(第38楽章)捨てられた人形と忘れ去られた記憶

(第38楽章)捨てられた人形と忘れ去られた記憶
 
ジョン・C・シモンズの大きな屋敷の地下にある医療空間では。
例のデモニックジーン(悪魔遺伝子)を殺す抗ワクチン剤の
散布方法についてジョンとマルセロ博士は話していた。
「それで?散布方法は?」
「この女の子の生体マグネタイドを利用する!空中からそれを東のミカド国を中心に
第3の世界(真女神転生Ⅳファイナル)全体にばら撒き、全ての人々に伝染させる。」
「成程!風媒性の抗ワクチン剤!アンチウィルスと言う訳か?
それをシルクのいとこの女の子の生体マグネタイドに含まれる
デモニックジーン(悪魔遺伝子)に対する抗体とG変異株の抗体が二つ含まれた
『ダークエンジェル』が人々の体内にある『神の奴隷にならない反逆者を
悪魔に変える遺伝子』を殺す!『唯一絶対神YHVA』はあらゆる並行世界
パラレルワールド)の人々は『唯一絶対神YHVA』に巣食われて抑圧されている。
だから奴は必ず何が何でもどんな手段を使ってでも駆除する!
そうすれば僕の様に多種多様なあらゆる世界の神々は息を吹き返し、
貶められる事も無く自由になる!!唯一絶対神YHVAの言葉は
人々を苦しめ毒し、やがて僕のような多種多様な神々の性格も考えも善も悪も変えた。
僕は神として自由を殺されて悪魔となった。
だからこそ唯一絶対神YHVAを殺す!多種多様な神々は在りのままでいい。」
「そうじゃな!確かにYHVAは言葉の配列と
時間に連なる遺伝子コードを完全に支配し、
新しいエルサレムを作り出し、世界を一つにしようとしている。
神の言葉は人々の心を侵食し、奴隷として思考を縛る。
さらに人々に伝染し、人々の心を更に蝕み。
純粋な人間の個人や多種多様の神々として歩んで来た道を殺し。
純粋な人間の個人や多種多様の神々として進む道を殺し。
純粋な人間の個人や多種多様な神々が世界に生まれた理由さえも殺した。
じゃがこの娘の前でそんな話をしていいかのう?」
「どう言う意味かね?マルセロ博士?」
「このベッドで眠っているシルクのいとこの娘はワクチンを投与された。
そして変身の副作用は怒らずとも恐らく
別の副作用によって意識は無く耳が聞こえずとも
この人間の娘の脳内に直接響いている筈じゃ!」
「つまり?全部駄々洩れだと?それがなんだ?別のあの娘が
僕の話を聞いたからってそれがなんだ?どうせ僕の考えなんて!
神々や天使や悪魔の争いに無関係でぬくぬくと生きている
人間の娘には全く理解なんか出来っこないさ!」
「そうじゃ!じゃが先のワクチンの副作用によって彼女の
生体マグネタイドが極めて高いレベルに達しておる。
今の彼女なら一時的とは言え人間や我々メシア一族の魔獣ホラー、悪魔、天使、
神々の思念を読み取れる筈じゃ!見てみたまえ!両目の下をのう!」
ジョンがマルセロ博士の指摘通りそのシルクのいとこの女の子の顔を見た。
すると彼女の両眼かの下辺りから涙が溢れ、一筋、二筋と丸い
ふっくらとした両頬までキラキラと輝く涙を流していた。
………僕の苦しみを憎しみを怒りを理解したのか?」
ジョンはベッドの上で眠っているシルクのいとこの女の子の
両頬から流れた涙を指で優しく掬い取った。
その瞬間、ジョンの脳裏にある記憶が甦った。
その記憶は自分が魔王ホラー・ベルゼビュートに憑依されて人間ではなくなる数年前。
僕は両親の都合でとある日本の中学校に留学していた頃。
僕は14歳かその位だったか?
