(第5章)プロメテウス・ゴジラ

(第5章)プロメテウス・ゴジラ

12か月前。
は大戸島と言う島の海岸で目覚めた。
最初の記憶は真っ暗闇でとても狭苦しかった。
は呼吸をしたくてそこからもがき、ようやく外に出た。
外も真っ暗で何も見えず、空に数えきれない何かキラキラと光るものが浮いていた。
そのキラキラと光るものは
の身体を映していた。
しかしはまるで生まれたての赤ん坊の様に何も分からなかった。
あの光、液体、粒その全てが不思議だった。
は粒の上を歩き、周りを見渡した。
 遠くに四角いものが幾つも見えた。
そして四角いものから光が漏れていた。
 は四角い透明な窓を覗いた。
するとオスとメスの生き物が抱き合っていた。
彼らはの仲間だろうか?どうやら違うらしい。
何故ならそのオスは驚きこちらをじっと見ながら何か叫び声を上げていた。
メスも同じ叫び声を上げ、オスと何か交信している。
危険を知らせているのだろうか?
 が見たのは人間と言う名前の生き物でオスは男性、
メスは女性として区別されている。
 どうしての姿を見て叫び声を上げたのか?
すぐに水たまりに映った自分の顔を見て理解した。
 はまるで黒い恐竜の様で目はオレンジ色に光っていた。
自分の腕を見ると腕も黒く太くたくましく指先に鋭い爪が5本生えていた。
また人間には無い(見えなかっただけかも?)太くたくましい背びれが生えていた。
 しかし自分が何者で何処から来たのか?は全く思い出せなかった。

 12カ月後の午後12時。大戸島大学病院でソファーに
横になり眠っていた寺川はある夢を見ていた。
 それは今から数年前。
私は、勤務する『帝洋パシフィック製薬会社』
の上層部からある極秘命令を受け、黒いヘリで北海道根室市へ向かった。
 北海道根室市上空に着いた寺川が地上の街を見ると、所々に建物の残骸が転がっていた。
地上の道路では「ウー」と言うサイレンや救急車の
「ピーポーピーポー」と言うサイレンを鳴らし、走っている間を大勢の人々が逃げ回っていた。
 壊れ掛けた建物と炎をバックに背びれを青白く光らせ、ゴジラが暴れ回っている姿がよく見えた。
 数時間後、ゴジラが去った後、私と仲間を乗せた
黒いヘリコプターは瓦礫と化した建物の中に着陸した。
私を含む白衣を着た大勢の医師達は崩れたコンクリートに付着した
手の平サイズのゴジラの細胞をピンセットで取り、シャーレに入れて行った。
寺川は夢から覚め、静かに目を開け、ソファーから起き上がると既に翌朝の午前、9時だった。
 彼は寝ぼけた顔で灰色の雲に覆われた曇りの天気を窓から眺めた。
それから彼は大きく背伸びしながら
「もう5月なのにどうして天気の悪い日は続くんだろう?」と思った。
 彼はパソコンの電源を付け、立ち上げると文章を書くワード機能を開いた。
それから彼はキーボードでなにやら難しい文章を書き始めた。
「不老不死の研究に必要不可欠なのは、
1954年オキシジェン・デストロイア(水中酸素破壊剤)
により海底で完全に死滅した初代ゴジラの体細胞である。
これは1954年、古生物学者の山根恭平博士率いる
大戸島災害調査団の一人の研究員がたった3個だけ採取。
2030年現在もここ大戸島大学に極秘に初代ゴジラの細胞が液体窒素で冷凍保存されている。
 私は12ヶ月前、『帝洋パシフィック製薬』の上層部から
極秘命令で例の実験の『プロメテウス・ゴジラ』の作成の実験を行った。
何故私かと言うと、アメリカのアパラチア山脈の極秘研究所で行われた
『例の実験』が母子共、自然消滅により死亡が確認され、失敗。
困った帝洋パシフィック製薬の上層部達は私に協力を依頼して来たからである。
 そして『プロメテウス・ゴジラ』の作成に必要な材料が届けられた。
とりあえず、既に初代ゴジラの体細胞はこの大戸島大学病院内にある。
あとは爬虫類(イグアナ、ナイルワニコモドドラゴンのいずれか)
の卵細胞が手に入れば、すぐに実験は可能である。
 私は本社から送られて来たコモドドラゴンの卵細胞と初代ゴジラの体細胞を利用した。
そしてDNA操作による『プロメテウス・ゴジラ』作成の過程で、
初代ゴジラの体細胞からテロメラーゼの活性を自由にコントロールする特殊な物質を偶然発見する。
 テロメラーゼとは人間の寿命の長さを決める
テロメアとは正反対の効果をもたらす酵素のひとつ。
この酵素が生物の体内で高活性化し、テロメアの長さを誤魔化す事で、
生物に不可避的な『死』を強引に延長させ、寿命を延ばす働きがある。
そこで、このテロメラーゼという酵素の活性を自由にコントロールできれば
不老不死になれるのではないかと考えている研究者がいる。」
寺川もその研究者のひとりだった。

(第6章に続く)