(第27章)回転木馬

(第27章)回転木馬
 
しばらくの沈黙の後、ゾイ・ベイカーの目の前に現れた犯人の
クレーマータックは彼女にだけ自らの素顔を晒してまた隠した。
続けて素早く剥製室のあった廊下の赤い壁に向かって体当たりした。
同時に赤い壁はグルリと一部が回転した。
それはまるで忍者のカラクリ扉の様だった。
犯人の身体はあっと言う間に壁の中に吸い込まれるように消えた。
「まて!」ゾイはあと追跡しようと
犯人が体当たりした赤い壁にまた体当たりした。
しかし何故か作動せずドン!と激しく赤い壁にぶつかっただけだった。
「くそっ!どうなっているんだ!この壁は!」
ゾイは悔しそうに歯ぎしりした。
更に剥製室の黒い扉のあった赤い廊下の奥には
分厚い鉄の扉があるのに気付いた。
「あそこはもしかしたら?」
彼女はあの分厚い扉の先に犯人が逃げた隠し通路に
繋がるかも知れないという淡い期待感を持った。
そしてゾイは赤い壁の廊下の奥の分厚い鉄の扉を
また体当たりで強引に開けた。
すると分厚い扉の先には青く四角い部屋があった。
しかも部屋の奥には大きな最新型の薄型テレビが2台あった。
その下部には「押せ」と書かれたメモ用紙が
貼り付けられたビデオデッキが2台あった。
もちろん犯人が逃げた隠し扉に繋がると言うことはなさそうだった。
悔しかった。こんなに悔しいと思った事が無い位、凄く悔しかった。
そしてゾイは意味ありげに張ってある「押せ」と言う張り紙の指示に従い、
2台のビデオデッキの再生ボタンを押した。
すると自動的に2台の薄型テレビの電源が入った。
右側の薄型テレビの画面には20体余りのプラントデッドの群れが
透明なガラスに囲まれて部屋を徘徊していた。
左側の薄型テレビの画面には遊園地にある様な巨大な回転木馬があった。
そして回転木馬の外側に座らされた6人の反メディア団体ケリヴァー
のメンバーと思われる男女の姿が映っていた。
更に回転木馬の手前には最初にBSAAの烈花とクエントが
洋館に潜入した際に目撃したプラントデッドの最初の犠牲者である
パルカス・グリームの姿があった。
どうやらこのビデオテープ内に収録されている間は
どうにか上手く逃げおおせていたようだ。
そしてほかの6人の男女の中には未だに
会っていない人物がほとんどだった。
更にスピーカーから「助けられるのは2名のみであり。
いかに自分達反メディア団体ケリヴァーの
活動がどれだけ他人に迷惑を掛け、
自分勝手で自己中心的に振舞って来たかを自らの精神と肉体で学ぶのだ!」
スピーカーの主である男(恐らく犯人のクレーマータック)
は事務仕事の様に淡々とゲームのルール等を説明した。
やがて回転木馬は起動を開始した。
グルグルとしばらく回転した後、一人のアメリカ人の男性トーマスが
回転木馬の手前にいるパルカス・グリームの前で止まった。
トーマスは涙ながらにパルカスに「助けてくれ!」と訴えた。
同時に座っていた椅子は徐々に後ろに傾き始めた。
するとパルカスは近くにあった箱に手を突っ込んだ。
そしてボタンを押したと同時に太い針が飛び出した。
飛び出した太い針はパルカスの右手の甲と掌を軽く貫いた。
「ぎゃああああああああああああああっ!」と彼は絶叫した。
トーマスの座っていた椅子は再び回転した。
そして木馬は回転し、今度は金髪の青い瞳にグラマーな
女性メイスンが座っている椅子が
木馬の手前にいるパルカスの前で止まった。
メイスンもまた必死の形相でパルカスにこう命乞いをした。
「助けて!あたし妊娠しているの!あいつの子よ!」
そして金髪の女性は直ぐ近くに座っているアフリカ人の
黒い肌の男のテリコの横顔を指さした。
すると金髪の女性に指をさされたテリコは激しく怒りを露わにした。
「ふざけるな!お前となんか付き合っていないっ!」
しかしメイスンはヒステリックな甲高い声でこう喚き散らした。
「うそおっしゃい!馬鹿じゃないの?あたしをレイプしたんでしょ?
そう!そう!あいつはあたしをレイプしたの!死ぬのはあいつよ!」
「ふざけるな!このアバズレ!馬鹿女!レイプなど嘘だ!」
