(第11章)合流(前編)

(第11章)合流(前編)
 
自分の隠れ家のベッドの上ですやすやと眠っていたジルは
パズズの闘いの後、隠れ家でモイラと話していた時と
同じあの脳幹への鋭い痛みに襲われた。
続けてキイイイン!と言う甲高い耳鳴りが聞こえ始めた。
続けて全身の筋肉が急檄に発熱した。
更に全身の筋肉が引き裂かれるかのような痛みが襲った。
やがて脳幹への鋭い痛みも甲高い耳鳴りも全身の筋肉の発熱も
引き裂かれる筋肉の痛みも徐々に順番に収まって行った。
しばらくしてジルは両耳を塞ぐのを止め、ようやくベッドから起床した。
洗面台で歯磨きをした後、
壁に張り付けられた今日の朝の新聞を読んでいた。
今日の朝の新聞はニューヨークタイムズ紙だった。
ニューヨークタイムズ紙の記事のタイトルはこう書かれていた。
『アフリカで未知の細菌を発見!!御月製薬!!
不老不死の研究を推し進める!』
ジルは記事を青い瞳でじっと見続けた。
「日本の製薬会社の一つ、御月製薬の社長
御月カオリはアフリカ・キジュジュ自治区でンディバヤ族の許可を得て、
太陽の階段と呼ばれる伝説の花が植えられている土壌に
真っ赤に輝く未知の細菌を発見した。
更に未知の細菌から不老不死の遺伝子を発見したと昨日、発表した。
また太陽の階段からかつてアンブレラ社とトライセル社が
生物兵器として悪用した始祖ウィルスが含まれている事を世間に公表した。
日本を初め、各国の記者団の取材に対し、御月カオリ社長は
『我々はアンブレラ社やトライセル社の様な生物兵器
開発及びビジネスには一切関与しない』とコメントを発表した。
『始祖ウィルスを用いた実験で38億年前の生命の誕生の再現に成功した。
我々はこの始祖ウィルスや未知の細菌の研究から
不老不死の研究を推し進めて行きたい』
と付け加えてコメントした。しかし御月製薬の報道に対し、
「命の重さとデリケートな問題がなっていない」
バチカンローマ教皇庁)機関『ロッセ・バトレ・ロマネ』は批判した。
「不老不死の力は人間が持つべき力では無い。
人間は決してどうあっても神にはなれない』と続けた。
批判に対し、御月カオリ社長は。
「不老不死は人類の最大の夢であり。
同時に生命の起源を解き明かす。
それが我が社の目的である。」
御月カオリ社長の反論に対し、バチカンローマ教皇庁)は
「不老不死は人間が求めてはいけない力だ。
不老不死の研究によって生命の起源を解き明かす行為は間違いであり。
生命の起源は神や天使と言った超自然的存在を探す行為こそ正しい』
と更に反発を強めた。」
そして寝起きのままボーッと壁に張り付けられていた
ニューヨークタイムズ紙を読んでいた時、自分の名前を呼ぶ声がした。
「ジル!」
彼女は我に返り、素早く振り向き、隠れ家の入口を見た。
入り口には昇ったばかりの日の光に照らされ、
白いコートの纏った背の高い男の人影が見えた。
「まさか?冴島鋼牙?」
「ジル!」
鋼牙はスタスタとジルの前に歩み寄った。
彼は無言でジルの身体を両腕で抱きしめた。
「御免なさい!まさか探していたなんて」
「もう気にするな!」
鋼牙は茶色の瞳でジルの青い瞳を真摯に見つめた。
「とにかくジルが無事でよかったぜ!」
鋼牙の指に嵌められたザルバは安心した様子でしゃべり始めた。
続けてザルバはこうしゃべり始めた。
「目の前のニューヨークタイムズの記事の中に
一つ気になる文章があるんだ!」
「分かっているわ!実はあたしも気になっていて……」
ジルはパソコンのあるテーブルへ行くとパソコンを起動させた。
「何を調べるんだ?」
気になって鋼牙が尋ねた。
「これよ!!」
ジルはマウスで御月製薬のホームページの
新しく発見された真っ赤に輝く細菌の画像を表示した。
画像には真っ赤に輝く細菌がシャーレで動き回っていた。
