(第16楽章)組曲・愛を求める魔獣と自らの存在意義に悩む青年

(第16楽章)組曲・愛を求める魔獣と自らの存在意義に悩む青年
 
翌朝。シャノンは上の階の寝室から起きて朝食を取り、
歯磨きと顔を洗いメイクして下のガレージに降りてガレージの中の
自分が乗る仕事用の白いバイクとアレックスが
変身した赤いセダンを見ると小首を傾げた。
俺はどういう訳か昨日のくたくたの疲れがなかなか取れず
まるで二日酔いのように気持ち悪かったのでシャノンが不審に
思ってる事はあまり気が付かなかった。
俺は昨日、確か。うーつ!なかなか思い出せない。
そしてシャノンは俺がなかなか昨日の夜の事を思い出せないのを
全く知らず、俺の横に停めてあった白いバイクの所へ歩いて行くと
木の机に置いてあったリモコンでガレージのシャッターを開けた。
 
シャノンのすぐ隣にある空き家。
そこはごく普通のよくある家である。
つまりイスや机、食器棚が置いてあり、もちろんテレビや
台所や電気やパソコンもあったし、シャワーや風呂もトイレもあった。
しかし食器棚の下部の観音開きの扉の奥の棚の中には爆薬に使用する
火薬や時計、赤、黄、青、黒の細長いコードの束。
大きな黒い箱が段ボールの中に一つにまとめられていた。
本棚にはコーランの本とイスラムアッラーの偉大さを書いた
アラビア語の本が山積みとなっていた。
そして数人の男達は食器棚の下部の観音開きの扉から
段ボール箱を取り出し、テーブルに置いて爆弾の製造を
まるで憑りつかれたように一心不乱に作業をしていた。
もちろん自分達の作業を見られぬようにあらゆるカーテンの窓は締め切られていた。
彼らはこのニューヨーク市内のレストランで爆弾テロをする為の準備を続けていた。
そしてテロリストのメンバーの一人でまだ若者のアヴドゥルは仲間にバレぬよう。
こっそりとカーテンを開いた。彼はしばらく窓をぼーっと眺めていた。
すると白いバイクに乗った近くのガレージから仕事へ出発するシャノンの姿が見えた。
いつも彼女の様子や外の人々の様子を窓から見る度にアヴドゥルは果たして
自分や彼らの行為が本当に神の御意志なのか?いつも疑問を抱いていた。
何故ならいつも毎日、バイクに乗って幸せそうに笑顔で近所の住民達に挨拶しながら
出て行くシャノンの姿を見ていたからである。
あの人は常に笑顔を絶やさず前向きで明るかった。それに比べて僕は。
アヴドゥルは一心不乱に爆弾を製作している仲間数人とコーランの一文を
大袈裟に語り合う仲間を見つめつつも彼らが
『神の御意志であり、アッラーを信仰しない者は全員悪人であり、
この戦いは正に聖戦(ジハード)だと信じて疑わなかっていなかった。
むしろ疑問を持つことなど御法度で固く禁じられていた。
だから15歳の少年のアヴドゥルは元々子小心者なので自分の疑問を打ち明ければ
処刑されそうで怖くなり、ずっと心の中にしまっていた。
とにかく今の彼には仲間内でさえも親友と呼べる者は誰一人いなかった。
僕は神の意志に従うしかない。
どうせ!誰も相談出来る奴なんていやしないんだ!
アヴドゥルはカーテンの隅の机の上に置かれている
魚も水も入っていない空の埃だらけの水槽を見た。
すると自分は何故かアッラーに水槽の中に閉じ込められて。
いいように餌を与えられて、信じ込まされて都合よく飼われているような。
そんな嫌な気持ちに駆られた。外へ出られるのだろうか?
水槽の中で飼われ続けて挙句に最後は神の王国と名札の付いた水槽に移されるんだ。
だから僕自由になれないんだ!!こんな憂鬱なここは僕の居場所じゃない!違う!
僕はこんなサラフィー主義に縛られた水槽の中にいたくないんだ!
僕はアッラーのみ信じる必要を感じない!
第一『アッラーのみを信じなければならない』って誰が決めたんだろう?
他の宗派が作った聖人の記念の石や墓や崇拝対象となった樹を切り倒して
何になるのだろう?樹はちゃんと生きているのに!
偶像?誰がそんな事を決めたんだろう?
僕も仲の良いフリをしてイスラムでやったけれど……。
それに僕らは仲の良いフリをして勧善懲悪を重視して
1日5回祈りをしない者には罪を与え、あるいは物を
盗んだ人の手首をナイフで仲間が切り落とした。
後はこれ以上は思い出したくない。
僕はサウジアラビア出身で両親が言うには。
僕はアラブ人でクライッシュ族の子孫らしい。
僕は小さい頃は何なのか分からなかった。
クライッシュ族はメッカ近郊を勢力圏として遊牧や交易
をしていたアラブ人の部族だったようだ。
そしてクライッシュ族はイスラム教の創始者である
預言者ムハンマドの出身の部族だったのは有名な話だ。
僕もよく知っていた。勿論、幼い頃から。
僕はとにかくクライッシュ族にしろ、僕個人にしろ。
僕は人間なんだ!僕は純粋な人間なんだ!
それとも人間らしく自由に生きるのが正しいのか?
僕はなんなんだ?これからアッラーに従って生きるのが正しいのか?
僕は何の為に生まれた?僕の居場所はどこに?天井の神の王国か?
僕の居場所はどこなんだ?
僕両手で頭を抱え、一人で長い間、
仲間達と全く知らない所で悩み続けていた。
 
