(第9章)押すなよ、絶対押すなよ。

(第9章)押すなよ、絶対押すなよ。
 
烈花とクエントはスーザンに続く生存者に成り得たであろう
ブラディ・サイラスを助けられず、死なせてしまい、大きく落胆し、
憂鬱な気分のまま洋館の一階の大きなホールまで戻っていた。
その時、1998年製のタイプライターが置いてある木の机の上に
メモと兜の模様が付いた鍵が置いてあるのに気付いた。
「これは?兜の鍵ですね。」
「だが、あの食堂の先の長い廊下のピンク色の扉の
ドアノブは剣の模様だから開けられないな!」
「残念ですが。この鍵では無理ですね。
それにしても誰がここに置いたのでしょう?」
「メモがあるな。きっとこの鍵を置いた人物だろう。」
烈花は木の机に置いてあるメモを手に取った。内容は以下の通り。
「『R型』は御月製薬に所属していた研究員トムとバーク博士、
アッシュ博士によって試作BOW(生物兵器)として創造された
プラントE44により、T-エリクサーに感染させられた新人の
BSAAエージェントの烈花氏は後のT-エリクサーワクチン
により身体の大部分からウィルスは排除された。
しかし微量のT-エリクサーが子宮に残っていた為、
同時に注入されていた微量の種子細胞が烈花氏の卵子と結合し、
胚から胎児となり、そのまま急速に成長、帝王切開により誕生した。
BSAA医療チームによる遺伝子操作の結果、やはり宿主となっていた
烈花氏の遺伝子が組み込まれている事が分かった。
またアンブレラ社が洋館事件に関するジル・クリスの報告書にあった
プラント42に似た形の植物の遺伝子(
間違いなくプラントE44)が検出されている。
また宿主の烈花氏の免疫によってウィルスの影響が抑え込まれている為か?
出産当時は元気な女の子の姿をしていた。
我々、HCFは『R型』の胎児からある程度の毒性が抑えられた
T-エリクサーが検出された事と元々、プラント42シリーズは
空気中に有害物質が含まれていても
即座に順応する環境適応能力に優れており、
T-エリクサーの力も未知数な為、前回の『E型・エヴリン』の
次期子供型BOW(生物兵器)として試作する為に
彼女を対象とした研究がスタートした。
HCFの彼らは『R型』の胎児をベースに元々、
『R型』の体内に存在するある程度、毒性が抑えられた
T-エリクサーを利用し、遺伝子操作と改良を施した。
しかし元々、烈花と言う成人女性のDNAには
優れた身体能力と肉体の耐久力を持つ
優秀な遺伝子を持っていた為、HCFのバーク博士は更に『R型』の
身体能力を高めようと神経系統の改良を試み、瞬発力と俊敏性を高めた。
そして胎児から10歳まで身体も脳も成長していた。
しかしある日、とあるグローバル・メディア企業からの依頼で
開発中の軍用AI(人工知能)を
『R型』の脳の一部に移植しようと試みる。
成長中の『R型』の脳の神経に
開発中の軍用AI(人工知能)を大手術の末に移植。
また『R型』の卵巣にもその開発中の
軍用AI(人工知能)が移植されている。
この軍用AI(人工知能)は『R型』の肉体的・精神的成長に合わせて
自己増殖するプログラムと試験的な命令プログラムが組み込まれている。
『R型』の外因的、生物学的な寿命による
死により自動的に停止し、消滅する。
人間の寿命の間だけ機能するよう設定されている為、
『R型』は自然な寿命の間だけ生きられる。
(平均80歳か100歳までか?)
また自己増殖以外にもAIにプログラムされた命令を確実に実行する。
以上・同盟の情報提供者より。」
「次期子供型BOW(生物兵器)?
AIのプログラムされた命令を確実に実行……だと?
まともな人間として扱っていないのか……信じられん……。」
強いショックを受けた烈花は茫然とした表情でクエントを見た。
「全くです!酷い話です!ただ何故?その『R型』が暴走したのか?
今の所、不明ですが、いや、これはあくまでも憶測です。
もしかしたら?HCFは『E型・エヴリン』の事故を再現する為に
意図的に『R型』を確実に暴走するように仕向けていたとしたら?
とは言え、まだもう少し捜査してみないと
完全な結論を出すには早いですね。
ただ同盟の情報提供者は既に分っていますが……。
まあ、とにかく鍵は手に入りましたし。
この兜の鍵で開けられる部屋が無いか?
洋館内の一階と二階の部屋をしらみつぶしに調べてみましょう!」
「あっ!ああ、分った。だが、その何の為か?早く結論は出ないのか?」
「無理です。間違った結論は捜査のミスにつながります!
さあ!さあ!行きましょう!」
烈花とクエントは洋館内の大ホールの