中学一年か?二年生の女の子と付き合っていた。もうかなり昔の話だが。
僕の初恋の相手だった。僕と彼女はよく自分の家で当時流行した
(とは言ってもクラスの間のホラーマニアの一部だが)
パソコンのマウス操作で行う画期的なゲームを彼女とよくプレイをしていた。
それがタイトルが!そうだ!あれだ!あの!えーと!そうだ!思い出した!
『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』だ!
結構怖いゲームと言うより、びっくり系のゲームだ!
良くゲーム画面からトビですアニマトロにクスのボニー、チカ、フォクシーだっけ?
が飛び出すのを見てびっくりして彼女はよく僕の身体に抱き付いていたっけな?
彼女の柔らかい胸が当たる度にからかって良く怒られていたな?
キャーキャーワーワーなんだかんだしゃべって叫んでたまにテンパッテさ!
僕が意味不明な言葉を口にすると腹を抱えて笑い転げて目に
涙を流して楽しそうにしている彼女がいた。
このホラゲーは『1』『2』『3』はプレイしたな。
特にゴールデンフレディとか後はマングルとか。
あいつら本当にヤバいくらい強いし怖かったな。
彼女はゴールデンフレディとかチカが一番怖かったって言っていたな。
「ふーん!そうか!知り合いのようじゃったか?」
急に横からマルセロ博士の声が聞こえたので
僕は思わずビクンと全身を震わせ横を見た。
するとマルセロ博士がニヤニヤ笑い、きょとんとしたジョンの表情を見ていた。
「あっ!すまん!すまん!つい思い出してしまってね!えーと!昔の!」
「珍しいのう魔獣ホラーに憑依されてもまだ人間だった頃の記憶があるとはのう。
丁度、この子を思い出しおったわい!」
ジョンとマルセロ博士は反射的にベッドの上のシルクのいとこの女の子を見た。
やがて唇が動き出し、美しい英語の歌を歌い始めた。
その英語の歌はさっき思い出したゲームのファイブ・ナイツ・アット・フレディーズの
一作目のテーマソングだった。昔、彼女にこっそり毎日練習させて教えた歌だ。
曲調はどこか悲しく人形達の切なさが特徴的だ。
そう僕も当時はあのアニマトロにクス達と同じように
本来裏社会で両親に従って生きていた僕が体験した表社会の
自由と平和なささやかな日常のあたりまえの暮らしは僕にとって宝だ。
でも結局は両想いに終わり、そして僕は彼女や人々が
知らない内に誰にも告げずアメリカに帰国した。
同時に僕の日常も終わりを告げた。
「ほう。随分、切ない過去じゃのう!若かりし恋か……」
マルセロ博士は何故か嬉しそうにニヤニヤ笑っていた。
しばらくジョンは恥ずかしそうに両頬を紅潮させた。
2人はしばらく笑い合っていた。
しかし間もなくしてマルセロ博士は何を思い出したの表情を曇らせた。
「そんな自由な平和な世界に引き換え、見かけによらず唯一絶対神YHVAも
大天使達も天使達も酷い事をしおるのう。
まさか第3の世界(真女神転生ファイナル・ロウルート)
の大勢の東のミカド国の国民にあの危険なデモニックジー
(悪魔遺伝子)と言う爆弾を背負わせるとは。」
不意にマルセロ博士は唯一絶対神YHVAや大天使、天使達の
人間に対する仕打ちに僅かなが怒りを覚えたのか拳を固く握りしめた。
「しかも天使達は予めその遺伝子を自分の国の国民の体内に仕込ませていたんだ!
しかも東のミカド国の国民の90パーセントは感染しており!
