(第52章)乗組員の不安

こんにちは畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第52章)乗組員の不安

 地球防衛軍のオペレージョン室ではニックとグレンが徹夜で、
昨日から大気圏に突入し、かなり高い地球上空を飛行している
Ⅹ星人のマザーシップを監視する為に、レーダーやモニター画面を睨みつけ、
何か動きが無いか見ていたが、全く動きが無く、
ニックはとうとう徹夜で疲れ、大あくびして、
背伸びをして後ろに背中を仰け反らせた時、上下逆の視点で髪の長い女性が目に入った。
ニックは慌てて起き上がり、その通りかがリの女性オペレーターに赤いTシャツを捲り、黒い肌を見せ、
「ねえ?俺と付き合わない?」
女性は苦笑いを浮かべ
「サボっちゃ駄目よ!監視兵さん!」
とニックの後ろを通り過ぎた。
しかしニックは諦めず、女性の後ろ姿から
「ねえ?実は俺の親父は日本の怪獣映画に出ていた俳優のニック・アダムスだぜ!」
と必死に呼びかけたものの、すぐに女性は自動ドアから姿を消した。
「アハハハ!無理だって!やめとけ!あまりみんな知らないだろ?
お前が親父と全く同じ名前を息子に付けたと言う事も!」
と腹の底から笑いグレンが言った。
「そう言うお前はどうだ?」
とふてくされた表情でニックに言った。
今度は女性オペレーターのアヤノが通りかかるのを見たニックは
「ねえアヤノちゃん?付き合おうよ!実は俺の親父は昔、地球連合局の宇宙飛行士だったんだぜ!」
アヤノはふと足を止め、
「そんな事……ここにいる皆が知っている事よ!」
とメガネを掛け直し、
「今!忙しいの!ジェレルの様子を見に行かないと!付き合っている人がいるからあたしはパスね!」
と言い、ニックがナンパした女性と同じく入り口の自動ドアから出て行った。
するとグレンはさっきのお返しと言わんばかりにけたたましい声で笑い始めた。
「オイオイ!幾らなんでもすでに彼氏がいる女は無謀だよ!」
「無謀なもんか!計算外の恋はあり得るだろ!」
「えっ?君の親父みたいに?」
すると突然ニックは暗い表情になった。
グレンは慌てて
「スマン……悪かった!悪ふざけが過ぎたよ……」
と謝罪した。
「いいさ!でも……親父がうらやましいなあ~」
「Ⅹ星人の女性と恋したんだってな?」
「でも……片思いだった……親父の話では、
Ⅹ星人の彼女はⅩ星人統制官に、地球侵略の邪魔にならないようにと命令されて、
親父を監視していたけど!いつしか愛し合うようになって、
最後はⅩ星人の統制官に親父の目の前で殺されたらしい……」
「墓はあるんだろ?」
「ああ!当時の場所に!慰霊碑もあるんだ!」
「司令官も知っているだろ?
『彼女は地球を救ったこの世で美しいⅩ星人の女性』として伝説になっているんだ!」
「当時は大反響で!彼女と宇宙飛行士の話は本に映画にTVドラマにもなったんだ!」
「知ってるよ!怪獣大戦争や宇宙ロミオとジュエリットってタイトルだろ?」
「そう言えば?波川司令の名前も同じだな?」
「波川司令の両親もそのドラマのファンで娘にも同じ名前を付けたとか?」
「あと神宮寺博士は昔、旧地球防衛軍の艦長の息子さんだとか?」
「へえ~案外面白いな!」
それからグレンとニックはしばらく世間話をした後、監視の仕事をようやく再開したが、
やはり相変わらず大きな動きは無く、アメリカ付近の上空でピッタリと静止したままだった。

「それで?その幻覚を見てどう感じたの?」
とカウンセラーは、元M機関のミュータントで現在は
『スピーシ・バック』に所属しているジェレルに尋ねた。
ジェレルは3年前、北海道網走市厚生病院内で起こった
ロシアのノスフェラトゥグループのレイと名乗るロシア人女性に誘拐された時、
病院の空き部屋に監禁され、両手足を柱に縛り上げられて、危うく殺される所だった。
 幸いにもアヤノが駆け付け、ジェレルは殺されずに済んだ。
 それから逃亡しようとしたレイは突然割り込んで来た
テロリストのノスフェラトゥの仲間に射殺されたかに見えたが、
実は生きていて……現在はロシアの地球防衛軍の本部にいるらしい。
 しかしあれ以来、ジェレルはレイに襲われた事がトラウマになり、
現在も度々見る悪夢に頭を悩ませていた。
ジェレルはカウンセラーの質問を聞いて
「恐怖です!」
と即答した。
「まだ……あなたの彼女のアヤノさんがノスフェラトゥの宇宙人だと?」
とカウンセラー。
「うん!いや!思っていません!ただ!不安で……」
とジェレルは何度も首を上下左右に振り、答えた。
「あなたは極度な不安状態に陥っているみたい、分かるわね?」
「分かります!」
「だからアヤノさんがノスフェラトゥだったらと思うと不安で仕方がないのね?」
「そうです!」
更に続けてジェレルは
「なんで?僕がこんな目に遭わなきゃいけないんですか?
あいつ!ロシアのテロリストの奴がノスフェラトゥだったせいで!
まともな恋愛はおろか!自分の人生さえままならないんです!」
と思わず興奮し、大声を上げた。
「落ち着きなさい!大きく深呼吸をして……私の話を聞いて!」
しかしジェレルは我慢がならず
「それに!あいつらが作ったM塩基破壊兵器のおかげで!
みんなもミュータントが絶滅するのではないかと不安なんです!だから……」
「今流行している例のゲームの事ね!」
「はい!一種の恋愛ゲームみたいで……
この本部にいる女性関係者をランク付けしているとか?
高いランクの女性と恋愛まで発展したらポイントが何点とか?」
カウンセラーは大きくため息をつき、
「みんな心の奥に抱えている不安を何とか紛らわせたいのね……」
「だから寮とか?あっちこっちで女性職員をナンパする男性職員や軍人達を見かけます!
でもあの恋愛ゲームは危険過ぎます!
万が一!女性職員の中にノスフェラトゥのスパイが混じっていたら!なんとかして!止めさせないと!」
「大丈夫よ!ここはセキュリティも強化されているし、全員遺伝子検査も受けているわ!」
「遺伝子検査?そんなの!アテになりませんよ!あいつらは頭がいい!
医者や分子生物学者に化けて幾らでも遺伝子検査の記録を誤魔化せます!」
「確かにそうかもしれないけど……心配し過ぎよ!そんな事はあたしたちに任せておいて」
「でも……先生……」
とジェレルは落ち着かない口調で言った。

(第53章に続く)

では♪♪