大きな階段を昇り、再び二階へ向かった。
2人はまずは左側の2つの茶色の扉の内の一つを開けた。
茶色の扉の先はやはり赤いカーペットが
敷かれたコの字型の長い廊下だった。
しかしこの長い廊下に入った直後、目の前に1体のプラントデッドが
のろのろ歩いていたがクエントと烈花は
マシンガンとハンドガンで手早く片付けた。
プラントデッドは「うあああっ」と大きく呻き、仰向けに倒れた。
やがて仰向けに倒れたプラントデッドの身体から
大量の真っ赤な血を流がれた。
プラントデッドの身体から流れた赤い血は赤いカーペットが敷かれた
床に広がった後、血溜まりを作り、そして元の死体へ帰って行った。
烈花は長い廊下の入口近くの茶色の扉を開けようとした。
しかし烈花が幾らドアノブを回しても鍵が掛っているらしく開かなかった。
烈花は冷静にドアノブを確認すると鎧の模様が刻まれていた。
「鎧の鍵が必要と言う事か?と言うか?一体?幾つある?」
烈花の質問にクエントは両手を上げ、無言で肩をすくめた。
クエントと盛大に溜息を付いた烈花と共にまた
長い廊下の先へ進もうと歩き続けた。
すると今度は死角になっている長い廊下の角から急に2体目の
プラントデッドが烈花とクエントの目の前に飛び出して来た。
すかさず、クエントと烈花はマシンガンと
ハンドガンを構え、引き金を引いた。
いきなり飛び出したプラントデッドは右腕をゆっくりと持ち上げ、
続けて右手の赤い鋭い鉤爪を振り降ろす間も無く、ハチの巣にされ、
トドメに真っ赤に輝くつぼみの形をした頭部を破壊した。
弱点の真っ赤に輝くつぼみの形をした頭部を破壊されたプラントデッドは
仰向けに茶色の床に血溜まりを残して倒れ、元の死体へ帰って行った。
2体目のプラントデッドを倒した烈花とクエントは
コの字型の長い廊下の中心の緑色の大きな扉の前に立った。
クエントはその緑色の大きな扉を確認すると
扉には兜の模様が刻まれていた。
「兜の鍵があります。」
クエントは懐から兜の鍵を取り出した。
そして鍵穴に入れ、カチャッと回して見ると見事、鍵が開いた。
クエントと烈花は黄色の長い2対のドアノブをそれぞれ持ち左右に開けた。
そこは前後の壁に円形の盾が飾られた広い灰色の四角い部屋だった。
そして灰色の四角い左右の隅には大きな長三角形の先端を
持つ槍を構えた銀色に輝く立派な甲冑が14個も並んでいた。
「凄いな!中世の騎士はこんな鎧を着ているのか?」
「そうです。昔の中世の騎士はこんな鎧ですよ。
ですが、冴島鋼牙さんの黄金騎士ガロの鎧の方が
もっとカッコイイし、綺麗ですけどね。」
更に灰色の床の前後には茶色の大きなトサカの付いた
兜と鎧を象った四角い茶色の石像が置かれていた。
部屋の中央には四角形のくぼみがあり、中には赤い丸いボタンがあった。
「どういう意味だと思う?」
「今のところ分りません」
部屋の奥のショーケースの中には大きな盾とそして……。
「烈花さん!中に鍵が入っています!
どうやらこの部屋の仕掛けを解くと取れそうです!」
「鍵?じゃ?この前後の兜と鎧を象った四角い茶色の石像は?」
烈花は試しに押して見ると石が大きく擦れる鈍い音と共に動き始めた。
「動かせる!」
「なるほど!それであそこに置くんですね」
クエントが指さす方を烈花が見ると前方のショーケースの近くと
後方の入口の近くの灰色の床に通気口らしきものが見えた。
「あれを塞いだら部屋の換気が駄目じゃないのか?」
「いや塞がないと多分、鍵は取れないでしょう。
いいですか?ちゃんと仕掛けが解けるまで、押さないで下さいよ。
いや、絶対押さないで下さいね。頼みますから……。」
「まさかね」と烈花はハハハッと笑った。
そして彼女は部屋の中央の赤い丸いボタンをおもむろに押した。
次の瞬間、前後の通気口から黄色のガスが噴き出した。
「うわあああっ!なんだあああっ!
ゴホッ!ゴホッ!うわっ!意識が・・・・」
「ゴホゴホゴホ!毒ガスです!
言わんこっちゃない!いったん部屋の外に出ましょう。
「ああ、意識が朦朧として・・・・畜生!なんなんだ??」
「急いで部屋を出るんです!ほら口をちゃんと塞いで!
これ以上吸ったら死にますよ!」
それから二人は千鳥足で左右に足元を
危なっかしくふらつかせ、歩き続けた。
続けて2人は黄色の長い2対のドアノブをそれぞれ持ち、左右に開けた。
無事、2人はコの字型の長い廊下の中心の緑の大きな扉の前に脱出した。
やがて甲冑の間の部屋内の天井の換気扇か
何かがブーンと音を立てて動き始めた。
どうやら部屋に充満していた毒ガスは排気され始めたらしい。
 
(第10章に続く)