しかも発症するには『近くに大天使がいない』と『感染者の文明接触が一定量超過』
この二つの条件が満たされれば女も男も子供も無差別に発症する。酷いだろ?」
「自分達の思い通りに言う事を聞かない者は悪魔遺伝子の
発症で悪魔となり、信仰する人間や大天使や天使軍に殺される。
自分達の思い通りに言う事を聞く者は人間として悪魔遺伝子を抑えられ、
唯一絶対神YHVAや大天使や天使達の奴隷として盲従される。
自由を縛り付けられて。」
「これが旧約聖書新約聖書で人間の光として書かれた唯一絶対神YHVAと
大天使や天使達が人間に行った許されない実態なのさ!もはや連中は人間を
自分達の都合と価値観で動く道具としか見ていないし、自分の都合の良い結末
にする為のコマのように。人形のように弄んでいるだけなんだ!」
ジョンはつい暑くなり声を荒げた。マルセロ博士は「しーつ」と指を口に当てた。
「あまり声を荒げるな!この子が目覚めてしまうぞ!」
するとジョンは罰悪そうな表情となり声を潜ませた。
「すっ!すまん!ついうっかり熱くなってしまって」
「まっ!いいさ!あんたはそれだけ唯一絶対神YHVAに対する
憎しみや怒り悲しみが深いと言う事だからな」
マルセロ博士はポンとジョンの肩を軽く叩いた。
間も無くしてシルクのいとこの女の子が静かに目を開けてしまった。
マルセロ博士は急に彼女が目覚めたので少し焦った。
しかしジョンは冷静に全身麻酔を投与しようとする彼を制止した。
それからシルクのいとこの女の子はぼんやりとした表情で
ジョンの顔とマルセロ博士の顔を見た。
「ここは何処?貴方の家なの?」
しばらくマルセロ博士とジョンはお互いの顔を見合わせた。
「そうだ!ここは僕の家だ!その……巻き込んで済まなかった……」
ジョンは申し訳なさそうにキョトンとしているシルクのいとこの女の子の顔を見た。
「はあ―まったく!それで!どうするつもりじゃ?」
「ただ眠らせておくだけじゃ!ワクチンの効果は分からない。
例のちゃんとしたミユキと同じ厳重なセキュリティの隠し部屋に移そう!
何かあったら僕に知らせればいい!」
「構わん!じゃが!自分の立場は分かっておろうな?」
そう言うとマルセロ博士はジョンの鼻先まで顔を近づけた。
その瞬間、ジョンは自分のお腹が鳴った。思わずゴクリと喉を鳴らした。
「ああ、それは一番分かっているよ!当然だよ!人間じゃないとね!」
「分かっておるならよろしい!実験体じゃ!捕食もセックスも当然!」
「禁止なんだろ?分かっているさ!闇合成で空腹は抑えてある。」
「話すだけなら。思い出がもしまだ残っていればの話じゃが!」
それからシルクのいとこの女の子は狭い手術部屋から厳重な
セキュリティが仕掛けられた隠し部屋に移された。
隔離部屋内でジョンとシルクのいとこと女の子は
とりあえず部屋の中央にある真っ白な清潔な白いシーツのベッドの上に座った。
周囲は白い壁と床と天井に覆われており、幾つか漫画の並んだ棚があった。
シルクのいとこの女の子はジョンの顔を見た。
「まさか?この家で再会するなんてね!」
「ああ、正直!僕も驚いたよ!まさか僕の家で会うなんて!」
ジョンは自分のお腹の音が気になり何処かよそよそしかった。
僕は最初に思い出した『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』
のゲームを一緒にプレイした時、以外の思い出がないか他に思い出そうとした。
しかしその『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』のゲームをプレイした
以外の思い出は何一つ、何も、一切、全く思い出せなかった。
しかも自分が数年前に彼女にちゃんと伝えたかった事も全く思い出せなくなっていた。
そうかー。僕は純粋な人間じゃない!僕の魂はー。
もう魔獣ホラーに憑依された瞬間!僕は―。僕はー。
「ダメだ!僕は思い出で君を愛せない!御免!御免な!
僕はもう行くよ!話せる事は何もない!」
「えっ?えっ?急にどうしたの?待って!待って!もっと話そうよ!」
シルクのいとこの女の子は隔離部屋から逃げるように出て行く
ジョンを引き留めようとした。しかしジョンは何も答えず無言で隔離部屋を後にした。
そして一人ぼっちで隔離部屋に取り残されたシルクのいとこの女の子は寂しくなった。
 
(第39楽章に続く)