(第32章)氷の微笑とドリーム・キューブ

次のゴジラの自作小説です。

(第32章)氷の微笑とドリーム・キューブ

オホーツク海の分厚い流氷に徐々にヒビが入った。
流氷の氷が青く輝き、やがて溶けて割れるとゴジラの背びれが現れた。
 その様子を防波堤で眺めている女がいた。サンドラだ。
彼女の身体はまた青緑色のゴジラに似た鱗に覆われ激しい潮風の中、ゴジラの方をただじっと見ていた。
 サンドラは荒波の発生している冷たいオホーツク海に水柱を立てて飛び込んだ。
 ゴジラは何かを感じた様子で防波堤の近くの分厚い流氷の方を見ると、
突然のその流氷の分厚い氷が真っ二つに割れ、そこから水柱と共に怪獣が現れた。
それは、全身が半透明の青緑色の鱗で覆われ、
腹部の赤く光る核に8本の赤黒い吸盤が付いた触手を持ち、
脇腹にはゴジラの背びれに類似したギザギザの翼状の足が生えていた。
ついにヒグマの様に頑丈な体格と、太くて巨大な5本の爪を持つ両腕が流氷から露わになった。
更に、巨大なクリオネに似た頭部が現れた。
 この巨大生物は、間違い無く凛達が入院している病院の近く
の町を襲った怪獣だった。その怪獣は咆哮を上げると頭部から
も8本の赤黒い吸盤の付いた触手を伸ばし、
さらに触手の内側に沿ってびっしりと並んでいる牙を見せつけてゴジラを威嚇した。
 ゴジラも負けじとドスの利いた声で威嚇するかの如く吠えた。
 しかしその巨大生物は何故か苦しそうな様子だった。
ゴジラは怪獣を睨みつけ油断無く身構えて相手の様子を伺った。
 そこに吹雪の中から轟天号が現れた。
 その巨大生物は、巨大な牙に空いた幾つもの穴から青緑色の液体を何度も吐き出した。
その液体は空中で浮遊しながら停止しやがて形を変え、巨大なクリオネに変わった。
さらに身体中から青緑色の多くの巨大クリオネが現れた。
クリオネは触手と半透明の牙を剥き出し、獣の唸り声を上げながら、
獲物であるゴジラと攻撃準備に入った新轟天号に向かって物凄い速さで真っ直ぐ向かって来た。
 巨大生物は、左右の脇腹にあるゴジラの背ビレの形をした翼足をばたつかせ、空へと飛行した。
 ゴジラは襲いかかって来た巨大クリオネの群れを次々と放射熱線で撃ち落としていった。
放射熱線の直撃を受けた巨大クリオネの群れは石化して次々と爆発し、粉々に砕け消滅していった。
 しかしその巨大生物は何度も青緑色の液体を吐き出し、次々と巨大クリオネを生み出して行った。
 その怪獣はサンドラの居た防波堤にヒグマの様な太い両足で着陸して吠えた。
 ゴジラは、群れて来る巨大クリオネの群れを振り払おうと躍起になるが、
青緑色の巨大クリオネの群れに覆われどうしようも出来なかった。
 ゴジラは放射熱線を何度も吐き、周りにいた巨大クリオネを蹴散らした。
それからゴジラは怪獣の方を向き、背びれが青く輝き、放射熱線を吐いた。
放射熱線が怪獣に直撃する直前、怪獣はヒグマの様な鋭い爪を振り回し放射熱線を軽くはじき返した。
方向を強制的に変えられた放射熱線は遥か遠くの海に落下し爆発した。
 その怪獣はそのまま飛び上がり網走の街へと向かって行こうとした。
しかしゴジラはもの物凄い速さで分厚い流氷を粉々に砕きながら近づき、怪獣の足に噛み付いた。
 怪獣は悲鳴を上げ、長いゴジラに似た尻尾をゴジラの首に巻き付けると、
ゴジラを港の方へ投げ飛ばした。
ゴジラは港近くの流氷の厚い氷を破壊し、海へ沈んだ。
 怪獣は飛行しながら網走市へ向かって行った。

 友紀と別れた蓮は洋子を探していた。
しかし自分の病室にも洋子は戻っていなかった。
 やがてエレベーターに乗る洋子を見つけると蓮はドアが閉まる前に急いでそのエレベーターに乗った。
蓮はドアを閉めるボタンを押しながら
「どこに行くの?」
と尋ねたが洋子は答え無かった。
蓮は
デジタルカメラがあるけど一緒に撮ろうよ!」
と誘った。しかしそれでも洋子は不安な表情のまま無言だった。
 蓮がデジタルカメラで洋子の表情をカメラのレンズに収めた時、
洋子は修学旅行のバスで凛に見せたあの冷たい微笑を浮かべていた。
それを見た蓮は凛と同様に背筋が凍り付くのを感じた。
 何事もなかった様子で洋子はおもむろに口を開き
ニセコのホテルで蜘蛛と蛇を掛け合わせた生物の夢を見たでしょ?覚えてる?」
蓮は頷くと
「あの時、凄い悲鳴を上げていたね……その夢がどうかしたの?」
洋子は
「修学旅行に行く数か月前、学校の帰りに5人の女性と会っていた事を思い出したの!」
蓮は
「なんだって!!」
洋子は
「それで……長野先生から小さな箱を渡されたの!理由は分か
らないわ!確か『これは大事なものだから』って言っていたわ!」
蓮は
「おい……そんな大事なことをどうして?その箱は今何処に?」
洋子は
「その5人の女性があたしに襲いかかってその箱は奪われたわ!
あたしはしばらく気絶して通りすがりの人に助けられた!」
蓮は憤慨した様子で
「酷い女達だ!」
洋子は
「あたしはその箱の中身が気になったの!」。
それを聞いた蓮は苦笑いをしながら
「それでどうするつもり?浦島太郎みたいだったら?」
と冗談交じりに言った。
やがて洋子は
「実は長野先生を呼び出して事情を聞こうかと思うの!あの箱
の中身はなんだったのか?」
と真剣な顔で連のデジタルカメラのレンズに向かって言った。
 しかし蓮は階を上がるにつれて、複数の殺気と不穏な気配を感じていた。
洋子は動揺した様子で
「どうしたの?」
蓮は洋子より真剣な表情で
「不穏な気配と複数の殺気を感じる!恐らく凛も同じだろう……」
とだけ答えた。

 凛と山岸は病室に友達と集まり、またトランプをしていた。
 しばらくババ抜きをしていて山岸は
「ねえ?何か外の様子がおかしくない?」
その場にいた中山が
「パトカーのサイレン何かが聞こえるね!」
小野さんは
「いやあだ!また怪獣?せっかくの修学旅行なのに……」
窓を見ていた巌さんは
「パトカーや救急車が広場に集まっているな……」
中山さんは
「きっと……怪獣やら出現して警備が厳しくなっているんじゃ
ないの?」
と言った。
小野さんは不安な表情で
「大丈夫かしら?ここは?また何かあったら・・・」
巌さんは
「大丈夫さ!国際警察や地球防衛軍がいるし……」
 山岸が凛の方を見ると、凛は無言で何か考え事をしていた。

(第33章に続く)