「これ?分る?」
「うーむ」と鋼牙はジルの問いに深く考え込んだ。
「こっ!これは!間違いないぜ!鋼牙!賢者の石だ!」
「何?だが賢者の石は赤く輝く球体でほとんど動かなかった筈じゃ」
「もしかしたら?赤く輝く球体が寄り集まって細菌みたいになったのかも。
それにこの賢者の石を体内に有するのは外神ホラー達のみだ!
恐らくその太陽の階段の土壌に賢者の石を残したのは
這い寄る混沌の魔獣ニャルラトホテプの可能性が高いだろう。」
すると酷く動揺したジルはこう質問した。
「でっ!でも!どうしてニャルラトホテプがこちら側(バイオ)世界の
アメリカだけでは無くアフリカに現れたの?」
「例えそこに存在する理由に矛盾があったとしても。
理論的に不可能でもニャルラトホテプ
アフリカに現れ、存在する事が出来るのさ。
奴は破壊や殺戮よりも人々を陥れ、狂気を与えたりするのを好んでいる。
恐らく奴は面白半分でそのアフリカの
太陽の階段の土壌に自分の細胞を残したのだろう。」
「そして奴の細胞、賢者の石から始祖ウィルスを見つけて。
ジェームズ・マーカス博士がヒルのDNAと
結合させてTウィルスを作った。
そしてオズウェル・E・スペンサーも
ジェームズ・マーカスもアルバート・ウェスカー
Tウィルスに関わった多くの科学者達を破滅させた。そう言う事?」
「恐らくそう言う事だろうと思うぜ!」
その時、再びジルの隠れ家の入口から声がした。
「ジル、いる?」
鋼牙とジルは再び隠れ家の入口を見た。
入口にはケンタッキフライドチキンのバレルを両腕で抱えたモイラ。
両腕を組み、少し怒った表情のクレアが立っていた。
「モイラ、クレア」
「御免なさい、説明するよ!」
モイラは頭を下げ、謝った。
クレアは入り口のドアを直ぐに閉めた。
モイラはクレアが付いて来た理由を説明した。
どうやらクレアはモイラが隠し事をしている事を薄々感じていたらしい。
それで彼女はNGO団体テラセイブの仕事の合間に友達の病院に行くと
テラセイブの上司にどうにか話を付けて
モイラはお土産にケンタッキーを買い、
ジルの隠れ家に向かう途中に自分を
密かに尾行していたクレアを見つけて逃げたが。
結局、捕まり、クレアに問い詰められた。
とうとうモイラは白状してしまった事らしい。
「全く、貴方って人は……」
ジルはすっかり呆れ、クレアを見た。
「成程、お前の知り合いは皆、勘がいいな。」
クレアは少し怒った表情でジルを見た。
「ジル!兄さんも皆も貴方を心配していたのよ!」
「御免なさい。でもこれは普通の人間が関わってはいけないの。」
「その通りだ!残念ながら君達は関わってはいけない!」
「どうして?何があったの?」
「言えないわ。これ以上の事は」
おいおい、どうするんだ?
こんな2人の普通の人間が関わったあとで面倒になるぞ。
それにホラー達の食い物にされちまう。
目の前で人が死ぬのは2人共見たくない筈だが……。
ザルバがそう考える中、鋼牙は静かに口を開いた。
「とにかくお前が見つかってよかった。
俺はお前を探す為に写真を持って歩いて街中の人々に見せて回った。」
「本当にモイラもクリスもクレアも鋼牙もみな心配を掛けて御免なさい。」
「そう、何か困っているならあたし達も協力するわ!」
「駄目よ!」とジル。
「駄目だ!」と鋼牙。
「でもこのニューヨークの街で何か異変が起こっているのは確かなのよ」
クレアは2枚の資料を取り出した後、勝手にジルのテーブルの上に広げた。
「実はここに聖ミカエル病院を中心に
真っ黒な縞模様の服の少女が夢に現れた
と言う20代から30代、50代の成人女性の証言のリスト500件。
男性の失踪事件が20件あるわ!」
彼女は2人が呆れる中、ほぼ強引にニューヨークの街で
起こっている事件について説明を始めた。
 
(第12章に続く)