(第50章)ラザロ

(第50章)ラザロ
 
ジルはにっこりと笑った後、その黒炎剣の黒く鋭い先端を自分の脇腹に突き刺した。
ゾイはたまらず視線を逸らした。
一方クエントは大慌てで「ちょっと!何をしているんですか?」と声をかけた。
ジルは痛みを堪えて深々と自分の脇腹に突き刺した黒炎剣を引き抜いた。
同時に脇腹の傷はあっという間に癒えた。
そして黒炎剣の鋭い先端には真っ赤に輝くジルの血液がべっとりと付着していた。
続けてジルは両手で黒炎剣を構え、「ハアーッ!」と気合を入れた。
間も無くしてジルの全身から放たれた始祖ウィルスの起源たる賢者の石
の力が乗り移るように漆黒の両刃の長剣を覆いつくしていた。
更にジルの意思に従い、黒炎剣は漆黒の両刃の長剣から
真っ赤な両刃の細長い槍に変化した。
「ちょっ!嘘ですよね?これはかつてドイツの独裁者が欲しがっていた!」
「そうだ!あれが本物のロンギヌスの槍らしい」とゾイ。
ジルは全速力でエロースに向かって駆け出した。
エロースは再び下腹部から伸びた多数の青い透明な触手を伸ばした。
さらに触手の先端の2対の角のある頭部がバカッと割れた
6本の細長い触手と4対の牙を剝き出し、襲い掛かった。
しかしジルはウェスカーと同様に高速移動しながら多数の青い透明な触手を
右、左、左、右、右、左、左、下、上と目に止まらぬ速さで全て回避した。
そしてクエントとゾイがようやく目がついて行き、
ジルの姿がはっきりと視認できる頃にはすでにエロースの
青い透明な胴体の胸部に向かって大きく右腕を振り下ろした。
ジルはロンギヌスの槍と化した黒炎剣をエロースの
青く透明な胴体に深々と突き刺した。
それはたちまち露出している60人の女性の形をした赤い内臓器官を貫き、
深部の核(コア)の部分に突き刺さった。
すると60人の女性とエロースはまるで蜂の巣をつついたように甲高い声で絶叫した。
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
「ぎゃああああああああっ!ああああっ!ああああああっ!」
ジルは「これでいいのよ!さあ生き返りなさい!」そう言うと手首を力の限り捻った。
次の瞬間、エロースの青く透明な胴体の深部の核(コア)はあっという間に液化した。
そして連鎖的に60人の女性の形をした赤い内臓器官も液化した。
やがてエロースの青く透明な胴体から真っ赤な液体が勢いよく噴出した。
ビシャアアアアアアアッ!と轟音と共に鉄砲水のように噴出した
真っ赤な液体はそのままジルの体を通り抜け、白い岩の床に全て零れ落ちた。
やがて零れ落ちて白い岩の床に広がった真っ赤な液体があっちこっちで
バシャ!バシャ!と60回余り、水の跳ねる音が聞こえた。
そして真っ赤な液体の中から全裸の白い肌に覆われた生前の姿を
保った反メディア団体ケリヴァーのメンバーの若い女性達が
再び大きく深呼吸し、息を吹き返し始めた。全員!奇跡的に生きていたのだった!
リリー・ヴィクトリアやコディ・ノアはただ茫然と周囲を見ていた。
何が起こったのか?さっぱりわからないという表情である。
するとゾイはそのリリー・ヴィクトリアやコディ・ノアの元に近づき、こう言った。
「ようこそ!現実世界へ!」と。
ジルはエロースの青い透明な胴体からロンギヌスの槍を引き抜いた。
そして空中でバック転した後、白い岩の床にストンと着地した。
やがてロンギヌスの槍は元の黒炎剣に戻った。
すでに剣に付着していた自分の血液は消えていた。
「逃げなさい!また食われるわよ!」
ジルの一言に、今、青い透明な胴体に大きな穴を開けて空中で
静止しているエロースの姿を見るなり、全員一斉に絶叫した。
続けて全員、恐怖に顔を極限まで歪ませ、死に物狂いで立ち上がった。
そして全員、全速力で古びた真っ赤な扉を左右に開けて我先へと逃げ去って行った。
数時間が経過した頃、不意にクエントの無線機が何度も鳴ったので出た。
「こちら!スティーブン!先程この洋館の地下のクリオネ内の
HCF仮説研究所に医療チームを待機させています!
そして今、医療チームからジルさんが救出した
反メディア団体ケリヴァーの60人の女性や例の生存者達を
既に保護して治療と検査を行っています!」
「そっ!そうですか?よかったです!しかしジルは何故?」
「さあー私にもさっぱり解りません!イエスの奇跡でしょうか?」
ティーブンはくすくすと笑い、そうはぐらかすと無線を切った。
「あっ!ちょっと!もう!」とクエントははぐらかされた事に
困惑した表情を浮かべつつも無線機をBSAAの服にしまった。
直後またエロースの甲高い鳴き声が響き渡った。
「ピイイイイイイイイイイイイイイイイイッ!」
3人が反射的にエロースの方を見た。
エロースは青く透明な胴体に丸い大穴を開けつつも
また巨大な4対の足翼をバタバタと動かし、
空中を遊泳するように飛行を開始し始めた。
どうやらまだ生きているようだ。
そして下腹部から伸びた青く輝く細長い触手の
先端の2対の角を持つ頭部を次々とバカッと開いた。
そして多数の青く輝く透明な細長い触手の先端から
6本の触手を次々と伸ばして行った。
更に青い透明な胴体が大きく開いた大穴はみるみる内に新しい透明な
ぶよぶよとした皮膚に覆われ、幾つかの赤い内臓器官は消滅
してしまったものの元通りに急速に再生していった。
エロースは巨大なオレンジ色の眼球で白い岩に立っている
ジル、ゾイ、クエントを恨めしい視線で見た。
残りはエロース本体を回収するだけだった。しかしエロースは再び甲高い声で鳴いた。
「ピイイイイイイイイイイイイイッ!」と。
 
