(第37楽章)抑制のきかない野獣の本能と檻の中の獣

(第37楽章)抑制のきかない野獣の本能と檻の中の獣
 
僕も暴走したミユキに答えようと自分の衣服を脱ごうとした。
だが急に自分のスーツの内側につけている無線機からマルセロ博士の声が聞こえた。
「ジョン!止めた方がいい!
精神も肉体も不安定な状態で自分のお腹に子供を宿したら。
母性本能と子供を守る本能からますます
凶暴化して最悪の事態も考えなければならんぞ!
ジョン!確かに貴方様は……あのメシアの涙のエイリスに与えられた『闇の魔導書』
を利用して自分を転生させた見返りにメシアの涙のエイリスから
多数の若い人間の女と交わり、人間と魔獣ホラーの混血児を
多数産み出すと言う役割を与えられておる。
既にHCFのリー・マーラとの間の子供のみではなく大勢のシモンズ家の
若い娘達や若い研究員の女性や若いメイド達の間に沢山の子供がいるし!
最近ならG変異株とデモニックジーン(悪魔遺伝子)を組み合わせた
『ダークエンジェル』を投与して幸運にも精神も肉体が安定したあの
最初の実験体のレイチェル・フォリーとの間にも子供がおるじゃろ?
これ以上!芳賀真理や大勢のシモンズ家の若い娘達や若い研究員の
女性や若いメイド達を困らせてはその彼女達も自分も困るのではないかのう?」
僕は思わず「何を!」とムッとなった。しかし彼の言う事は一理ある。
実際、既に真理は自分の子供とリーと僕の子供の世話で精一杯だろう。
またレイチェルだってシモンズ家の若い娘達や若い研究員の
女性や若いメイド達だって僕の子供を育てている最中だ。
そう考えつつもジョンは実験体の女のミユキの顔と姿を良く見た。
彼女は胸元まで伸びた2対の茶髪の三つ編みのツインテール
前髪は2対の細長い茶髪。真っ直ぐに並んだ茶色の細長い眉毛。
赤のアイシャドーの付いた瞼。ピンと上向きになった細長いまつ毛。
低い丸っこい鼻と宝石のような茶色の瞳。
やがて口元を緩めてピンク色の唇の左右を上げた。
そして白い前歯を見せてにっこりと笑った。
ジョンはミユキの白い肌の両肩に優しく両手を置いた。
「すまない!これ以上!真理やメイド達を困らせたくはないんだ!」
ジョンは申し訳なさそうに両手から強力な電撃を放った。
ミユキは全身を痙攣させ、甲高い声で絶叫した後、石畳の床に倒れて動かなくなった。
そこにマルセロ博士と医療チームが駆け付けてようやく暴走したミユキを捕獲した。
それからセキュリティの厳重な隔離部屋に閉じ込められた。

再びセントラルパークの広場。
続けて鋼牙とジルとの間に距離を置き、再び獣の10つん這いの状態で着地した
魔獣ホラー・バエルは今度は分厚い外骨格に覆われた亀の甲羅の形をした
10対の手の甲を発光させ、コンクリートの床から赤紫色に輝く
カッターナイフの形をした紫色の風を二つ放った。
放たれた赤紫色に輝くカッターナイフの形をした風は鋼牙とジルの
黄金の鎧と黒い縞模様の緑の鎧を切り刻んだ。
ジルと鋼牙は周囲に大量の緑と黄金のメッキをまき散らし、
グルグルと左右同時にコマのように身体を回転させ、コンクリートの床に倒れた。
勿論すぐにジルと鋼牙は立ち上がった。
するとバエルはさらに追い打ちをかけるように再びコンクリートの床から
バリツ!と赤紫色に輝く巨大な氷河の柱を2本発生させた。
ジルと鋼牙は動く間も無くその2本の巨大な氷河に閉じ込められた。
たちまちジルと鋼牙は動きを完全に封じ込まれた。
続けてバエルは頭部の8つのオレンジ色の眼球の黒い瞳孔をカッと見開いた。
ピチュウウウウウウン!と言う大きな爆発音と共に太陽と同じ温度の
高熱を発生させて強力な爆風でジルと鋼牙を攻撃した。
そしてまともに胸部に太陽と同じ温度の爆発を喰らったジルは右斜めに。
鋼牙は左斜めにまた周囲に大量の緑と黄金のメッキをまき散らしながら
それぞれ吹っ飛ばされ、仰向けに転倒した。
それでも鋼牙とジルはフラフラと立ち上がった。
しかし時々、周囲に緑と黄金のメッキをまき散らしていた。
魔獣ホラー・バエルの攻撃にジルも鋼牙もかなりのダメージを負っていた。
それを見た魔獣ホラー・バエル事、アレックスはジルと鋼牙が周囲に
大量の緑と黄金のメッキをまき散らしながらもフラフラと
立ち上がった様子を見てさらに攻撃のチャンスだと解釈した。
鋼牙事、黄金騎士ガロは必ず食い殺すとしてジル・バレンタインは・・・・。
そう、彼は本能的に理解はしていた。俺や他の沢山の魔獣ホラーを産み直し、
転生させた寄る辺の女神、俺達メシア一族の母上、
始祖ホラー・メシア、ギャノンやエイリス様と同じ存在だ。
それでも俺は最初に会った頃からの欲望を抑えられないでいる。
俺はさっきの日本人の婦人警官とアイルランドアメリカ人で
ヤルのを終わらせようと思っていた。
しかしあの女の同族のアグトゥルスの舞台で初めて会った時に感じた
『ヤリたい』と言う強い欲望の陰我が再び俺の邪心を支配したのだ。
そう!本当は俺もあの女とヤリたいから魔獣ホラー・バエルになったんだ!!
