(第87章)『大いなる赤き竜と日をまとう女』

こんにちは畑内です。
ゴジラの自作小説です。

(第87章)『大いなる赤き竜と日をまとう女』

 地下研究所アルカドラン爆破まであと3時間。
 東京。
 朝、山岸が銀座に出かける前、山根優香は
娘の山根瑠璃を保育園に行かせる為に迎えに行き、
一度自宅に帰ってから保育園へ連れて行った。
 保育園で山根瑠璃は自宅で途中まで描いていた
 絵を保育室の机に向き合い、一心不乱に描いていた。
 その様子を見ていた瑠璃の担当の保育士の男性は絵に夢中になっている瑠璃の絵を何気なく覗いた。
後に保育園内が大騒ぎになるとは彼も他の保育士達も誰も思ってもいなかった。
男性保育士は彼女が描いた絵を逆さまで見た時
「あれ?何処かで見た事ある絵だぞ?」
と心の中で思い、今度は瑠璃の隣に座り、改めて瑠璃が描いた絵を覗いた瞬間、
目が点になり、口を半開きし、まるで銅像の様に固まった。
 年配の女性保育士が、瑠璃と、口を半開きし、その銅像の様
に固まった保育士の所へ近づくと
「どうしたの?健二さん!何か?」
と言いかけ、瑠璃の描いた絵が目に入った途端、健二と同様、
口を半開きにして、同じく中腰のまま銅像の様に固まった。
瑠璃はそんな二人を心配したのか
「どうしたの?」
と尋ねた。
その時、年配の女性保育士は急に
「この子は天才よおおおおおっ!」
と瑠璃の絵を指さしながら急に大声を上げたので瑠璃は何事かとびっくりし、
唖然としたままその年配の保育士の顔を見た。
 瑠璃が描いたのは、大きな身体と両腕と両足の筋肉は太くたくましく、
黄色と朱色で美しく生き生きと描かれた後ろ姿の龍だった。
 背景も夕日の様に赤とオレンジで塗られ、
その龍の足元には洋子そっくりの顔の女性が寝そべっていた。
しかもその龍を良く見ると一匹だけでは無かったのだ!
 実は2本の太い一本の鉤爪に似た角を持つ、
別の黄色と朱色で書かれた龍が、僅かズレはあるものの、ほとんど最初に保育
士2人が見た龍のポーズと綺麗に重なっていた。
 3歳の子供が書いたとは思えないほど、
非常に高度な技と発想を持っていた事に2人の保育士は強い衝撃を受けていた。
 しばらくして年配の保育士の声を聞き付け、
大勢の他の保育士達や保育園に預けている子供達がワラワラと集まり、
瑠璃が描いた絵をまじまじと観察した。
保育士達は口々に
「これって?たしか?ウィリアム・ブレイク
『大いなる赤き竜と日をまとう女』にそっくりじゃない?」
「確か?1806年の作品だっけ?」
「そんなものをどうして?この子が?」
「分からない……でも!大したもんだ!」
瑠璃はただ急に人が大勢集まって来たので少し驚いた表情で、
強い衝撃を受けた大勢の保育士達や子供達の顔を茫然と眺めていた。

 アメリカ・アパラチア山脈・シェナンド国立公園。
 ゴジラは、米軍の空爆攻撃により周りが炎と黒い煙で視界が遮られ、ジラの姿を見失っていた。
 黒い煙を破り、ジラの尾がゴジラの背後から襲いかかった。
しかしゴジラは背中の背びれから生えた青白いギザギザの翼を一つに束ね、
そのまま8本の翼でジラの尾を串刺しにした。
 尾からはドス黒い塵と鮮血が貫かれた尾の上下から噴水のように噴出した。
そして貫かれたジラの尾の一部はドス黒い塵となって崩れ、消滅した。
一方、ガイガンの赤いモニター画面には
「目標……検索中……」
と表示された。
しかし洋子の意識は先程、ジラの舌に浮かんだ複数の人の顔が見えた事に動揺を隠せなかった。
「あのジラに浮かんだ人達の顔……
もしかしてあれが?凛ちゃんやウリエル・バラードが言っていた……現実と空想の狭間の
怪獣世界に取り残されたアトランティス大陸の住民達の怨念なの?」と。
 その時、米軍達の空爆による炎や黒い煙が晴れ、木々をなぎ倒し、
苦しみのた打ち回っているジラの姿が見えた。
ガイガンのコンピューターは
「目標発見!攻撃開始……」
「NO!駄目よ!待って!」
と洋子に意識はガイガンのコンピューターに訴えた。
ガイガンのコンピューターは混乱し、赤いモニター画面に
「何故?」
と表示された。
「ジラの体内に人がいるのよ!」
と洋子の意識。
再び赤いモニターに
「複数の人の顔を分析中……」
と表示された。
そうこうしている内にジラは起き上がり、
ガイガンを赤い目で睨みつけると大きくジャンプし、残った死神のカマに似た鋭い
かぎ爪をガイガンの真上から勢い良く振り降ろした。
 ガイガンは素早く真横に避け、危うい所でかわした。
 それからガイガンは再び胸、腹から股間
かけて装備された巨大な回転カッターを回転させ、ジラに突進して行った。
ジラは再び口を開けると口の中の舌の一部が変化し、人の顔が幾つも浮かび上がった。 
その人の顔はそれぞれ思い思いに不気味な男女の声で洋子の
意識に訴える様に
「助けて!」
「死にたくないよ!」
「ここは何処だ??」と。
洋子の意識は
「やっぱり!ジラの体内に取り込まれているのよ!なんとか助けきゃ!」
しかしガイガンのモノアイの赤いモニター画面には
「複数の人の顔を分析中……」
としか表示されず、ガイガンのコンピューターに反応は無かった。
洋子の意識は徐々にイライラした口調になり、
「あれは確かに人の顔で助けを求めているの!!助けてあげなきゃ!!」
ガイガンのコンピューターに訴えた。
しばらくして赤いモニター画面の
「複数の人の顔を分析中……」
の表示が変わり、
「複数の人の顔……分析結果!ジラの身体の一部。『敵』。抹殺!」
と洋子にとってあまりにも非情なメッセージが表示された。
洋子の意識は
「違う!」
ときっぱりと否定した。
しかし赤いモニター画面の
「複数の人の顔……分析結果!ジラの身体の一部。『敵』。抹殺!」
というメッセージは変わらず、何度も繰り返し表示された。
それでも洋子は
「違う!」
と否定し続けた。
「愚かな……今さら死んだ連中に同情するのか?
朱雀の巫女の魂を持つお前が行った殺人の罪を認めないつもりか?」
とジラは耳まで裂けた口で不気味に笑い、洋子の意識に語りかけた。
とうとう洋子の意識は精神的に追い詰められ、悲しみと絶望のあまり
「止めてええええっ!あたしのせいじゃないわ!もう!無理よ!」
とあまりの悲しみに耐えられず絶叫した。

(第88章に続く)

今日はここまでです。
では♪♪