
「そして!みんなの心の中にいるんだ!」
「そう!セーラームーンはあたしの心の中に!」
スパイダーマンは僕の心の中に!」
ウルヴァリンは僕の心の中に!」
仮面ライダーゴーストは僕の心の中に!」
ウルトラマンスコットは僕の心の中に!」
笑顔でしかも自信を持ってそう答える生徒達に
神学校の先生はただただ唖然としていた。
同時に自分の心の中で神に対する信仰心が大きく揺らぐのを感じた。
 
(END)