でも他にも邪心とは別の何かが沸き上がって来る。
シャノン・カエデ・マルコヴィアやエミリー・スタートあの二人は
DV(ドメスティックバイオレンス)やレイプする男達の血肉魂を
喰らってあの女二人を助けた事。2人を守りたいと言う特別な強い感情。
俺の中で善と悪がぶつかり合っている!
それはあのヨハン・ヴォルフガングフォン・ゲーテファウスト
主人公のファウスト博士の5文のように。
『己の胸には2つの衝動が棲んでいて、お互い離れ離れになろうとしている。
一つは激しい欲情でこの現世にしっかりとしがみついているのだが。
もう一方はぜひ塵界(じんかい)を離れて偉大な
先人の在す境界へ昇って行こうとしている』と。
でも俺が勝ったのは激しい欲情だった。
別に塵界(じんかい)になど行きたくないし、偉大な先人会おうとも思わない。
俺はこの現世で人を乱暴な男を喰らい、たくさんの女とセックスする。
それが俺の決めた生き方だ!でも?それで本当に幸せなのか?
いやいや!それが幸せに決まっている!だからまずは冴島鋼牙を殺し!
ジル・バレンタインを激しく望むがままセックスをする!
それが今の目的だ!だから俺は負けるつもりは無い!
死ねええっ!黄金騎士ガロ!冴島鋼牙!
魔獣ホラー・バエル事、俺は頭部と胸部が一体化した巨大な口を大きく開いた。
それからまだ足元はフラフラしている鋼牙に向かって物凄いスピードで突進した。
「鋼牙!危ないっ!」とジルは直ぐに鋼牙に呼び掛けた。
そして慌てて鋼牙は横跳びした。
しかし魔獣ホラー・バエルは首を激しく振り、鋼牙に執拗に襲い掛かった。
続けて頭部と胸部が一体化した巨大な口からまるでカメレオンのように
ピンク色の太く長い円形の舌を素早く伸ばした。
鋼牙は咄嗟にコンクリートに床を踏み、
ジャンプしてさらに後退して回避しようとした。
しかし魔獣ホラー・バエルの口内から伸びたピンク色の太い長い円形の舌は鋼牙の
予想以上にさらに伸びた。そしてとうとうピンク色の太く長い円形の舌の先端の
数百もの細かな牙を鋼牙の分厚い狼を象った黄金のガロの鎧の胸部に
バコッ!バリッ!と深々に突き刺して噛みついた。
「ぐあああっ!ぐっ!」と鋼牙は胸部の激痛で呻き声を上げた。
更に魔獣ホラー・バエルはピンク色の太く長い円形の舌を瞬時に引っ込めた。
すると鋼牙は物凄い力で引っ張られ、頭部と胸部が一体化した
巨大な口の中に上半身をほとんど飲み込まれた。
同時に口内の無数の巨大な鋏角と下顎の鋭い牙を分厚い黄金騎士ガロの
上半身に次々と突き立てて、激しく左右に振り回し、噛み砕こうとした。
その為、鋼牙のガロの鎧はミシミシバキバキと激しく軋む音と
潰れる音が夜空に響き渡り、魔獣ホラー・バエルの
強力な顎の力によって危うく押し潰されそうになった。
「ぐああああああっ!ぐおおおおおおっ!がああああああっ!ぐあああっ!」
魔獣ホラー・バエルは更に上下左右の顎の力を加えた。
そして確実に鋼牙を黄金騎士ガロの鎧と肉体ごと噛み砕こうとした。
鋼牙は牙浪剣で反撃しようと試みるが魔獣ホラー・バエルの巨大な口で上半身と
黄金の分厚い鎧に覆われた両腕は肘の辺りまで飲み込まれて、自由に関節を動かせず
牙浪剣を振って切る事も刺す事も出来なかった。
鋼牙は成す術無く黄金の分厚い鎧に覆われた
両脚をバタバタ上下に振り回し抵抗し続けた。
「鋼牙!」とジルは叫び、素早くコンクリートの床を力強く踏みしめ走り出した。
それから素早く魔獣ホラー・バエルの真横から一気に接近した。
同時にドン!と大きく高くジャンプした。
