(第34章)凛の正体

(第34章)凛の正体

 凛は凄まじい反射神経で素早く後ろを振り返った。
そして黄金の稲妻を帯びた拳を木製の床に叩きつけた。
その瞬間、ウィルソンは背中に激痛を感じたかと思うと、
彼の足元は無重力状態となり、そのまま物凄いスピードで宙に真っ直ぐ舞い上がった。
木製の天井に激しく衝突したウィルソンは背中や後頭部を激しく強打し、意識を失った。
彼の巨体は哀れにも無重力状態で天井に両手を広げたままのポーズで張り付け同然になったが、
じきに元の重力に戻り、そのまま木製の床に落下した。
凛の右腕に広がった黄金の鱗が人間の皮膚に戻ると同時に、
右手の拳に帯びた黄金の稲妻はスウと消えた。
 覇王は愛する娘の命が無事だったことを知り、ようやく安堵の表情を浮かべた。
「ふうううっ。心臓が凍りつくとはこの事を言うのか……」
凛は2人に向き合うとこう言った。
「心配しないで。まだ生きているわ。」
「いつからこんな能力を?」
「高校生の頃の幻覚能力は無くなったけど。
この能力は大人になってから現れたの。」
人間の姿に戻り、所々火傷を負って意識を失ったままの全裸のウィルソンを見降ろし、凛はそう答えた。
 窓の外でウィルソンと凛・覇王・蓮の戦いの顛末を見ていた
山岸はただ黙っていた。
 幾らなんでも人間やミュータント、ノスフェラトゥでもあんな能力はあり得ない。
彼女の両掌から現れた黄金の巨大な壁は反重力シールド!
なによりあの深紅の瞳から発せられるあの威圧感!
右腕の黄金の鱗の付いた刺青(タトゥ)!そして黄金の稲妻は引力光線!
もしかしたら?愛する僕の彼女の正体がキングギドラでは?
中国人やロシア人のテロリストが彼女を狙い続けていた理由が
今、ようやく分かったよ。
そして凛ちゃんが自分の正体と、テロリスト達に狙われる理由を話すのを頑なに拒み続けた理由も。
お母さんの音無美雪さんは確かに人間で間違いない。
お父さんの覇王圭介さんが
キングギドラで人間の姿を模倣していたんだ。
つまり凛ちゃんはキングギドラのDNAを
持つ無症候性保怪獣者(モンスター・キャリア)。
そう考えれば中学や高校に普通の人間として通い続けられたのも納得が行くな。
それに、あの昆虫、いやメガギラスに似た怪獣に変身したあのアメリカ人。
知り合いでも親戚でもないからよく知らない人だけど。
彼は愛する人デストロイアに殺されたらしい。
彼はデストロイアだけでは無く、ゴジラや怪獣達を憎んでいた。
あの人は怪獣が存在しない世界が平和だと思っていた。
でもゴジラや怪獣、そして怪獣と共存しようと頑張る
善良な人々の命を犠牲にしてまで手に入れた
世界の平和なんて、僕は欲しくない。
彼がしようとしている事は愛する女性を失った悲しみと
怪獣に対する怒りの苦痛から逃避しようとしているだけだ。
凛ちゃんの言う通り、怪獣の存在しない世界は時計じかけのオレンジと同じ。
怪獣達もみな、この世界で懸命に生きて命を繋げようと日々努力している。
そう誰も怪獣の命を簡単に奪う権利なんてない。
山岸雄介は心の底でそう思わずにはいられなかった。

 大戸島近海。
 ハッ!と初代ゴジラのクローンはオレンジ色の目を開けて目覚めた。
周りを見るとそこは無人島の大きな洞窟だった。
そう、あの時、赤い球体から現れた得体の知れない怪獣に襲われて。
右腕に槍みたいなものを刺されて、ゴジラが駆け付けてくれて。
槍を引き抜いた時に激痛で僕は失神したんだ。
すぐ隣で座っている全身がボロボロで血まみれのゴジラの姿を見た。
息も荒く、かなり苦しく辛そうだった。
 ゴジラは意識を取り戻した初代ゴジラのクローンの顔を見た。
彼は僕が無事で安心したのか?微かに笑っているように見えた。
でもあの得体の知れない怪獣はまた襲ってくる気なのだろうか?
ゴジラは無理に起き上がろうとする初代ゴジラのクローンの顔をじっと見た。
そのゴジラの表情はまるで『無理をするな。
今じっとしていた方がいい。』と訴えているように見えた。
だが、バアアンと大きな音と共に海岸の砂柱が上がるのが見えた。
まさか?あいつもう僕達の位置が分かったの?
ゴジラは血まみれのまま荒い息を上げて、フラフラと立ち上がった。
駄目!駄目だ。貴方はボロボロで血まみれで
無茶だよ!クソっ!僕がもっと強く勇気さえあれば!
初代ゴジラのクローンは腰や全身に激痛を感じ、
しかも酷い頭痛もあったがどうにか起き上がろうとした。
その瞬間、大きな砂の穴から雄牛の腸に似た胴体が現れた。
そして三角形の兜を被った頭部を露わにした。
リヴァイアサンだ。
青く光る複眼でフラフラのゴジラの姿を見ると
巨大な4つの牙をガバッと開けた。
毒矢を吹き矢の様に放った。
巨大な毒矢は狙い違わずゴジラの心臓に向かって空気を切り、飛んできた。
ゴジラは大きく吠え、背びれを青白く光らせた。
危ない!
初代ゴジラのクローンは歯を食いしばり、
全身の激痛に堪え、素早く身体を起こした。
そしてゴジラをかばうように素早く、ジャンプした。
初代ゴジラのクローンは左腕にも激痛を感じた。
左腕には深々とまた巨大な毒針が突き刺さっていた。
初代ゴジラのクローンは力無く倒れた。
両腕に激痛が走り、痛みで激しく吠えた。
ゴジラリヴァイアサンを睨みつけると大きく怒りの咆哮を上げた。
ゴジラは砂地を蹴って、大きく飛び上がった。
しかしリヴァイアサン
尾の先端の電気発生器官から赤い光弾を放った。
赤い光弾はゴジラの心臓に直撃し、胸が詰まり、全身の力が抜けた。
だが、ゴジラは両手の
爪を砂に食い込ませ、拳を握った。
僕は激痛で涙目になりつつも、自分の両腕を見た瞬間、背筋が凍りついた。
なんと大きな青い腫瘍が急激に両肩から
両腕にかけての皮膚に広がりつつあった。
うっ!うわあああああああっ!
僕は気が遠くなりそうな激痛と共に激しい死の恐怖に駆られた。

(第35章に続く)