秘密組織ファミリーが所有する回収ヘリはまだ
アークレイ山中のラクーンフォトレストを飛行していた。
燃料はたっぷりとある。あと一時間以上は飛び続けられる。
ジョンは自室のパソコンでファミリーのメンバーであり、
スパイであり、幹部であるマルセロ・タワノビッチ
と言う人物からメールを受け取っていた。
ジョンはすぐにメールの内容を確認した。
ジル・バレンタインが自らの血液と黒炎剣を利用した
あのアレックス・ウェスカーが研究していたものを参考にした
ロンギヌスの槍の転生の儀が成功すればあの『R型』がこちら側(バイオ)
の世界を滅亡させる為に製造された巨大BOW(生物兵器)エロースは
かつてあの第3の世界にして天界(真女神転生Ⅳファイナルのロウルート)
に存在し、真魔界竜として転生する前の世界蛇シェーシャーの
記憶と精神、つまり人格とあの能力を受け継ぎ、
転生される。ジルの血族となってのう。
そしてエロースはあの第3の世界にして天界
(真女神転生Ⅳファイナル)の人々の魂を腹一杯喰らい、肉体共々のう。
最後はあんたとジルが望んだ通り、新宇宙を創造する為の宇宙の卵となる。
後は転生後の定着と安定の為に半年掛かるらしいが。
少なくともエロースの本体の到着がこれから楽しみで仕方がないのう。」
「そうだな!これからお楽しみだ!」とジョンはニヤリと笑った。
 
かつてアンブレラ社が管理と運用をしていた人体実験補充用療養所
クリオネの最深部の2階建ての四角い部屋。
「それで?作戦はあるんですか?」
クエントはジルとゾイに尋ねた。
するとジルは静かにこう答えた。
「もう一度ロンギヌスの槍を使うわ!」
「しかしあのエロース本体をロンギヌスの槍でどうやって?
あんなバカでかい!ましてや高い再生能力をもつ
あれを回収するなんて!いくらなんでも無茶ですよ!」
クエントが不安な表情で答えるのに対し、
ジルは彼に向かって穏やかな口調でさらに笑いかけ、こう答えた。
「ケ・セラセラ!なるようになるわよ!」
「ああっ!あっ!そうだな自前の作戦通りにいけば!」
「不測の事態が起こっても何とかするしか!」
ゾイは未だに不安な表情を浮かべているクエントに
2丁の内の1丁のロケットランチャーを手渡した。
するとジルが不安なクエントにこう励ました。
「大丈夫!あたしが動きを止めて弱体化させるわ!
残りはいつもの伝統に任せれば大体うまく行くわ!」
ジルの言葉にクエントはロケットランチャーを見つめた。
「本当に大丈夫ですかね……」
そんな会話をしている間にもエロースは再び起動し、
下腹部から伸びた触手の先端の6本の細長い触手を3人に向けた。
 
(第51章に続く)