続けてジルは緑色の分厚い鎧に覆われた右腕を上空へ思いっ切り振り上げた。
更に右手の甲から伸びた七色に輝く魚のヒレの形をした無数の鋭利なカッターが並んだ
アームカッターを右腕を振り下ろしたと同時に魔獣ホラー・バエルの右側の
赤白い分厚い鎧のような外骨格に覆われた皮膚をバリバリと音を立てて
背中から横腹の下部まで一直線に一気に切り裂いた。
魔獣ホラー・バエルは勢い良く上半身まで飲み込み、
まさに噛み砕かんとした黄金騎士ガロ、冴島鋼牙を吐き出した。
鋼牙は全身の黄金の鎧からシュシュシュと音を立てて強酸によって
白い煙を吹き出しながら吹っ飛ばされた。
そしてガツン!と街灯の茶色の鉄の柱に衝突した。
同時に街灯は根元からポッキリとへし折れた。
へし折れた街灯の柱はコンクリートの床にガン!と音を立てて倒れた。
鋼牙はどうにか立ち上がろうとした。
しかし激しく足元はふらつき、けつまずき今にも倒れそうになった。
そんな中、魔導輪ザルバもケホケホ!グフッ!グフッ!オエッ!と
咳き込み今にも吐きそうな声を上げた。
「うーっ!助かったぜ!危うく俺様達噛み砕かれるところだ!」
鋼牙はザルバの言葉に返事する暇がなかった。
彼は自ら意志でコンクリートの床に立ち続けるのに精一杯だった。
なんとか鋼牙は牙浪剣を握り締め、両脚を踏ん張り立ち続けた。
魔獣ホラー・バエルはまたガバッと
無数の巨大な鋏角と下顎の鋭い牙を上下左右に開いた。
そしてまた鋼牙に噛みついて今度こそ噛み砕いて、消化液で溶かして丸飲みにして
生きたまま喰らおうと物凄い速さで突進して来た。しかし何度も同じ攻撃を
まともに受ける程、間抜けではない。鋼牙は冷静に両手で牙浪剣をしっかりと構えた。
続けて魔獣ホラー・バエルが再び鋼牙の上半身を飲み込もうと巨大な口を開けて
突進して来たの見計らい雄叫びを上げた。
「おおおおおおおおおおおおっ!」
鋼牙は渾身の力で牙浪剣を両手で握ったまま素早く両肘を伸ばした。
同時に牙浪剣の黄金の両刃の鋭い先端は
円形の数百もの細かな牙の中央を見事刺し貫いた。
更に牙浪剣はどんどん太く長い舌の先端を貫き、やがて喉奥にまで達した。
「ぐっ!ぐえええええええええええっ!ピイイイイイイン!」
魔獣ホラー・バエルは激痛でもがき苦しんだ。
甲高い叫び声は夜空の空気を激しく震わせた。
それから魔獣ホラー・バエルは身動きが取れなくなった。
だがそれは黄金騎士ガロ、冴島鋼牙も同じだった。
「今だ!ジル!攻撃しろ!奴を封印するんだ!」
「お願いだ!早いところ止めを刺してくれ!あれは最悪だ!」
「ああ、そうだな!よし!ジル今だ!一気に止めを刺せ!」
「ええ、分かったわ!これで一気に決めてやる!」
ジルは再び緑色棒熱い鎧に覆われた右腕を上空に思いっきり振り上げた。
続けてまたドン!と夜空高くジャンプした。
「ウニャアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
ジルは野獣の咆哮を上げて右手の甲と左手の甲から伸びた七色の魚のヒレの形をした
無数の鋭利なカッターが並んだアームカッターを勢いよく振り下ろそうとした。
しかし次の瞬間、突然、ジルはまるで車の跳ねられたような強い衝撃が走った。
思わずジルは胸が苦しくなり「ウッ!」と声を上げた。
そしてジルは空高い場所でまるで壁画のように静止した。
ジルは体を動かそうとした。しかしまるで金縛りにでもあったか
のように全身の神経が全く言う事を聞かなくなっていた。
「どうなっているの?動かないっ!」ジルは激しく動揺し、焦った。
 
(第38楽章に続く)