(第17章)故障

(第17章)故障
 
バイオの世界。
「へえーこれがお前の言っていたEAの
最恐ホラーゲームとやらか?タイトルは?」
「DEAD SPACS『デッドスペース』と言います。
クエントはPC画面をじっと見ながらマウスで
ポインターをスタートボタンに合わせた。
このゲームのあらすじは以下のとおりである。
時は26世紀、地球の資源が枯渇し、
世界中の国々が宇宙開拓へと乗り出した。
そして2508年、惑星イージス7で
資源を採掘していた採掘艦『USG石村』から
救難信号を受け、主人公アイザックや仲間達が乗る調査船が派遣される。
そこで乗組員達の死体と無数のエイリアンに遭遇し、
工具を駆使して闘い船内の調査をすると言うものである。
それから最初のイベントの後、石村に入るまでをクエントが
PCゲームの操作の仕方を教えつつもサクサク進めた。
それからゲームプレイヤーをクエントから烈花に交代した。
まずはゲーム中のディスプレイ端末と言うものを調べる為、
マウスを使って主人公アイザックを操作した。
最初、烈花は魔戒法師同士で行う、
バルチャスと言うゲームと同じものだと思っていた。
バルチャスと言うゲームは魔界に伝わるチェスのようなゲームである。
ちなみに『バルチャスを制する者は魔戒騎士の資質あり』
と言う格言がある。
多分、このゲームにも
『DEAD SPACSを制する者はエンジニアの資質有り』
と言う格言でもあるのだろう?
そんな事を考えつつも烈花はマウスでアイザックを操作し、
ディスプレイ端末の所まで行き、船体の負傷している個所を調べた。
次の瞬間、いきなり、ブウーン!ブウーン!と警報が鳴り響いた。
そしてゲーム中の船の部屋が赤く点滅した。
「えっ?えっ?えっ?なんだ?いきなり?」
烈花は驚き、酷く動揺した。
それから天井でドンドンと物音が聞えた。
「なっ!なんだ?何か天井に?」
そして天井から両肩から2本の両腕と
大きな鎌を持つ異形の怪物が現われた。
「わっ!うしろ!うしろ!おい!おい!」
烈花は慌てふためいてゲーム中のガラス越しにいる男に危険知らせた。
しかし烈花の忠告も虚しく男は異形の怪物により、
あっさりと背中を切り刻まれ殺された。
ビービービービーピーと言うまるで
心臓が停止した様な恐ろしいゲームの効果音が聞えた。
「うわあああっ!なんだ!こいつ!」
「ネクロモーフです!名前はスラッシャー!早く逃げて下さい!」
「逃げるって?どこ?どこ?何処だ?」
「非常口があります!」
烈花はクエントの指示通り、
マウスでアイザックを動かし、非常ドアから逃げた。
しかもアイザックの背後からあのスラッシャーが追ってきていた。
「ひいいいっ!追ってきているぞ!」
更にスラッシャーの攻撃を受け、アイザックはダメージを受けた。
「おい!ダッシュが中断されたぞ!」
「大丈夫です!攻撃を受けなければ!」
烈花はマウスを操作し、アイザックをエレベーターに避難させた。
「ふう……これで安心だな……」
烈花が安堵したのも束の間、いきなりエレベーターのドアが開き始めた。
そう、スラッシャーが両腕の鎌で
無理矢理エレベーターをこじ開けようとしたのだ。
烈花は心臓が大きく飛び上がった。
続けてまるで誰かに尻尾を踏まれた猫の様な甲高い絶叫を上げた。
「ふんぎゃああおおん!」
ゲーム中のエレベーターは閉まり、
その勢いでスラッシャーの片腕と頭部が切断された。
しばらく烈花は放心状態になり、口を固く閉じた。
そしてエレベーターのドアが開いた。
しばらく烈花は正直怖くてマウスを動かす事が出来ず、放心状態になった。
「大丈夫ですか?」
とうとう心配になったクエントが尋ねた。
「にやー」
「えっ?」
「にやーにやー(えっ?なんで?)」
「どうしたんだ?」
パーカーが現われた。
「にやーにやーにやにやにや!(うーしゃーしゃべれないよ!)」
クエントは大慌てした。
「大変です!烈花さんが故障しました!」
「落ち着け!大丈夫だ!」
とりあえずパーカーは慌てるクエントを落ち着かせた。
「にやーにやーにやーにゃ!(くそーくそーしゃべれねえ!)」
その時、無線の呼び出し音が聞えた。
無線からクリスののんびりとした声が聞えて来た。
「おーい!今!どうしている?」
「えーと今!ゲームをしていた烈花さんが故障しました!」
クエントは有りのままの状況をクリスに伝えた。
「故障?冗談だろ?邪美法師が烈花と話がしたいと。」
クエントは元の人間の言葉を取り戻そうと奮闘している
烈花の様子を困った表情で見た。
「にゃー、にゃにやにや!にやーにやにやにや!にや!
(うーっ、俺とした事が!自分の口がふさがるなんて!)」
烈花はまるで猫の様な声でしゃべり続けた。
そしてふと邪美がこう言った。
「きっと他人の口を塞ぎ続けたから天罰が下ったんだろうね」
「えっ?そうなんですか?」
クエントはパーカーから烈花に向かってこう言った。
「どうやら他人の口を塞ぎ続けたから天罰が下ったと邪美さんが。」
「にやー!にやーにやにやー!にやーにやにやにやー
(そっ!そっ!あんまりだよ!邪美姉!)」
暫く烈花は元の人間の言葉を取り戻そうと猫語で話し、奮闘し続けた。
それからようやく人間の言葉を取り戻した。
「にゃーぬ。あっ!しゃべれるようになった!」
「ほっ!一安心ですね。」
クエントはようやく胸を撫で降ろした。
「なあ、ゲームは止めて、このクイーン・ゼノビアには展望台があるんだ。
ここは見晴らしもいい。今日は天気もいいぜ!」
彼はそう提案するとクエントと烈花に片目をつぶり、ウインクした。
「いいですね!行きましょう!烈花さん!」
烈花は動揺するクエントに背中を押され、客室を出た。
 
