(第21章)憤怒(ラース)

(第21章)憤怒(ラース)
 
グレイは白いタオルで全身の汗を拭いた後、再び服を着た。
それからジルの質問に答えた。
「俺の屋敷の周辺で若い女性は失踪している話?さあー聞いた事無いなあ」
グレイは知らない素振りを見せた。
ジルは更に話を続けた。
「しかもその女性達は失踪する直前、死人の様に青白い肌に
黒い服を着た女と一緒にこの屋敷を訪れていたって目撃証言があったわ。」
「ふーん、俺にはアリバイは無いと。」
グレイは僅かに苛立ち、戸惑いの表情を見せた。
何故だ?何故?この女は俺の正体を探ろうとする??
そして彼の戸惑いと苛立ちをよそにジルは更に話を続けた。
「その若い女性を喰い殺したのは貴方でしょ?」
ジルは早くも核心を突いた
グレイは暫く黙りこんだ。
だが、突如、グレイは大きく深呼吸した。
「アハハハハハハハハハッ!アアアッハハハハハハハハハッ!」
彼は狂った様に高笑いをし始めた。
とうとう魔獣ホラーとしての本性を現した。
「君は素晴らしい!だが!実に愚かな人間の女だ!」
「何故?若い女を喰ったの?」
「自分に支配されて!最後は美食家の私に調理され、
栄養として体内に取り込まれた女達は私と共に永遠に生きている!!」
ジルは急に心の底から怒りが湧き上がるのを感じた。
「ふざけないで!貴方に彼女達の自由を奪う権利は無いわ!
女をなんだと思っているの?」
グレイはクスクス笑い、こう言い返した。
「人間の女は私、魔獣ホラーの男の欲望を満足させる道具に過ぎない!
それに最近、私に仕えていた素体ホラーの女が逃げ出したんだが……。
彼女に夕食の食材探しを任せていたが!とんだ!役立たずだったな!」
「それって?死人の様に青白い肌に黒い服を着た女の事?」
「ああ、そうさ!きちんと!私が食べた白い砂の喰いカスを銀皿にやって!
地下室の特別な部屋を与えてやったのに!とんだ恩知らずめ!
やっぱりホラーにも人間にも使えない!
役立たずのゴミは存在するってことだな!
今回良く分かったよ!ハハハハッ!まいったな!」
ジルはグレイの同胞のホラーや人間の
女性に対する自分勝手な言い分を聞き、
心の底から凄まじい怒りが湧き上がるのを感じた。
更にグレイは続けてジルにこう言った。
「お前には私の正体を探り、知った罰として!
お前のお尻を鞭で500回叩く事にする!生きては帰さん!」
グレイは黒い鞭を取り出し、右腕を大きく真上に振り上げた。
「一回目!」
グレイは右腕を大きく振り降ろした。
バシイン!
振り降ろされた細長い黒い鞭は半円を描き、ジルの大きなお尻に当たった。
同時にジルの大きなお尻の白い肌に赤く細長いミミズ腫れが浮き出た。
しかしジルは歯を食いしばり、
鞭で叩かれた事による突き刺すような痛みに耐えていた。
「さあ!2回!3回!4回!5回!6回!苦しめよ!」
グレイは狂った様に何度も執拗に鞭で
彼女の大きな丸いお尻を強く叩き続けた。
「ほら!もっと甲高く叫べ!セックスよりも気持ちいいだろ?
面白くないんだよ!このバカ女!」
グレイはジルが一向に痛みで悲鳴を上げ、
許しを乞わない事に苛立ちを募らせた。
しかしジルは6回、鞭で叩かれようとも黙り続けた。
「ええい!このバカ女!さっさと叫べ!叫べよ!ボケ!」
グレイは更に7回、8回と鞭でジルの大きな丸いお尻を何度も叩き続けた。
その度にバシイン!バシイン!と大きな音がした。
既にジルの大きな丸いお尻は真っ赤に腫れ上がった。
しかし急にグレイは何かを感じ、鞭でジルの大きなお尻を叩くのを止めた。
グレイは茶色の瞳でジルの青い瞳を見た瞬間、
ゾワアアアッと全身に恐怖が走った。
それは名状し難い、冒涜的な混沌の底から
這い昇る様な狂気的で恐ろしい感覚だった。
彼は思わず手に持っていた黒い鞭を取り落とした。
「なっ!なんなんだ?お前?一体なんだよ??」
グレイは激しく動揺した。
ジルはいきなり野獣の咆哮を上げた。
「ウニャアアアアアアアアッ!」
同時に彼女は常人離れした怪力でいともたやすく
手首の太く丈夫な赤いロープを引き千切った。
また両手は真っ赤に輝く賢者の石が過剰に放出されていた。
それはまるで火の玉の様だった。
素早く彼女は両腕をX字にクロスした。
次の瞬間、プレイルームの空気を切り裂き、
真っ赤に輝く鋭利で巨大な2対の憤怒の鉤爪が放たれた。
真っ赤に輝く鋭利で巨大な2対の憤怒の鉤爪は
グレイの胸部を深々と切り裂いた。
グレイは真っ直ぐ背筋を伸ばしたまま高速で吹き飛ばされた。
ガッシャアアアン!
窓ガラスの割れる音がプレイルームに木霊した。
グレイは高速で、窓ガラスを突き破り、
大きな芝生の庭に向かって落下して行った。
それからジルは身体をくの字に曲げたまま、荒い息を吐き続けた。
しかし不意にジルは意識を失い、両目が白眼となった。
ドシャッ!と鈍い音を立てて、
プレイルームのカーペットの床にうつ伏せに倒れた。
暫くしてバタバタと誰かが駆け付ける2人の足音が聞えた。
ドカアン!とプレイルームのドアを蹴破り、
クレイとモイラがジルの救助に駆け付けた。
「一体?何があったの?」
クレアは大きく割れた窓ガラスと天井に吊るされ、
引き千切られた赤いロープをただ茫然と見ていた。
モイラは自分の指をジルの首筋に触れ、脈を確認した。
「気絶しているみたい」
「まさか魔獣ホラーの力??」
「かも知れないわ」
モイラは全裸のジルに自分の上着を着せた。
クレアはジルの白いドレスを自分の鞄にしまった。
モイラはジルをおんぶした。
2人はプレイルームから出て行った。
 
