(第39章)白夜

(第39章)白夜
 
翌朝の牙浪の世界。
白夜の日にしてレギュレイス一族復活の日
クリス、ジル、翼は閑岱の小屋から早起きした後、
慌ただしく朝ごはんを食べた。
ちなみに鋼牙は既に早起きし、
ご飯を食べ終え、鷹燐の矢を持って来ていた。
それからすぐさまそれぞれ自分の衣服を着ると閑岱の広場に全員集まった。
「白夜は何時に起こる?」
鋼牙の質問にザルバは素早く白夜が起こる時間を伝えた。
「よし!白夜が始まる前に出発するぞ!」
鋼牙の言葉にクリス、翼、ジルの三人は集まった。
それから翼の腕に嵌められたゴルバはカチカチとこう言った。
「実はあいつのいる場所は奈落の森と言う非常に
足場の悪い場所を通らなければならん」
「足場がそんなに悪いの?」
「ああ、だが幸いにも魔戒道が使える」と鋼牙。
「魔戒道?」とクリス。
「魔戒騎士専用の秘密の隠し通路さ!」とザルバが得意満面に答えた。
 
バイオの世界。
烈花とクエント、パーカーも朝ごはんを既に食べ終えた。
それぞれの衣服を着るとクイーン・ゼノビアのホールに集まった。
クエントは無線でクリスから白夜が起こる時刻を伝えられた。
「いよいよだな。」
「ええ、あのカラクリって魔獣ですけど。
どのくらいの数がいるのでしようか?」
「実は俺にも想像がつかない……
かなりの数だったと邪美法師から聞いている。」
「オイオイ、マジかよ……」
パーカーも烈花が想像もつかない数って一体どんだけ?
向こう側(牙狼)の世界に封印されているんだ?冗談きついぜ……。
クエントは何度も落ち着かない様子でホールに
飾られている巨大な時計の針を何度も見た。
 
