(第13章)正義

(第13章)正義
 
ジルの隠れ家。
「いいか?モイラ!クレア!魔獣ホラーはお前達が今まで相手して来た
BOWやゾンビ達よりも遥かに凶暴で危険な奴らばかりだ!」
「だから俺様やジル、鋼牙の気持ちを代弁するなら。
『中途半端に魔獣ホラー討伐に絶対に関わって欲しく無い』!」
「危険なのは分っているよ……でも……」
「あたし達の意見は変わらないわよ。
凶暴でBOWやゾンビ達よりも危険なんでしょ?その魔獣ホラー??
それにあたしは兄さんのクリスと同じ正義の心があるの。
明らかに凶暴で危険な奴らがこの街に潜んでいる事を
知って見ているのに見ぬふりは出来ないわ。」
クレアとモイラはあくまでもジルと鋼牙の
魔獣ホラー討伐に協力するらしい。
2人はとうとう折れた。
「分ったわ。でもこれだけは約束して。
とにかく無茶な事、無謀な事はしない事。
命の危険を感じたら迷わず逃げると言う事よ。
それに魔獣ホラーに通常武器は通用しないわ。
彼らに十分対抗するには魔戒銃と改造した強力な幾つかの武器、
ホラーを封印する法術が込められた弾丸が必要よ。それはそこにあるわ。」
ジルが指さす方をモイラとクレアは見た。
そこには大きな緑色の四角い箱のアイテムボックスが置かれていた。
「ああ、邪美とレオがあんたに提供したものか?」
鋼牙は素直に納得した。
「本当は……異形の戦士に変身して戦うつもりはなかったのよ。」
「何があった?」
「実は……」とジルが口を開きかけた。
その時、いきなりグウーっと鋼牙のお腹が鳴った。
鋼牙は静かに口を固く閉じた。
「お腹空いているなら。」
モイラはチキンバレルを机の上に置き、開いた。
「少し多めに買ったからどうぞ!お釣りはいらないよ。」
「そうか。頂こう」
「腹は減ったら戦は出来ぬって言うからな。」
「ジルもクレアもどうぞ」
「ありがとう」
「丁度!お腹がペコペコだったのよ」
鋼牙、クレア、モイラ、ジルはそれぞれ
フライドチキンを手に取りかぶり付き食べていた。
「うっ!うまい!これが本場の味か?」
鋼牙は信じられないと言う表情をしたのでジル以外の全員が驚いた。
なにせ、普段は無愛想で無表情をしていたからである。
初めて会った時、正直クレアとモイラは気難しい人という印象を持った。
しかし今は何と言うか普通の人間の男性と
変わらないと思うと二人は何故か安心した。
暫くして調子が良くなったモイラはこんな話を始めた。
「実はこの近くでさー。
今日の夜にNSTの
『ゴースト・エンカウンターズ』の撮影があるんだってさ」
「えっ?それ本当?」
鋼牙は少しだけ動揺し、怖がる素振りを見せたクレアに気付いた。
「どんな番組だ?」
「この番組はね―。5人の取材クルーが
幽霊の実在を証明する為に幽霊が出る場所を
取材して最新のゴーストハンターの機材を使って幽霊の正体を暴くんだ!
面白いから毎週欠かさず見ているんだ!」
鋼牙は楽しそうに話すモイラの笑顔に反して
少し厳しい表情をすると静かに口を開いた。
「良くは無いな」
「えっ?どうして?」
「彼らは肉体を失って魂と思念になってもお前達と同じ人間なんだ。
いいか?彼らは理不尽で不幸な事故や殺人、自殺。
どんな理由であれ本人が望まぬまま命を失ったんだ。
だから彼らには怒り、憎しみ、悲しみの負の感情を持っている。
そんな危ない存在を面白半分に探りに行くものじゃない!」
「ああ、それはどう考えても自殺行為だぜ!
それに今日はハロウィンだ!どう考えてもタイミングが良くない……」
「そうだな……うーむ、だとしたら?」
「オイオイ、まさか彼女達を……」
「ああ、少なくとも俺の様な魔戒騎士や
魔戒法師なら直ぐに止めさせるだろう。」
「どうして?ハロウィンは忙しいの?」
「ああ、今頃!向こう側(牙狼
の世界じゃ魔戒騎士や魔戒法師が大忙しさ!
特にお盆とこのハロウィンは……」
「どうしてお盆やハロウィンは忙しいの?」
「ああ、それはな。」
ザルバはハロウィンの行事について語り出した。
「ハロウィン。お前達人間達はただ仮装して
パレードやお祭りで楽しい事をする行事だろうが。本当は違うんだ。
元々はケルト民族の一年の終わりの『使者の日』がその起源だ。
この日になると善良な霊、例えば祖霊、つまり祖父や祖母、
曾お爺ちゃん、曾お婆ちゃんと言ったそれぞれ個人の家族に
関係する者達があの世から現世に帰って来るのさ。それも沢山な。
しかし!あの世から現世に帰って来るのは善良な霊達ばかりでは無い。
実際は大量の悪霊や悪魔達も戻って来るのさ。
もちろん魔獣ホラーも例外じゃない。」
「とは言え、実際に連中はあの世では無く、
真魔界と呼ばれる場所に住んでいるが。
ただ連中はあの世から現世に大量に返ってきた悪霊達の負の感情と
物体(オブジェ)をゲートにして真魔界から
人間界に大量に入り込もうとする。」
「だからこそ魔戒騎士は朝から夜、次の朝までハロウィンの期間中は
その悪霊の陰我が宿った物体(オブジェ)のゲートを破壊し続け、
魔戒法師達は自らの法術を利用して死者の霊を導き、
法術で悪霊の陰我を断ち切って封印してと言う具合に大忙しなのさ!」
「魔戒法師って?」
「魔戒法師もまた魔獣ホラーと闘う『守りし者』さ。」
「彼らは俺達と同様、魔獣ホラーを封印する力がある。
また俺達の武器、陰我を断ち切り、ホラーを封印する魔戒剣。
あと魔獣ホラーの攻撃を防ぐ鎧なんかもそうだ。
俺様も魔戒法師に造られたんだ。」
「分かりやすく言えば錬金術師よね。」
錬金術師??じゃ!じゃあ!」
不意にモイラは急に声を大きくした。
「賢者の石の作り方とか知っているの?」
この質問にジルは口を固く閉じた。
暫くしてジルは深く溜息を付いた。
「悪いが……それは……」
「作れないわ……だってあれは……」
ジルは不意に自分の胸をグッと押さえた。
同時にまるで恋人を失ったかのようなとても寂しそうな表情になった。
彼女の脳裏には白いスーツの男の姿が浮かんだ。
「ジル……」
「一体?何があったの……」
「何でもないわ。だってもう10年も前の事だから。」
すかさずザルバはジルが10年前の自分の過去を話し
出す前に素早く口を開き、元の幽霊の話に戻した。
「それで?どうするつもりだ?鋼牙?」
「ああ、とにかくその幽霊が出ると言う場所は?」
「えーと確か廃墟になった老人ホームだって言っていたわね。」
「そこに幽霊が出るんだ!
しかもかなり前にこの老人ホームで亡くなった一人の老人で。
噂では凄く悪戯好きらしいよ。」
「貴方?いつ?そんな噂を仕入れたのよ。」
流石のクレアも呆れ顔になった。
「それで行く気?」
「もちろん!行くわよ!」
ザルバの問いにモイラは明るく答えた。
これには流石の鋼牙もザルバもジルも呆れ顔になった。
 
(第14章に続く)