牙浪の世界。
閑岱のある山から下りた近くにある小さな街のホテルの一室。
大好きだった恋人に振られ、
トイレの洗面台の上でシクシクと泣いている女性がいた。
女性は黒いセーターに黒いお団子の髪で
ぱっちりとした両目の綺麗な顔をしていた。
やがて背後からゴボゴボと音を立てて、トイレの水が流れる音が聞えた。
女性は「えっ?なになに?」と小さく声を上げ、振り向いた。
やがて個室のドアを次々と開け、オーケストラ楽団が現われた。
楽団達はバイオリンやビオラ等の楽器で
ハチャトゥリアンの仮面舞踏会を奏で始めた。
さらに奥の個室から丸い帽子に
細長い黒い髭を生やした指揮者ヨハンが現われた。
「さあー踊るのです!さあー踊りましょう!」
そして指揮者ヨハンは女性の手を取り、クルクルと回り、踊り始めた。
女性はヨハンと踊っている内に楽しくなり、次第に笑みがこぼれた。
「パララーラーラー♪ラーラー♪パララーラーラー♪」
とヨハンは鼻歌で歌い続けた。
「アハハハ!ウフフフ!」と楽しそうに笑い、
ヨハンがリードし、踊り続けた。
やがて曲は終わり、女性は踊り終わり、
楽しそうに笑い、目の前の鏡を見ていた。
彼は指揮棒を女性の両目の所で構えた後、高速で指揮棒を上下に振った。
すると顔面がまるで彫刻の木の様に削れ、
削れた顔の一部は楽譜の譜面に変わって行った。
同時に女性は断末魔の悲鳴を上げた。
やがて女性の身体は楽譜の譜面と化し、
綿飴のように指揮棒に纏わりついていた。
ヨハンはその綿あめの様に纏わりついている楽譜の譜面となった
女性の肉体と魂をズズズッと素麺の様に吸い込み、捕食した。
チャンラーラーラーラーラララー」
と言う可笑しな効果音を響かせながら。
 
閑岱の深い森の中。
ドラキュラは切り株に腰かけた。
セディンベイル事、園田優理亜はこう質問した。
「ドラキュラ様、本気なのですか?」
「ああ、本気だとも私が書いた魔界黙示録は必ず起こす!」
「あれは?元々、人間達が書いた新約聖書ヨハネの黙示録では?」
「違うよ。どこぞのお馬鹿な人間が
私の文章を解読して真似して書いただけさ。
最近、人間共が良く言う『パクリ』と言う奴だ。
まあ設定の共有やストーリーの改変は大昔から人間はやっていたがね。
今では他人の創作物を勝手に流用する事を敬遠している。
著作権とやらの尊重とかが理由でね。」
「ふーん」
「だからヨハネの黙示録に書いてある様な終末の日、
最後の審判が訪れる事が無いよ。
幾ら訳が分からない宗教の連中が声を大にして言おうとね。」
ドラキュラは鼻で笑うと何故か口を大きく開け、大欠伸をした。
園田もドラキュラの大欠伸に釣られて大きく欠伸をした。
「おっと!失礼!」
「別にいいけどね……」
続けてドラキュラの上顎から4対の鋭利な細長い牙をニョキッと生やした。
しかも4対の鋭利な細長い牙の先端からはまるで
毒蛇の様な黄色の毒液が僅かに滲みでていた。
園田は気持ち悪くなり思わず目を背けた。
やがて4対の鋭利な細長い牙シュルッと一瞬で引っ込んだ。
 
(第18章に続く)