(第3章)追い返すか?捕獲するか?

第3章)追い返すか?捕獲するか?
 
「きゃあああああああっ!」
アシュリーは絶叫した。
「ヤバい!逃げろおおっ!」
アシュリーの絶叫とグラップの叫び声に反応し、4人は廊下を一目散に駆け出した。
目玉の異生物は4人の目標を見つけると赤い視神経に似た胴体を素早い動きでくねらせ、
赤い4本の触手をまるで昆虫の前脚と後ろ脚の様にカサカサカサカサ!
と交互に前へ前へと動かし、猛スピードで後を追った。
「走れ!走れ!走れ!足を止めたら死ぬぞ!」
ジョナサンは何度も廊下の角を勢いよく曲がりながら後ろのジョーダン達に声を掛け続けた。
グラップも息を切らせ、両足を精一杯、動かし、走り続けた。
アシュリーも泣き晴らした顔で背筋が凍り付き、ただ死に物狂いで走り続けた。
ノートンやジョーダンも今は捕獲どころでは無く逃げるのが精一杯で何も考える事が出来なかった。
息を切らせ、とにかく足を止めたら死ぬとジョナサンに言われ、
死にたくない一心でただ全員、走り続けた。
余りにも一生懸命走り続けているので頭がパニック状態になり、
全員何処を走っているのか見当がつかなかった。
その時、アシュリーが壁の方を見ると、その横に古びた扉があるのが見えた。
彼女は迷わず、その扉を開け中に飛び込んだ。
すると彼女の後ろに続いていたボビーもその扉の中に飛び込もうとした。
しかし彼女は扉を彼の目の前でバタンと閉めた。
「畜生!開けろ!開けやがれ!」
ボビーは拳で古びた扉を何度も叩いた。
しかしすぐ後ろでは目玉の異生物が獲物を求めて追って来ていた。
目玉の異生物は長い口吻を伸ばした。
ぎゃああああああああっ!
ボビーの悲鳴を聞き、前を走っていたグラップが振り向いた。
目玉の異生物は彼の目玉に赤い口吻を深々と突き刺し、ズルズルと彼の脳を吸い取っていた。
既に彼は脳のほとんどを吸い尽され、完全に息絶えていた。
「ボビー!くそったれ!」
グラップは腰のホルスターから拳銃を取り出し、目玉の異生物に向けた。
もう片方の手で拳銃を取り出し、引き金を引いた。
弾丸は目玉の異生物の赤い皮膚に直撃した。
しかし目玉の異生物の皮膚は予想よりも硬く強固で僅かに表面を削っただけに終わった。
くそっ!硬い!
グラップが持っていた拳銃はカチッカチッと音が鳴った。
弾切れだ。
目玉の異生物は次の獲物であるグラップの額に赤い口吻を伸ばした。
赤い口吻は彼の額に突き刺さった。
「ぐっ!ぐわあああああああっ!」
彼は凄まじい絶叫を上げた。
またのジョナサンの言う通り、足を止めた為、死んでしまったのだ。
足を止める事無く、ジョナサン、ジム、ノートン、ジョーダンは長い廊下を走り続ける内に階段が見えた。
「よし!あの…はあ!はあ!階段を上るんだ……」
ジョナサンは一目散に凄まじい足音を立てて階段を脱兎のごとく駆け上がった。
その後にジョーダン、ジム、ノートン、ジョーダンは続いた。
全員、ただただ階段を駆け上り続けた。
やがて2階まで駆け上がるとガラス張りの素粒子加速器のコントロール室に全員飛び込んだ。
そして鍵を掛け、更に重い物を全員協力して手当たり次第集め、ドアを塞いだ。
やがてガンガン!とドアに目玉の異生物の胴体がぶつかる音が聞こえた。
しかし必死に集めた重い物のおかげでドアは少し動いただけで大丈夫だった。
その後、カサカサと言う音がやがて遠ざかり消えた。
どうやら目玉の異生物は扉を突破できずあきらめたらしい。
「助かった……」
ジョナサンは全身の力が抜け、床にぺたりと腰を降ろした。
「危ない所だったな。」
ノートンはハンカチで汗をかいた額を拭いた。
「手汗握る展開だったな。」
ジムとジョーダンは自分の汗でべっとりと濡れた両掌を見た。
彼の心臓は早鐘の様に鳴り、今にもろっ骨を突き破りそうだった。
ジムは顔面蒼白のままノートンにこう質問した。
「奴は脳みそが主な餌なのか?」
「間違いない、奴は人間の脳を食わないと飢えてしまうのだろう。」
まあ、8次元からこの世界に来たばかりだ。
きっと空腹で食料に飢えていても不思議ではない。
だとしたら?目玉の異生物は新たな新鮮な脳を求めて我々を襲うかもしれない。
マックスの脳を食べただけで奴がすぐに満腹になるとは思えないからな。
そう考えた途端、ジムは酷い吐き気に襲われた。
「そう言えばアシュリーは?」
ジョナサンが周りの人達を見てそう言った。
「いや、見ていない、お前はどうだ?」
ジョーダンはノートンに尋ねた。
「グラップとボビーは?」
「さっき後ろで2人の断末魔の絶叫が聞えた。
間違いなく目玉の異生物に殺されたのだろう。」
「ジョーダン!あいつは危険だ!既に3人を殺している!
早くアシュリーを探し出して早くここから逃げるか!
あの忌まわしい目玉の異生物を8次元の世界に追い返さないと!」
ジョナサンの意見に納得がいかないジョーダンはこう反論した。
「何を言っているんだ!死んだ彼も襲われた彼女や君達や死んだ彼らだって!
無防備でどうしようもなかった。
しかし麻酔か何かがあれば!眠らせて捕獲出来る筈だ。」
「だが、仮に捕獲するにしろ、追い返すにしろ。そもそも
どうやって奴を加速器のある部屋に追い込むんだ?」
ジムはジョナサンの質問に自信満々でこう答えた。
「懐中電灯さ!あいつは巨大な眼球がむき出しになっている!」
ジョナサンの提案を聞いたジムは小さい頃、懐中電灯の光が誤って目に入り、
痛い思いをして泣いた記憶が鮮やかに蘇った。
「いい……案だな!そもそもあいつは目を閉じる事が出来ないからかなりの効果がありそうだ」
「馬鹿な話を!捕獲せずに逃がすなんて!あの目玉の異生物は新種の異生物なんだ!
私は何としても捕獲し、私の研究所に運び、目玉の異生物の生態を調査し、学会に発表する。
やがて私は生物学者として有名に成り、巨万の富と名声を得るのだ。
ノートンはそう思っていたが、ジョナサンはジムの話を真剣に聞いていた。
やれやれこれだから一般人は平凡な考えで困るよ。
「あいつはやっぱり人間にとって危険な存在だ!それは間違いないと思う。
だからこそ、皆で力を合わせてあの目玉の異生物をどうにか加速器のある部屋に追い込んで。」
「成程、それでタイミング良く加速器を起動させてワームホールを創り出し、
あの目玉の異生物を8次元の外に放り出す。確かに良い案だな。」
「それは駄目だ!」
「あの目玉の異生物は捕獲しなければならない。」
ジョナサンやジムの意見に納得がいかず、ジョーダンは未だに口をへの字にしてそう反発し続けた。
 
(第4章に続く)