(第73章)『亀裂』と『バグ』

こんにちは畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第73章)『亀裂』と『バグ』

 東京の山岸の自宅。
「彼女はもしかしたら?またゴジラに恋に落ちたのかも?でも今回は無いな、さすがに!」
と山岸は、未だに帰って来る予定の無い凛について考えながらある科学雑誌を読んでいた。
 彼はその科学雑誌のページをめくると強く興味を惹かれた記事を見つけた。
山岸が強く興味をひかれた記事のタイトルは
「怪獣は現実と空想の狭間に出来た時空の亀裂から来た生物だ!?」である。
その記事によれば、数日前、初代ゴジラが出現したビギニ環礁の海底から
時空の亀裂に似たものが発見されたという。
更にその時空の亀裂からは強力な磁場と未知の素粒子が何種類も発見されている。
しかもその磁場の発生時期を調査した結果、なんと初代ゴジラが出現した
1954年に発生したものだと分かった。
 他にもシベリア、ドイツ、アメリカ、フランス等世界中の海底や上空、海、山、
その他様々な地形や場所で頻繁に確認されている事が分かった。
 その時空の亀裂の先に『怪獣世界』があるのでは無いかと憶測を立てている
分子生物学者達がいる事も、今回の科学雑誌の取材により、判明している。
 もしそれが事実だとすれば『怪獣世界』は実在する事になる。
 『怪獣世界』に通じる時空の亀裂が発生する原因はまだ解明されていないが、
考えられる要因として、例えば1954年にビギニ環礁に投下した水爆による
放射線や強烈な爆発エネルギーによる突風で、時空の亀裂に似た現象が発生し、
そこからゴジラアンギラス等の怪獣達が現代に現れたのではないか?
 だとすればそれ以来怪獣が大量発生した理由も説明できると生物学者や物理学者達は考えているが、
それらは今後の調査で明らかにされるだろう。
 現時点で言える事は『怪獣世界』は我々が住んでいる現実とも違い、
空想の死後の世界とも思えるまさに未知の世界なのだから……」
と記事を最後まで読み終えた時、机で絵を描いていた
瑠璃が急に山岸に
「お馬さんの番組が見たい。」
とテレビをせがみ、山岸は雑誌を机に置き、テレビのスイッチを入れた。
 テレビにはお馬さんの番組、つまり競馬番組が放送されていた。
 ちなみに瑠璃は洋子が行方不明になり、蓮も母親の優香も多忙で瑠璃の世話が出来ない為、
蓮は山岸に頼みこみ、数日だけ瑠璃を預けられていた。
 瑠璃は楽しそうな表情で競馬に登場する数頭の馬の絵を描きながらテレビの競馬番組を見ていた。

 洋子の脳裏に流れた夢らしき地上のシェナンド国立公園で戦いを
続けるゴジラガイガンとジラの映像は続いていた。
それから洋子は急に、しゃべれない筈のジラがしわがれた老人の声で
しゃべり始めたので、思わず心臓がドキッとした。
しかもそのしわがれた声はまるで以前、何度も会ったノスフェラトゥ
考古学者のジョアン=ハスチネイロの声にそっくりだった。
「最初はほんの小さな見えない力による『バグ』によるものだった……
それが!やがて『バグ』が大きくなるにつれて!
普通の生物が次々と『バグ』で怪獣となった!とうとう
『バグ』は大きくなり!人間と怪獣の混血児が生まれてしまったのだ!」
洋子は訳が分からず、本来しゃべれる筈のないジラがジョアン=ハスチネイロ
そっくりなしわがれた声で話すのをただ無言で見ていた。
ジラは話を続けた。
「私が……再び2度も復活を遂げるまでこの『バグ』は放置され続けた!
しかし!それも今日で終わりだ!アトランティス
代から今回に至るまで放置され続けた『バグ』と共に抹殺する時が来たのだ!」
ちなみにジラの言う『バグ』とは小さな虫、あるいは微生物、
もしくはコンピュータープログラムの誤りや欠陥の事である。
ゴジラ
「貴様は消滅させた筈だ!」
と大きく口を開け、グオォォオオーン!と咆哮するとジラに襲い掛かった。
しかしジラはしわがれた声で
「愚か者め!私は死神であり!『死』そのものなのだ!お前に消滅される程弱くは無い!」
と言うと冷静に身体を回転させ、ゴジラの頭に鞭のように長くしなやかな尾を叩きつけた。
ゴジラは宙を舞い、ガイガンの隣に木々を潰し、土埃を上げ、「ドーン」と落下した。
それからジラはニヤリと笑い
「憎いか?ジラの肉体を借りて再び復活したわしが?」
一方、ゴジラの隣に倒れていたガイガンは小さな「ウイーン」
と言う駆動音を立てて、起き上がると再び赤いモノアイをジラに向けた。
 また場面が変わり、洋子の脳裏にガイガンのモノアイの赤い画面の映像が流れた。
どうやらガイガンのコンピューター画面らしい。
 そこに謎の電波が入り込んだ。ガイガンはその謎の電波を受信した。
 洋子は真剣な表情で「受信中……」と表示され続ける場面を凝視した。
しばらくして赤いモニター画面に
「お前は死んでいるのか?それとも生きているのか?」
と謎のメッセージが表示された。
 しかし赤いモニター画面に「回答不能」と表示された。
 洋子はきっとガイガンのコンピューターが謎のメッセージに回答しているんだと思った。
 彼女の思った通り、ガイガンのモノアイの内側の
赤い画面に謎のメッセージとその回答が続いて表示された。
「生命と死は同一か?」
「回答不能
更に謎のメッセージは続いた。
「では?単なるプログラムの機械でも動いていれば生きているのか?」
ガイガンのコンピューターは「回答不能」と表示した。
洋子は
「なんとも単純作業的な質問と回答かしら?」
とこの奇妙なやり取りをただ茫然と見ていた。
 それからようやく我に返ると静かに目を開け、
起き上がるとまだ茫然首を左右に振り、
まるで機械の様にプールのある広場の周りを見渡した。
その様子を横で美雪と凛はじっと見ていた。
 マークは地面にまるでカエルの様に冷たい広場の床に倒れ、
両腕の関節を外され、ただシクシク泣いていた。
しかし凛はマークを無視し、すぐに洋子に
「何を見たの?」
と静かに質問した。
洋子はまだうつろな目でこう答えた。
「赤い画面が見えて……ジラが東京で何度も会った
老人にそっくりの声でしゃべっていたわ……変な夢……」

(第74章に続く)

では♪♪