(第35章)姉・杏奈の最後のリポート

(第35章)姉・杏奈の最後のリポート

アフリカ人の医師は
「症状が進むと……激しい咳と共に白い粒の混じった血淡を吐いた後、やがて呼
吸困難で意識不明になります。肺や気管支に『肺結核』によく見られるような」
小さな出血が起こり、心不全脳梗塞で亡くなるかあるいは最悪の結果も……」
アフリカ人の医師は、先程2人のFBI捜査官が死体安置所で見て来た
死体の生々しい写真を画面に映し出した。
美雪と健吉はあまりの酷さに目を背けた。
女性FBI捜査官は
「つまり……アフリカに見られるエボラ出血熱の様に高熱も?……」
するとアフリカ人の医師は
「はい!高熱も確認されています!それに大勢の患者の免疫機能が
デストロイアによって破壊された事で日和見感染症にかかっている
患者も複数確認されています!
最後は猛烈に増殖した微小デストロイアが患者の血管細胞を破壊し、皮膚や胃、腎臓、
肺などあらゆる臓器が食い破られ、ミクロオキシゲンによって全身の
穴から組織の溶けた白い液体が流れ出し……苦悶の内に……」
と説明したが、その後はアフリカ人の医師はその様子を思い出し悲しみのあまり話を続けられなかった。
すると神宮寺博士は
轟天号のゴードン大佐から、デストロイアは急激な進化を続け……冷凍攻撃や
火器攻撃も通用しなくなったとの連絡がありました。本体の緑色のデストロイア
が進化しているせいだと思われる……だから手足の役割を果たす微小デストロイ
アに高温殺菌や冷凍殺菌も通用しない可能性が極めて高い……
それにあのGメ―サー治療が通用しないとすると事態はかなり深刻だ!
彼らは耐性を身に付け始めている!
今では患者から大勢の医師や看護婦に空気感染をしてかなり危険な状態です!」
美雪は研究所の机に座りながら
「このまま看護婦や医師が倒れたら……お願い!
時間が無いわ!凛……ゴジラ……早く倒して……」
両手を合わせて祈る様に言った。
地球防衛軍の特殊生物病院で美雪はふと姉の杏奈の事が心配になり、
研究所のラボのテレビを付けて、日東テレビのチャンネルに合わせた。
するとテレビ画面には姉の杏奈が病院の廊下のどこかでレポートをしている様子
が映し出された。美雪はほっとして
「よかった無事だったのね!」
と言ったのも束の間、突然、杏奈の周りから銃声や悲鳴、
苦悶の絶叫、怒号の声と互いに何か言い争うような声が聞こえた。
それを見た美雪は
「そんな……」
杏奈のレポートで彼女の不安は現実となった。
「Gメ―サー室前の隔離廊下です!今ここでは!
微小デストロイアと医師や看護婦との激しい死闘が繰り広げられています!
現在この廊下に微小デストロイアが発生して緊急隔離をされています!
ジャーナリストで日東レポーターである私は先程の血液検査でデストロイア
感染していることが分かりました!この赤い悪魔に感染すると94%の確率で死に至るそうです!
今!赤い悪魔は私の体を確実に蝕み身体が……ここの現場レポートが……
ゴホッ!……人生最後になるかも知れません!」
それを見ていた美雪は
「駄目……姉ちゃん死なないで!!」
と必死にテレビに映っている姉に訴えた。
しかしテレビの中の杏奈は両手をマイクを近づけ
耳掛けで周りの様々な騒音を塞ぎながら
「今!咳が始まりました!ゴホッ!ゴホッ!だんだん胸が苦しくなってきました!
呼吸をするのがやっとです!カメラマンさんも同じ症状が始まった様です!」
杏奈を映していたカメラマンもゴホッ!と咳を始めカメラを三脚に乗せたので画面が上下に少し揺れた。
その間、周りからは医師の
「合図したら!別のベッドに移すんだ!せーの!1!2!3! 」
という声と共にドン!と音が聞こえた。カメラマンがそこにカメラを向けると
「頼む!殺さないでくれ!助けてくれ!」
と悲痛な声と苦悶の声が聞こえた。
杏奈は
「ゴホッ!ここはまさに!地獄です!」
と言いながらその場に座り込んでいた。周りから数名の医師や看護婦が駆けつけた。
そして杏奈は酸素マスクを付けられベッドに乗せられた。
最後にカメラは杏奈の手の掌に白い粒が混じった血らしきものを映した。
一人の日本人の医師が
「何をしているんだ!カメラを止めろ!」
とカメラマンに食って掛かった。
しばらくしてテレビの画面が真っ暗になったがまだ動いていた。
そして一瞬だけ青白い顔をして高熱で汗だくの杏奈の顔が見えた。
僅かなか細い声で
「もう限界です……レポートは出来ません……最後に私の妹の美雪に一言メッセ
ージを……お願い……あたしが死んだら……あたしの分まで……生きてね!生き延びて!」
そしてカメラは医師達に止められたようで画面に
「しばらくお待ち下さい!」
と言う文字が浮かんだ。
健吉が女性FBI捜査官の顔を見ると涙をハンカチで必死に目頭をぬぐっていた。
美雪も目頭が熱くなり
「お姉ちゃん!死なないで!」
と暗くなったテレビ画面に必死にすがりつき泣き叫んだ。
健吉も美雪の肩を優しく叩きながら
「大丈夫です!必ず姉ちゃんと大勢の患者の命を助けましよう!」
と励ました。男性のFBI捜査官はポケットからハンカチを取り出し、渡した。
美雪は手を伸ばしハンカチで鼻をかむと決意した様に立ち上がった。

(第36章に続く)