レイプの容疑を掛けられたテリコは激怒しながらそう反論した。
「ああ、彼の言う通り嘘だ!妊娠はしていない!
あいつはそんな奴じゃない!」
そう答えると彼は箱に手を入れるのを止めた。
間も無くしてビーッと言う甲高い音と共に
メイスンの身体は椅子から後方に勢い良く弾き飛ばされた。
ゾイは回転木馬が映っている右側のテレビ画面から
左側のテレビ画面に目を向けた。
するとさっきのメイスンは20体余りのプラントデッドが
閉じ込められているガラス張りの部屋に放り出されていた。
間も無くして極度の空腹状態の20体余りのプラントデッド達は
わらわらと金髪の女性の元に集まり始めた。
「嫌!嫌!止めて!止めて!嫌っ!死にたくないっ!助けて!助けて!」
プラントデッド達は一斉に真っ赤に輝く無数の
牙の付いたつぼみをバカッと大きく開いた。
続けてメイスンの断末魔の絶叫が
ガラス張りの部屋に木霊し、やがてすぐに消えた。
プラントデッド達は我先にとメイスン
の大きな丸い柔らかい両胸や白い肌の首筋、
そしてしなやかな両脚や両腕にガブリと噛みつき、喰い始めた。
やがて床に真っ赤な血溜まりが出来た。
更に回転木馬は残りの5人を座らせたまま回転し続けた。
彼の親友だったテリコはパルカスが
自らの手の甲と掌を犠牲にして助けられた。
彼に助けられなかった残りの4人は全員、
自分それぞれの命を助けてくれなかったパルカスや
回転し木馬の椅子に座っている者同士で激しく罵り、
暴力に満ち溢れた自分勝手で汚らわしい言葉を吐いた。
「このクズ野郎!死ねよ!」
「なんで!俺だよ!畜生!」
「パルカス!この裏切り者!あんたこそ地獄に行け!」
「ゴミ!カス!あたし達は居間まで若村様の思想が!
正しいと信じていたのに!仲間を売るなんて!」
「この大嘘付き!お前のせいで死ぬんだ!」
「このバカ!あんたのせいよ!あんたこそ価値の無い人間なのに!」
「地獄に堕ちろ!このアホパルカス!」
「あたし一緒にドラッグで一発ハイになってやった仲なのに?
その仕打ちがこれな訳?ふざけんな!畜生!」
「お前みたいな廃思想者のクズなんか消えちまえ!」
そして残りの4人はそれぞれ捨て台詞を吐きながら
また一人、また一人と回転木馬の椅子から弾き飛ばされ、
次々とガラス張りの部屋の中にいる20体ものプラントデッド達に
全身を引き千切られ、頭や四肢をバラバラにされた。
そして4人は次々と断末魔の叫び声を上げ、そして消えて行った。
回転木馬はようやく役割を終えて停止した。
ガラス張りの部屋には食い千切られた男女のバラバラ死体と
20体余りの満腹になったプラントデッドだけが残った。
一方、回転木馬にはパルカスが助けたアフリカ人の男テリコと
アメリカ人の男トーマスのみ椅子に残っていた。
それからビデオテープは終わった。
ゾイはただそれを茫然と見ていた。
「2人は無事なのか……いや……パルカスは……」
ゾイは食堂の長い廊下で観た首がもがれた
パルカスの死体を思い出し、下唇を噛みしめた。
「ここはあいつでゲームを!クソっ!」
ゾイは思わずバンと2台の薄型テレビと
ビデオデッキが置いてある木の床の両拳で叩いた。
更にまた天井のスピーカーから男の声が聞えた。
「これで理解出来たかね?反メディア団体ケリヴァーの
メンバーはいかに自分勝手で自己中心的で
自分本位な考え方をする人間の集まりだったと。
勿論、パルカスが助けた2人の男は水と食料が
十分ある厨房のシェルターに避難している。
パルカスはBSAAの救助隊が来ると言う
私の話を信じず外に出て行ったがね。
二人はBSAAの救助隊が来るまで厨房で待っている。
勿論、ゲームだよ!ゾイ・ベイカー」
その時、ある意味では唐突だがスピーカーの男の声に
別の女性の声が一瞬だけ聞えた。
「ハートに従うの……」と掠れた声でそれはまるで幽霊の様だった。
ゾイは不意に聞えた別の女性の声を聞くなり、反射的に周囲を見た。
すると青く四角い部屋の壁に大きなハートマークが
刻印されているのを見つけた。
 
(第28章に続く)