牙浪の世界。
鋼牙は閑岱の森の近くの岩場に魔導輪ザルバを掲げ、魔戒道の扉を開けた。
どうやら魔戒道はいつ何時でも通れる訳では無く、
日の傾きと月の満ち欠けが合致する時間と場所にしか使えないらしい。
そして鋼牙、翼、ジル、クリスは魔戒道を通り、
レギュレイスが待つ場所へ向かった。
そこはザルバによるとレギュレイスは遥か昔、
翼の先代の白夜騎士や魔戒法師達を初め、
仲間となったホラー達の手により、
奇巌石と言う大きな岩の中に封印されていたと言う。
しかし奇岩石の周囲に張られた
封印の為の結界は度重なる自然界の崩壊により、
効果が薄れ、さらに人間の男女が奇巌石の上にあろうことか
死体袋を置いたのが最初に奇巌石の封印が解かれた原因である。
ちなみに死体袋の中身は大会社の社長であり、
その財産を狙って女が偽装結婚をしていた。
偽装結婚後は真の恋人である男と共謀し、その大会社の社長を殺害し、
こっそり、2人で協力して奇巌石の
近くの土の中に埋めて証拠隠滅をした後。
大会社の社長の遺産を全て手に入れるつもりだったが。
奇巌石の上に置いてあった死体袋から染み出した大量の血を吸い、
死体袋の中身の大会社の社長の死体に憑依し、
レギュレイスが復活を果たした。
無論その結果、2人は自業自得な最後を遂げたと説明した所で話を戻そう。
鋼牙達は魔戒道を通り、最初にレギュレイスが封印されていた
奇巌石のある大きな岩の床に覆われた広場に辿りついた。
広場の中央にはレギュレイスが堂々と仁王立ちしていた。
「レギュレイス!観念するんだ!」 
クリスは再び両手でコルト・パイソンを構えた。
続けて駆けつけた翼は奇巌石の上に全身を茶色の蔓で縛られていて
完全に身動きが取れなくなっている邪美法師を発見した。
「邪美!」
「レギュレイス!邪美を返して貰うぞ!」
鋼牙は素早く赤い鞘から銀色に光る魔戒剣を引き抜いた。
翼も両手で白夜槍を構えた。
ジルも短いソウルメタルの棒を構えた。
レギュレイスは空を見上げた。
つられてクリス、ジル、鋼牙、翼も空を仰いだ。
空には力強く光り輝く太陽が浮いていた。
しかし次第に大きな真っ黒な月が太陽を覆い始め、皆既日食が始まった。
レギュレイスは高らかにこう宣言した。
「お前達の世界は終わりだ!世界は我々が支配する!
さあ!白夜よ我に力を与えたまえ!」
レギュレイスは両腕を広げた。
周囲の空は朝が来たのに関わらずまるで
夜が来た様に真っ暗闇になって行った。
やがて両腕を広げたまま仁王立ちをしている
レギュレイスの身体から黒い煙を放った。
その後、両腕を広げたままレギュレイスの身体が空高く宙に浮いた。
続けてレギュレイスの身体はガチャガチャと
騒がしい音を立てて変形し始めた。
ジルとクリスは空高く浮いたまま騒がしい音を
立て変形して行くレギュレイスの姿を唖然と見ていた。
しかもレギュレイスは巨大な傘を被り、茶色のボロ布を纏った
大男の姿は変形して行く過程で次第に巨大化して行った。
やがてレギュレイスの体長は巨大な傘を被り、茶色のボロ布を
纏った大男の姿をした魔人形態の三倍近い体長となった。
少なくとも10m以上はありそうだった。
さらに形態も巨大な傘を被り、茶色のボロ布を纏った大男の姿から
骸骨の龍ともコガネムシともつかぬ昆虫に似た姿をした魔獣形態となった。
特徴は骸骨の龍に似た頭部から2対の短い触角。
2対の短い触角の内側にはクシの様な細い棘が生えていた。
それはまるでコガネムシの触角そっくりだった。
機械的な皮膚に覆われた長四角の胴体。
細長い昆虫の両腕の上部は無数の棘で覆われていた。
ジルとクリスの目の前にはレギュレイスの細長い昆虫の両脚が見えた。
そして巨大な斧の形をした湾曲した長い両足を硬い地面に突き刺した。
ドスン!ドスン!と地響きを立てて歩き始めた。
「オイオイ。魔戒法師や魔戒騎士は
こんなでかい奴を相手にするのか?」とクリス。
「御冗談でしょ?」とジル。
レギュレイスはジルとクリスに向かって大きく口を開いた。
グオォォオオオオオオン!
魔獣形態と化したレギュレイスは大きく咆哮を上げた。
続けて細長い昆虫の脚をした右腕を勢いよく振り上げた。
ジルとクリスは反射的にそれぞれ左右の方向に全速力で走った。
ズドオオン!
大きな音と共に右手の巨大な剣状の
5本の鋭利な長い爪は地面に激突し土埃を上げた。
「危ない奴だ……」とクリス。
「潰されたら……ひとたまりもないわね……」とジル。
「ジル!クリス!おのれ!今度こそ!
白夜の騎士の力を見せてやる!レギュレイス!」
絶叫すると翼は魔戒槍を白夜の空に掲げた。
彼の頭上に円形の裂け目が現われた。
やがて円形の裂け目から白い光が差し込んだ。
続けて口元の無い白い狼を象った鎧が落下した。
同時にゴルルッ!と獣の唸り声を上げた。
レギュレイスは小馬鹿にしたように冷笑した。
目の前には口元の無い白い狼を象った鎧を纏った翼が
威風堂々と両手に白夜槍を構え、白夜騎士ダンが経っていた。
そして白夜騎士ダンの鎧を纏った翼は白く輝く長い
白夜槍の鋭利な先端をレギュレイスの額に向けた。
「うおおおおおおおおっ!」
翼はぐぐもった雄叫びを上げ、大きく地面を蹴り、飛翔した。
レギュレイスハハハハハッ!と笑った。
さらに巨体に似合わずレギュレイスは素早く身体を捻り、回転させた。
レギュレイスは身体を捻り、回転させたと同時に細長く巨大な剣状の尾は
翼が纏っている白夜騎士ダンの
分厚い白い鎧に覆われた胸部に叩き付けられた。
「ぐわあああっ!」
翼は胸部の分厚い白い鎧から大量の火花を
周囲にまき散らしながら水平に吹き飛ばされた。
やがて翼の身体はドコン!
と大きな衝突音と共に近くの球体の大岩に激突した。
「翼!くそっ!」
クリスは直ぐにペイルライダーを両手で構えた。
レギュレイスは細長い昆虫に似た右腕を勢いよく振り回した。
勢いよく振り回された細長い昆虫に似た
右腕はクリスの身体を弾き飛ばした。
同時に細長い昆虫に似た右腕の上部に
生えた無数の棘は彼の右腕の服や皮膚を切り裂いた。
クリスの身体は右腕から血を流しながら吹き飛ばされた。
そしてあわや硬い地面に激突する直前、
ジルは両腕でクリスの身体をキャッチした。
「ふー、いつもありがとうな!」
「大丈夫なの?傷が!」
「大丈夫だ!ジル!大したことは無い。少し切り傷を負っただけだ。」
ジルが見るとクリスの右腕の皮膚は
僅かに細長く切り裂かれ、血が滲み出ていた。
レギュレイスは周囲のジルとクリス、
さらに翼、鋼牙、緑色に輝く瞳で見据えた。
「どうやら自分の一族の復活に必要な鷹燐の矢を探しているようだな」
鋼牙の指に嵌められていた魔導輪ザルバはそう言った。
「どうやらそのようだ!」
鋼牙はおもむろに自分の右腕を白いコートの赤い内側に突っ込んだ。
「レギュレイス!鷹燐の矢は此処だ!」                     
鋼牙は白いコートの赤い内側から銀色に輝く
細長い短い槍を白夜の空に掲げた。
 
(第40章に続く)