(第28章)生の価値がある者と生の価値が無い者

(第28章)生の価値がある者と生の価値が無い者
 
クエントと烈花はクレーマータックにより仕掛けられた多数の罠がある
反対側では無く2階の罠の無い安全な2階のフロアにいた。
そして二人は2階の個室の反対側にあるケイトの寝室の壁の
クレーマータックのメッセージに従い、書斎へ向かっていた。
2人はケイトの部屋から出た後、再び手すりのある階段を下り、
また物置小屋のある一階のT字型の廊下に出た。
2人はT字型の廊下の奥の青色の扉を開け、L字型の廊下に出た。
2人はL字型の廊下の中央にある茶色の扉の前に立った。
クエントは黄色のドアノブを回して見たが鍵が掛っており、開かなかった。
そして茶色の扉のドアノブを見ると兜の模様が刻まれていた。
クエントは兜の模様の付いた鍵を取り出すと鍵穴に入れて回した。
カチャッと言う音と共に鍵が開いた。
そして烈花は茶色の扉の黄色のドアノブを回し、中に入った。
中は青い縞模様の壁に白いカーペットの床。赤い椅子が置いてあった。
しかし周囲は真っ暗で何も見えなかった。
クエントは大きな机の上の方に行くと
スタンドのスイッチが見えたので指で押した。
すると電気がパチッと付き、周囲が明るくなった。
周りには埃のかぶった茶色の大きな棚が置かれていた。
また大きな茶色のクローゼットがあった。
「どうやらここが書斎の様ですね。」
「これは最近の新聞の様だ」
烈花は目の前の木の机に置かれた新聞を手に取った。
「ニューヨークタイムス紙。2020年7月20日付け。
『聖ミカエル病院前に反メディア団体ケリヴァーの
メンバーが集まり、抗議デモを起こす。』と言うタイトルだった。
詳しい記事の内容は以下の通りである。
「今日、8時16分頃、朝早くニューヨーク市内の幼稚園襲撃事件により、
リーダーの若村氏とメンバー数名が幼稚園児に対する暴言と暴力行為
無断侵入、人権侵害の容疑で全員逮捕起訴された問題で
リーダーの若村氏の精神鑑定の結果をデモ前日に入手し、
精神鑑定医のアシュリー・グラハム氏の精神鑑定の結果を不服とし、
メンバー1000人余りが聖ミカエル
病院前に殺到し、抗議デモを起こした。
州警察やニューヨーク市警が出動し、勿論メンバー全員、
今度は業務営業妨害で逮捕起訴された。
そして彼らの抗議運動のせいで救急車がER(緊急救命室)
に入れず多くの症状を抱えた患者の搬送が遅れた。
何人かが危うくしにかける事例もあった事から
病院側は彼らの活動を批判し、
同時に反メディア団体ケリヴァーのメンバー全員に出入り禁止処分を
下すよう警察に訴え、警察側はそれを了承した。
それに対し反メディア団体ケリヴァー側は反発を更に強めている。
若手新聞記者・ピートー・ウォーケン。」
「とにかく迷惑な団体だと言う事は間違いありませんね」
「まるでワガママな子供の様だな」
烈花は小さく呟き、埃のかぶっていた棚の中を見た。
すると棚の中に粉々になったテープレコーダーが置かれていた。
どうやら誰かがこのテープレコーダーの
内容を聞いて腹を立てて壊したようだ。
烈花がテープレコーダーのスイッチを押したが何も聞こえなかった。
しかし幸いにも中のテープは無傷だった。
烈花は壊れたテープレコーダーから無傷のテープだけを取り出した。
そして自分が持っていたテープレコーダーに入れてスイッチを押した。
間も無くしてクレーマータックの音声が流れた。
「ハローパルカス!ゲームをしよう!
この新聞記事を読んだ君なら理解できた筈だ!
反メディア団体ケリヴァーがどれだけ他人に迷惑を掛け、
自分勝手で自己中心に振舞って来たか?
そして君にはその大罪を償うチャンスをやろう!
レッスン室の地下へ向かえ!そこに君の仲間達が待っている!
君は仲間を。先天性な重度の心臓病を抱えた
アフリカ人もそこに囚われている。
