(第2章)脱出

(第2章)脱出
 
アメリカ合衆国中部・ラーテルシティの公園の広場に設置された
隔離室内の小さな質問室で行われたスーザン氏による
反メディア団体ケリヴァーのリーダーの若村氏についての証言。
「クエントの質問・貴方の身に起こった出来事はまだ話せないんですね?」
「スーザンの回答・はい!ショッキングな出来事なので!」
「クエントの質問・では反メディア団体ケリヴァーの
若村さんはどんな人ですか?」
「スーザンの回答・最低の男です。あの人、高校の先生をしていて……。
自分が担任をしていた生徒に酷い事をしていました。」
「クエントの質問・もしかして貴方は若村氏の教え子?」
「スーザンの回答・はい!担任でした!先生はある生徒の一人に
クワガタムシをあげてしばらくして母親が逃がした事を知り、
その生徒を怒鳴り付け『あげなければよかった!』
と喚き散らしたりしていました。
他にも生徒の母親にテレビを捨てるよう勧めて先生の主張を
真に受けた生徒の母親がテレビを捨てたんです。
それでテレビを捨てられた生徒が怒りや悲しみや
悔しさで打ち震えているのに。
先生は悪びれた様子も無く、ケロッとしていて
しかもテレビを捨てた母親を
『勇気ある母親だ。普通の人はなかなか出来ない』
と満足げに言って生徒に対して何の慰めの言葉を掛けなかったんです。
そしてとうとうクラス全員が彼の数々の理不尽な言動や
仕打ちに耐えかねて教頭やPTAの会長やメンバー達に何度も訴えて、
クビに成りました。あたしは若村先生の教えが
正しい事を信じて今回、付いて来ました。
そして彼らはあたしの居場所を用意してくれたんです。」
「クエントの質問・つまり若村さんは貴方を信用していたのですね」
「スーザンの回答・はい!その通りです!
でもあの忌まわしい洋館で死にかけた時、
カブトムシの仮面を被った女の人に命を救われました。
名前もどこの人かも知りません。素性は全く分からないんです。
でもあの人はあたしを助けた時、力強い言葉を掛けてもらい
勇気をもらって無我夢中でここまで車を走らせてきました。」
「クエントの質問・彼女はなんと力強い言葉を?」
「スーザンの回答・『無闇に他人や物を否定するな!
ありのままを受け入れろ!そうすれば必ず!
誰かが助けてくれる!』と。」
そのスーザンの言葉を聞いたクエント
は思わず口笛を鳴らしそうになった。
「カッコいい方ですね。」
「全くです!」
スーザンはクスクスと笑った。
そして隔離室内の小さな質問室内の重々しい空気は僅かに和んだ。
しかしクエントは直ぐにもっと大事な質問に入った。
再びクエントの表情は真剣になった。
「クエントの質問・では?
貴方とカブトムシの仮面を被った女の人がいた洋館で……。
いや、貴方の身に何が起こったのか?話せますか?」
しばらくスーザンは沈黙していたがやがて重々しく口を開いた。
「スーザンの回答・分りましたお話しします。
あたしは若村先生によってアークレイ山脈に
あるあの忌まわしい洋館に招かれて。
若村には小さな子供がいたんです。」
「クエントの質問・小さな子供?何歳位でしょうか?」
「スーザンの回答・10歳位の日本人の可愛らしい女の子です。」
「クエントの質問・その日本人の女の子の名前は?」
「スーザンの回答・分りません。
どうやら何故ここに来たのかも分らない様で……。」
「クエントの質問・ではその日本人の女の子は
若村が連れて来たんですね。」
「スーザンの回答・はい!
あたしは先生やメンバーを止めようとしました!だって!」
「クエントの質問・何故?彼らを止めようと?」
「スーザンの回答・あの10歳の女の子を利用したバイオテロです。
良く分かりませんが。女の子はBOW(生物兵器)だと。
先生は言っていました。」
「クエントの質問・女の子がBOW(生物兵器)?
しかし何故?貴方がここに??」
「スーザンの回答・女の子が暴走したんです。いや、暴れ始めたと言うか。
あたしや数人のメンバー以外のみんなは女の子に次々と惨殺されました。
あたしは『R型』が暴走した部屋から脱出後に自分と親しかった
シイナ・カペラ氏に助けを求めようと彼女の部屋に行きました。でも……」
彼女は脳裏に1時間前のあの洋館内の事件の記憶の断片が蘇った。
スーザンは隠し廊下を使って2階の長い廊下まで逃げた後に
自分と親しかったカペラが泊っていた部屋に向かっていた。
間もなくして彼女の部屋に辿りついた。
ちなみに彼女が泊っている部屋は若村や
仲間達の話によると
ある製薬企業の偉い研究所の所長
宿泊する豪華なスイートルームだったらしい。
彼はその製薬企業が何でその所長が誰なのかは
若村を始め仲間達は誰も口にしなかった。
何故ならその製薬会社の名前と所長の名前を
口にすると必ず呪われるらしい。
その時、いきなり目の前でバタンと豪華な装飾品が施されたドアが開いた。
突然の大きな音に彼女は驚き、その場で金縛りの様に
身体が石像の様に固まった。
数秒後、「キャハハハッ」と笑いながら
10歳前後の女の子がカペラの部屋から出て来た。
その後、10歳前後の女の子はそのまま
楽しそうに階段を駆け降りて行った。
スーザンはおっかなびっくり、開け放ったままの
カペラの部屋の扉付近に接近した。
その瞬間、足元の木の床から20cmの短い蔦状の
植物のヒルの大群がまるで噴水の様に大量に湧き出て来た。
続けて瞬時に一か所に集まり、植物のヒルの大群の短い蔦が
お互い複雑に絡み合い、融合し、やがて人型の植物の怪物を形成した。
「あああああああああああああああああああああっ!」
スーザンは甲高い悲鳴を上げ、その場から一目散に逃げ出した。
しかしその先の記憶はあまりにも荒唐無稽なので記憶は非常に曖昧だった。
それでもスーザンはその先の事件の記憶の断片を正直にクエントに話した。
「スーザンの回答・それであたしはその人型の植物の怪物に……
確か、確かですけど……追いかけ回されて
一階の食堂まで辿り着きました……。
その時、あたしは幸運にもカブトムシの仮面を被った女に出会ったんです。
確かカブトムシの仮面を被った女の人の
右指の爪が大きく伸びて変形して……。
鋭利な長い爪で……植物の怪物の頭部を刺し貫いたんです。
その後、食堂の壁を蹴破って大人一人が通れる穴を作って貰って……。
女の人は自分のカブトムシの仮面とメモと地図を渡されて……。
ウィルスのワクチン接種を受けて……
あの忌まわしい洋館から逃がしてくれました。」    
やがて隔離室内の小さな質問室で行われた。
スーザン氏とクエントの質問と回答は一通り、終わった。
スーザンは自分のカブトムシの仮面とメモと地図をクエントに渡した。
ようやくクエントはメモを読んだ。
メモにはこう書かれていた。
『RをEの様に死なせるな』というメッセージが書いてあった。
R?まさか?R型?じゃ?Eは?E型のエヴリンの事でしょうか?
つまり『R型』をBSAA北米支部
盗んだ企業組織HCFと反メディア団体
ケリヴァーとはその事件の裏で何か繋がりがあると言う事になりますね。
更にクエントは彼女から渡された地図から
ヴィクトリー湖の近くにある森の中にある
バイオハザード(生物災害)発生現場と
推定される洋館がある場所の座標を特定した。
その後、クエントと烈花は直ぐに幾つもの武器と調査資料を満載した
BSAAの特殊車両に乗り、ラーテルシティを出発した。
そしてヴィクトリー湖の近くにある緑の木々に
覆われた森の中にある洋館に急行した。
 