再びシャノンのガレージ内。
白いバイクに乗ってシャノンが仕事に出かけた後。
アレックス事、俺はまた眠りから目覚めた。
それからこっそり赤いセダンからアレックスの姿に戻ってみた。
更に俺はこっそりとガレージ内のテーブルに置いてあった新聞を手に取って開いた。
俺は誰かが来た時の為に赤いセダンがあった白いコンクリート
胡坐をかいて座り込みニューヨークタイムズを読んでいた。
新聞のニュース記事にはー。
ニューヨーク市内で奇妙な出来事が相次いでいる。
3日前からニューヨーク市内に住む5000人もの若い女性達が次々と父親が
誰か不明にも関わらず3日後の翌朝と同時に一斉に妊娠してしまうと言う
不可解な事件が発生した。また一年前にも『オクトマン事件』が発生していたが。
今回の不可解な妊娠事件では女性達を
妊娠させた父親が未だに誰なのか不明のままである。
ニューヨーク市警と聖ミカエル病院では今後も協力して捜査を続けるとの事である。
アリッサ・クロフォード。」
そう言えば俺とあのエミリーって言う女の子はどうしているのだろう?
俺は万人のニューヨークの街中の女性達の中で一人一人は全く記憶していない。
でも実はエミリーとペルシッサだけは何故かはっきりと記憶していた。
それは何故か分からないが多分、いつもの俺のやり方をしていなかったからだろうか?
(でも実のところ俺はぺルシッサという女が何と言うか
感情の無い機械に見えて余り愛してやれなかった。
俺はむしろ感情があって明るいエミリーとシャノンの方が好きだ)
ぺルシッサはニューヨーク市内のストリート街の廃工場の近くでフッと俺の前に現れて。それで俺に近づいて来て。いきなり服を脱いで全裸になって!
俺の唇にキスをしてきたんだ!信じられないだろ!!兄弟!!
俺はあのエミリーと同じように急に口内にピリッと痛みが走って。
それで口内からまたビリーとピートを捕食するのに使った
あの4対の牙とは違う2対のでかい袋の付いた何かを出したな。
後はご察しの展開だが。あれが何だったのか?さっぱり分からねぇ!
エミリーの時とぺルシッサの時に出たあれは一体?
しかもぺルシッサもエミリーと同じく両頬と深い胸の谷間を紅潮させて。
後は同じだ!えーと反応がな!!さてさてあれは何なのかさっぱり分からねぇが。
俺は近くの本棚の中に昆虫の本があった。
俺はひょっとしたら?と思い、その昆虫の本を手に取った。
パラパラと開いてみると蜘蛛ページに辿り付いた。
そして昨日、ぺルシッサとエミリーの時に
口内から出したあの物体の謎が簡単に解けた。
どうやらあの物体は蜘蛛の触肢で先端に膨らみがあるのは
精子を溜め込んでいると言う訳だ。
蜘蛛は交尾をする時は触肢の先端をメスの蜘蛛の腹部の
書肺の中央の生殖孔に精子を注入すると言う。
きっと俺は蜘蛛みたいな奴なのだろう。
なかなか勉強になった。
しかし!まてよ!そうだとしたら?
ぺルシッサとエミリーは妊娠している可能性あるぞ!
うーむ。例の俺の顔や容姿を認知出来なくする結界を用いてもー。
遺伝子検査で子供の遺伝子に俺の遺伝子が検出されればどうしようもないぞ!!
すぐにバレるのは時間の問題だ!!
 
ニューヨーク市内のBSAA北米支部の道路を走る一台の車には
エアコンをフルパワーで動かしている車内でジルと鋼牙が乗っていた。
車内では鋼牙とジルは車内の運転席でフルパワーのエアコンで涼んでいた。
すでに娘のアリス・トリニティ・バレンタインは幼稚園に送り、
息子のシェーシャはベビーシッターに頼んで貰い一緒に家にいる。
今日は丁度、夏本番でとにかくやたらに暑かった。
ジルは全身をエアコンの風で当てて全身の汗を
蒸発させて体温を下げながら風に当たり続けた。
鋼牙はぺッドボドルの蓋を開けて、アクエリアスを飲んだ。
そして不意に鋼牙はジルに向かって厳しい口調でこう尋ねていた。
「ジル!昨日の日中!ニューヨークの自由に女神像が見れる
あの海岸で何をしていた?また悪霊の呼ばれたのか?」
「何も昨日の日中はただ散歩していただけよ!
ふと前世のジャンヌ・ダルクとドラキュラ伯爵の事を思い出したのよ!」
 
(第17楽章に続く)