君は自らの身体の一部を犠牲にして彼を救えるか?
そして君は私のゲームで2人の仲間を救う事が出来る。
しかし代わりに残りの選ばれなかった4人は死ぬ。
6人から2人を生かして、そして殺すかは君の選択次第だ!
何も難しい事じゃない!君と君の仲間が今までしてきたようにやればいい。
生物は生と書いて物と書く。
生とは人間。物は君達団体が排除しようとしているメディアツール、
つまりテレビ、パソコン、ゲームだ!意味は分るかね?
本来。人間も動物も植物も鉱物もテレビ、パソコン、ゲームも同価値だ!
君はメディアツールを排除するように殺す人間を決めて排除すればいい。
そして生かしたい人間、お前にとって価値のある人間を決め!
それを生かせ!人は物だ!さあー急ぎたまえ!
レッスン室の地下に続く道が開くのは1時間のみだ。
それを過ぎれば?分るな!ゲーム開始だ!カウントダウンは始まったぞ!」
そこでテープは止まった。
直後にバアン!と大きな音と共に突如、木の机の傍に置かれていた
クローゼットの扉が左右に撥ね戸のように高速で開いた。
そして中から真っ赤に輝く無数の牙が付いたつぼみを
クパアッと開いた状態のプラントデッドが飛び出した。
烈花は「おっ!」と声を上げるが表情はほとんど変わらなかった。
既に彼女は片手でハンドガンを構え、引き金を引いていた。
放たれた3発のハンドガンの弾はプラントデッドの
緑色の右腕と左腕、頭部を撃ち抜いていた。
プラントデッドは「あああっ!」と呻き声を上げて、
ゆっくりとうつ伏せに倒れた。
しかし間もなくしてまた「うわああっ!」
と呻き声を上げ、ゆっくりと立ち上がった。
すかさずクエントが両手でマシンガンを構え、引き金を引いた。
放たれた数百発のマシンガンの弾はプラントデッドの胸部を撃ち抜いた。
プラントデッドは吹っ飛ばされ、「ううあああああっ!」と
大きく呻き声に似た断末魔の声を上げ、血まみれのまま
クローゼットの床に叩き付けられた。
そしてズルズルとクローゼットの床に座りこんだ。
「びっくりしました!」
「そうか?」
真顔で烈花はそう答えた。
しかしクローゼットの中で大量の血を流して座り込んだまま
再び死んだプラントデッドを見ると小さく溜め息を吐いた。
「こんな狭い所に閉じ込められてかわいそうに」
烈花はそう小さく呟くと静かに目を瞑り、そっと両手を合わせて合掌した。
クエントは書斎の木の机に置いてあるスタンドの上の傘の部分に
またクレーマータックのメモが貼ってあった。
クエントはメモを手に取り読んだ。
『屋根裏部屋に元凶が待っている』と。
「元凶?若村の事か?」
「多分反メディア団体ケリヴァーのリーダーの可能性が」
「行ってみよう!屋根裏部屋へ!」
烈花とクエントは書斎を出るとまたL字型の廊下に出た。
そして手すりのある階段を昇って2階へ行き、
またコの字型の長い廊下に入るとそのまま移動した。
2人は廊下を曲がり、緑色の扉を通り過ぎ、
再び廊下の角を曲がり、2階部分の大ホールに続く
茶色の扉の入口近くの茶色の扉の前に立った。
烈花は冷静にドアノブを確認すると鎧の模様が刻まれていた。
そして鎧の鍵で茶色の扉の鍵をカチャッと開けた。
茶色の扉の先は柱のあるブーメラン形の廊下だった。
そして柱のあるブーメラン形の廊下の床に
書き捨てられたと思われるメモが落ちていた。
クエントは拾ってクシャクシャになった紙を広げた。
烈花はこの柱のあるブーメラン形の廊下の先に
茶色の扉が見えたのでクエントに呼びかけた。
「どうやらまだこの先にー。」
「若村氏が残したメモを見つけました!」
「なんだって?」
烈花はクエントの所に戻り、
一緒に若村が書き捨てたと思われるメモを読んだ。
「なんだ?これはまさか?」
「マズイですね。彼は『R型』に洗脳されて
凶暴化しているかも知れません。」
 
(第29章に続く)