スーザンによる事件発覚の10時間前。
反メディア団体ケリヴァーのメンバーでありスーザンと親しかった
シイナ・カペラの身に起こった洋館内の忌まわしい出来事。
『R型』と呼ばれる女の子が大泣きして、怒り出して、
暴れ始めた時、シイナ・カペラはスーザンと同じく、
恋人のティモシー・ケインを連れてカラクリ部屋を通って生き延びていた。
カペラは2階のレッスン室の赤い扉の先に
ある休憩室の青いドアを勢い良く開けた。
「こっちよ!ケイン!」           
カペラは自分の背後を荒々しく息を切らし、
必死に走っているケインに呼びかけた。
彼女は既に汗だくだった為、
白い清潔なシャツは下の地肌にベッタリと貼り付き、
シャツは汗で透明になり、
大きな丸い胸を覆う白いブラジャーが僅かに浮き出ていた。
ケインとカペラは2階のレッスン室の休憩室の
青いドアを通って近くの廊下に出た。
しかしケインの先頭を走っていたカペラが
近くの廊下の角を勢い良く曲がった瞬間、
あの人型の植物の怪物がゆっくりと角を曲がり、現われた。
カペラは不意をつかれ、恐怖の余り、思わず甲高い悲鳴を上げた。
そして人型の植物の怪物は右腕をゆっくりと持ち上げた。
続けて右手の赤い鋭い鉤爪を
カペラの胸部に向かって勢いよく振り降ろした。
咄嗟にケインがカペラと人型の植物の怪物の間に割って入った。
同時に振り降ろされた右手の赤い鋭い鉤爪は
ケインの胸部を深々と切り裂いた。
続けてケインはその人型の植物の怪物を
思いっきり両手で付き飛ばし、転倒させた。
その隙にケインは右手で傷を負った胸部を押さえ、
左手で今度はカペラの手を力強く握ると一目散にその場を離れた。
そして階段を駆け下り、一階の物置部屋へ逃げ込んだ。
そこには幸いにもあの『R型』も
人型の植物の怪物もいない安全地帯だった。
しかし残念ながらその安全も一時的なものに過ぎなかった。
 
(第3章に続く)