(第11章)海底の救世主

(第11章)海底の救世主

 1時40分。
 再び大戸島近海の海底。
 海面ではいくつもの米軍の戦艦があちこち進んでいた。
その海底の岩陰に僕がいた。
僕は太く逞しい腕を伸ばし、鋭いオレンジ色の爪を近くの壁に突き立てて岩陰からの脱出を試みた。
 僕は獣の唸り声を上げた。僕はようやく岩のてっぺんに登った。
 しかし目の前に不気味なトンボの様な複眼が現れた。
僕はその青い不気味な複眼から逃れるように方向を変え、別の岩陰に逃げ込んだ。
しかしまた同じ青い不気味な複眼が現れた。
僕は別の岩陰に逃げ込もうと針路を右に取った。
 すでに周りは米軍の潜水艦が放ったと思われる、大きな青い複眼と
ハサミの様な牙のある下顎、前足に巨大な鋭いハサミを持つ、
体長40mのヤゴの怪獣メガヌロンの群れに包囲されていた。
海面も戦艦や戦闘機に包囲されており、逃げおおせるのは不可能だった。
 それでも僕は諦めず、オレンジ色の目をキョロキョロ見渡し、脱出口を探った。
脱出口は全く見つからなかった。       
                         
 もはやこれまでと諦めかけた僕に救世主が現れた。
登場の仕方も実に豪快では派手だった。
救世主は、僕の目の前の岩壁をバッコオオオオンと大きな音を立てて、破壊した。
その後、救世主は僕と同じたくましい腕で僕の身体を強く抱きしめた。
 一方、米軍が放ったと思われるヤゴ怪獣メガヌロンの群れは、
たちまち僕の救世主が破壊した岩の瓦礫と大量の砂煙になす術も無く飲み込まれた。
 救世主は僕を抱きかかえたまま水面に向かって上昇した。
僕は救世主の顔を見た。僕と同じオレンジ色の瞳で恐竜そっくりの頭部。
間違いない以前、大戸島近海で会ったゴジラだと僕は思った。
 僕を同族だから助けたの?
 そして僕はふと下を覗いた。下は大きな砂煙とブクブクと大きな幾つもの泡に覆われ何も見えなかった。
 しかしその中からゴジラが壊した瓦礫から逃れたメガヌロン2匹が追って来た。
 ゴジラは低く唸り、『運のいい奴らだ!』と思った。
 2匹のメガヌロンは執拗に僕とゴジラを追った。
ゴジラは僕を抱え、再び海底に潜ると迷路の様に入り組んだ海底の岩場に逃げ込んだ。
2匹のメガヌロンもそれぞれ別れ、迷路のように入り組んだ岩場の中に入って行った。
 ゴジラは僕を連れ、迷路の様な岩場を進んだ。
一匹のメガヌロンが2匹のゴジラの前に立ち塞がった。
しかしゴジラは迷う事無く、そのままメガヌロンに突っ込んだ。
メガヌロンは勢いよく吹き飛ばされて、グルグル回転し、
岩場に叩きつけられた拍子にグシャリと潰れ、速やかに絶命した。
 残りは最後の1匹である。ゴジラは僕を連れ、
迷路のような岩場を進んでいる内に最後のメガヌロンに出くわした。
メガヌロンは2匹のゴジラの動きを止めようと、前脚について
いる巨大で鋭利なハサミを2匹に向かって振り降ろした。
ゴジラは身を盾にして、身体を張って僕をメガヌロンのハサミの攻撃から守った。
 僕は怖かった。
 ゴジラはすぐさま背びれを青白く光らせ口から放射熱線を放った。
放射熱線はメガヌロンの不気味な茶色い頭部に命中した。
メガヌロンは大爆発を起こし、バラバラになった。
 ゴジラは海面を見上げた。既にメガヌロンの群れは全滅していた。
 これで安心だ。
 ゴジラには、先程食らったと思われる巨大なハサミ切り裂き攻撃により、
右肩、胸、腹、そして恐竜に似た頭部に長く深い切り傷があった。
しかし深い切り傷は急激に新しい皮膚組織の
形成により、再生していった。その様子を僕は驚きつつも見ていた。
 ゴジラは僕をオレンジ色の瞳を覗いた。
「何故狙われているんだ?」と問いかけるように。
僕は自分が何故狙われたのか分らず、思わず彼の視線から逸らした。
 僕は空洞から薄暗い海底の景色を見た。
 しばらくの沈黙の後、安全を確認しゴジラは僕一人で大丈夫だと思うと、
僕を置いて空洞の外へ出ようと身体を起こした。
その瞬間、僕は黒い鱗で覆われた逞しい腕でゴジラの腕を強く掴んだ。
そして決して放そうとしなかった。
まるで傍にいて欲しいとでも言う様に。
 仕方なくゴジラは再び空洞の岩場に寝転んだ。
 僕はその姿を見て、心臓が早鐘の様に鳴り始めた。
僕がゴジラの胸に耳元を近づけると同じくゴジラの心臓も
「ドックン、ドックン」と早鐘の様に鳴っていた。
僕も同じだった。
 僕は両腕でゴジラの身体に強く抱き付いた。
ゴジラもそれに答えるように僕を強く逞しい両腕で強く抱きしめた。

2時00分。
 大戸島大学内。
 寺川修教授は自分の研究所に戻っていた。
 彼はドアノブに手を伸ばし、鍵で研究所内のドアを開けようとした。
しかしドアの鍵穴は何者かに壊され、軽く押すとドアが開いた。
彼は大慌てで研究所内に飛び込んだ。
 研究所内はあちこちに割れた試験管やガラスの板、
数多くの研究資料が散乱していて酷い有様だった。
そして荒らされた研究所の中を歩き回る内に彼は
米軍から極秘に預けられていた『ある女性の血液内
にあるG抗体と2つの怪獣のDNAに関する資料』
とその女性の血液サンプルが厳重に保管されていた金庫がまるごと盗まれているのに気が付いた。
「まさか……一体誰が?!」
彼はここで起きた現実を受け入れられず、消えた金庫と資料を求めてのろのろと再び探し回った。
しかし金庫も資料もどちらとも二度と見つからなかった。

(第12章に続く)