(第9章)吸血

(第9章)吸血
 
牙浪の世界。
白いスーツの男は口を大きく開けた。
続けて上顎の4対の鋭利な細長い牙を邪美の首筋に突き刺した。
その後、彼は彼女の首筋の太い血管からズルズルと
大きな音を立てて大量の血を吸った。
しばらくして彼女は全身が徐々に熱くなるのを感じた。
彼女は荒い息を吐き、額にしわを寄せた。
微かに喘ぎ声を上げ、黒い服に覆われた大きな丸い両胸を
上下に何度も大きく激しく痙攣させた。
白いスーツの男は邪美の黒い服に覆われた胸を掴んだ。
彼は掌で高鳴っている彼女の心音を感じていた。
君の心臓、息、声が奏でるその美しい性欲の旋律は素晴らしい!芸術的だ。
邪美は両目を見開き、額にしわを寄せた。
そして次第に激しく荒々しく息を吐き、喘ぎ声を上げ続けた。
「あっ!あっ!あっ!あっ!もっと!吸ってくれ!
もっと!吸って!あっ!あああっ!」
「いや、これ以上、血を吸ったら君は確実に死ぬ。」
白いスーツの男は鋭利な4対の細長い牙を邪美の首筋から離した。
彼は意識を失った邪美を両手で抱え、地面に寝かせた。
さらに白いスーツの男はこう質問した。
「ところでドラキュラの作者のブラム・ストーカー氏と
面識のあるホラーは誰かね?」
白いスーツの男は白い霧に姿を変え、空高く飛び去った。
「どこへ行ったんでしよう?邪美法師!
今、烈花さんやBSAAの仲間達が大変なのに」
鈴法師は閑岱の森の中の草木を掻き分け、邪美法師を探していた。
やがて1m先の木陰に黒い服に太腿を露出した両脚。
長いポニーテールの髪の女性が地面に座りこんでいるのが見えた。
「まさか……邪美法師?」
鈴は大慌てで草木を掻き分け、邪美法師らしき女性の方へ走って行った。
「邪美法師!大変……一体何が……」
彼女の首筋には4対の深い刺し傷があり、
血が首筋から赤い線となって流れていた。
目覚めた邪美は顔を真っ赤にしていた。
そして茫然と鈴の顔を見ていた。
「ねえ。」
「なっ。なんでしようか?師匠?」
「ドラキュラの作者のブラム・ストーカー氏
面識のあるホラーは誰なの?」
鈴は邪美の質問の答えが何なのか?全く見当が付かなかった。
しょうがないので質問の答えを考えつつも
彼女を連れ、閑岱の小屋に戻った。
その後、邪美の噛まれた傷口から採取した
血液から特殊なホラーの毒を発見していた。
どうやらこの毒は人間の性的興奮を誘発させる作用があるようだ。
しかも体内に残った毒の作用は極めて短いようで噛まれてから
約30分から50分程、人間の体内に残留した後、自然に消滅するようだ。
これは命に関わる危険な素体ホラーの血に含まれている毒とも
レギュレイスの毒とも違う。
まさか?この閑岱に奴が現われたと言うの?あの伝説の伯爵ホラーが……。
 
バイオの世界。
ラクリ達は烈花を見つけると一斉に彼女の方に向かって行った。
烈花は太ももを上げ前転した。
続けて魔導筆を両手で構えた。
彼女の周囲は大量の水が何処からともなく現れ、円形に寄り集まった。
「はあっ!」
烈花の掛け声と共に魔導筆を差し出した。
魔導筆の先から象に似た長い鼻と
2本の牙を持つ金魚に似た奇妙な魚の稚魚を放った。
放たれた奇妙な魚の稚魚の群れは三手に別れ、
次々と三体のカラクリの全身を包みこんだ。
やがて奇妙なギィ!ギィ!と言う声を上げ、
次々とカラクリは爆四散した。
パーカーは呆けた顔で見ていた。
クエントは烈花に会えたのがよほど嬉しかったのか
真っ先に烈花のところに駆け出した。
「おい!まて!やれやれ!猫にマタタビ
PCの次は烈花って名前の女の子か?」
しかし二人の前に残り、7体のカラクリが立ち塞がった。
「おっと!まだいましたっけ?」
クエントはマグナムの代わりにハンドガンを取り出した。
どいて下さい!邪魔しないで!
クエントは引き金を連続で引いた。
しかしカラクリはハンドガンの弾を右腕、左腕、
頭部に受けても全く平気らしく倒れる事さえしなかった。
「くそっ!どうすれば!」
すると烈花が黄金に光る矢尻の形をした装飾品を投げた。
クエントはそれを受け取った。
「それを貼ってくれ!そうすれば!
こいつらを封印できる筈だ!何でもいい!武器に!」
烈花は剣状の漁出を振り上げて襲い掛かる
ラクリの攻撃を回避しつつもそう叫んだ。
クエントはその黄金に光る矢尻の形をした
装飾品をハンドガンに張り付けた。
そして次々と引き金を引いた。
ハンドガンの弾は烈花を取り囲んでいた5体のカラクリに直撃した。
5体のカラクリ達は暫くギッ!ギッ!と音を立てて動いていた。
やがてカラクリ達は苦しみ出し、ハンドガンの弾から溢れる
黄金の輝きがカラクリ達を次々と爆四散した。
「うおおおっ!四散した!」
「こりゃ?どうなってんだ?」
「やった!」
残りのカラクリも何が起こったのか分からず
首を何度も傾げ、キョトンとしていた。
その時、烈花は棒立ちになっているカラクリ達の隙を付き、
太ももを上げ、前転し、魔導筆を胸元で構えた。
「はあっ!」と気合を入れ、魔導筆の先端から
び大量の奇妙な魚の稚魚の群れを放った。
放たれた大量の奇妙な魚の稚魚の群れは
1匹のカラクリの全身を覆い、爆四散した。
ふいに烈花は全身の力が抜け、その場に右膝を付いた。
「烈花さん!」
クエントとパーカーは彼女の元へ駆け寄った。
ふと見ると最後のカラクリは何故か機能が停止していた。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、どうやら俺もまだまだらしい。」
「ところでこれはなんですか?」
クエントはハンドガンに張り付けられた黄金の矢尻の装飾品を見せた。
「それは俺の家に伝わるお守りで、これは鋼の牙と呼ばれている。」
「鋼の牙ですか?」
その時、一時停止していた最後の一匹のカラクリが突如、苦しみ出した。
「うわあああっ!どうなっているのでしよう?」
「おっ!俺に聞くなよ!」
「パーカー!クエント!気付けろ!」
苦しんでいたカラクリはいきなり、黒傘を被った大男の姿に早変わりした。
「お前は!レギュレイス!」
「なんだ?こいつが親玉でカラクリとやらを操っているのか?」
レギュレイスはしばらく豪華なカジノの周囲を興味津々無表情で見渡した。
周囲にはポーカーをする台。
中央の部屋にある大きな噴水とスロット台。
カジノと英語で書かれた看板、見るのは全て初めてである。
レギュレイスは黄色い瞳でクエント、パーカー、
烈花をまるで威圧するように見ていた。
「待って下さい!無闇に突撃したら……」
クエントは止めようと声を掛けたが,彼女は既に駈け出していた。
駆け出した烈花は懐から破邪の剣と呼ばれる小剣を取り出した。
 
(第10章に続く)