「グオオオオォォッ!ギバザ!ヂグジョブ!」
グレイは自分の屋敷のプレイルームの窓を高速で突き破り、
自分の庭に落下するまでの間、魔界語でしゃべり続けた。
魔界語は魔獣ホラー達がごく普通の会話に用いる独自の言語である。
故に人間には彼らの言語を理解するのが難しい。
ちなみに魔戒騎士や魔戒法師は彼らの言葉を学んでいる為、
ある程度の言葉の意味を理解する事が出来るのである。
グレイは切り裂かれたX字型の深い切り傷から
どす黒いホラーの血をボタボタと芝生に落下し続けるのを見た。
「グボッ!グゾッ!ボゴズ!アンノウン!」
怒りの声でグレイは魔界語で叫び続けた。
「観念するんだな」
白いコートを着た背の高い男、冴島鋼牙が目の前に現れた。
「グッ!黄金騎士ガロ!冴島鋼牙!」
「鋼牙!こいつは魔獣ホラー・シェイズ!
人間の女を痛めつけて支配し、散々弄んだ挙句に喰らう!」
「俺の嫌いな女食いのホラーか?」
「そいうこった!でもこいつはアングレイよりも最悪だぜ!」
「グボボオオッ!ギザマ二!バダジバ!人間ボ!
ジバイジャ!ダアアアアアアッ!」
グレイは狂ったようにそう叫ぶと背中から
無数の太く赤いロープを伸ばし、全身を包みこんだ。
彼はタランチュラを思わせる姿をした人型の真の姿に変身した。
全身は無数に束ねて出来た赤いロープ状の分厚い皮膚に覆われていた。
頭部から1対の角を生やし、8つの紫色の目を持っていた。
また口は一対の巨大な挟角を生やし、ガチガチと上下に動かした。
両腕も赤いロープ状の皮膚に覆われており、
5本の黄色の鉤爪が10対生えていた。
背中から細長い串状の爪が生えた太いクモの脚が生えていた。
鋼牙は素早く白いコートの赤い内側から銀色に輝く魔戒剣を取り出した。
続けて鋼牙は魔戒剣を頭上に掲げた。
そして魔戒剣をひと振りした。
彼の頭上に円形の裂け目が現われた。
やがて円形の裂け目から黄金に光が差し込んだ。
そして狼を象った黄金の鎧が落下した。
同時にグルルルッ!とまるで大きな獣のような唸り声を上げた。
そして銀色に輝く魔戒剣は黄金に輝く牙浪剣に変化した。
黄金騎士ガロである。
 
(第22章に続く)