(第56章)生きていたレイ!

(第56章)生きていたレイ!

 元FBI捜査官の女は美雪と神宮寺博士のいるテントに戻った。
美雪は
レベッカから何か手掛かりは掴めましたか?」
彼女は
「いいえ!駄目だったわ!彼女の主張はあまりにも支離滅裂で、
到底……ワクチンの開発に役に立ちそうにもないわ!」
思わず美雪は苦笑いし
「そう……ですか?」
心中では
「ああ……この人……やっぱり苦手なタイプかも?」
と思った。
すると彼女は
「ところで?あのG塩基を投与した宇宙植物は?」
美雪は
「まだ何も……」
そこに神宮寺博士が現れた。
「先程……宇宙植物のサンプルを採取して更にDNA検査を進
めた所、宇宙レトロウィルスに感染していた事が分かった。
この宇宙植物は主に寒い地域に生息する事も分かった。」
と説明した。
 ふと美雪が入口の方を見ると、宇宙服を着た2人の医療関係
者がコンテナを抱え上げ、中へ入って来るのが見えた。
それは美雪と神宮寺博士のいるテーブルに置かれた。
 一人がスイッチを押すとコンテナの一部が開いた。
透明なガラス越しに、網走厚生病院でレベッカ
シャランに射殺されたレイの青黒い塵の山となった遺体が入っているのが見えた。
美雪は驚いた表情で
「これが……宇宙人の死体??」
宇宙服を着た医療スタッフの一人は、コンテナに取り付けられ
た巨大な金属アームを操り、何かを挟んで、取り出した。

 ゴジラは錯乱したサンドラに頭突きをされ、そのまま右膝を
付いてサンドラの顔を見るとふと右頬に光る物が見えた。
サンドラは下顎を大きく開き悲しそうな声で吠えた。
 ゴジラは警戒して、しばらくサンドラを睨みつけていたが、
次第にサンドラの悲しい咆哮を聞いている内に彼女の意思に気付き始めた。
 ゴジラは小首をかしげ、混乱した様子でサンドラの顔を見た。
しかしサンドラは突然、大口を開け、ゴジラの頭に噛み付いた。
 ゴジラは驚き、サンドラから逃れようと首を振り回した。
しかしサンドラはゴジラの頭に鋭い幾つもの
牙で深く食らい付き決して離さなかった。
ゴジラは怒りの唸り声を上げながら民家
を押しつぶしその瓦礫の上に倒れた。

 網走上空を飛行中の轟天号でゴードン大佐は
「彼女は一体何を?」
ニックは
「まさか?自殺?」
尾崎は
「それはどういう事だ?」
ニックは真剣な顔で
「だって!そうだろ?!銃口を自分の口の中に入れるようなも
のじゃないか?」
杏子は
「確かに……それじゃ助けてあげなきゃ!」
しかしゴードン大佐は無言でその様子を見ていた。

 青黒い塵の山から8本の触手らしきものが見えた。
 機械の金属アームは、下顎が裂け、金髪が生えた宇宙人の頭
部をつかんでいた。続いて幾つものアームが両手、両足、胴体
を掴み、持ち上げた。表面の塵が崩れ落ち、粘液に光る生物の体が現れた。
彼女はまだ生きていた。
美雪は思わず
「生きていたんですか?」
すると一人の医療スタッフは
「実は……銃弾は確かに額に直撃していました……」
思わず元FBI捜査官は
「それなら?即死の筈よ!」
と反論した。もう一人の医療スタッフは
「残念ながら……銃弾は脱皮直前の厚い殻に守られていたようです……
この宇宙人達は場合によって外敵による熱攻撃や銃弾
を受ける際に防衛本能として脱皮する事が分かりました!
だからまだ生きています!」
FBI捜査官は
「つまり……厚い殻で敵からの攻撃を防御するの?」
すると医療スタッフは頷き、
「ですから……銃弾や蒸気など高温を感じると細胞が強い刺激を受けて、
皮膚が硬化し、脱皮をするようです!
倒すには火炎放射機で厚い殻の中身まで完全に焼却するしかありません……」
と説明した。
美雪とスタッフらが改めて、金属アームで大の字に持ち上げられている宇宙人の全身を観察すると、
顔は顎が裂け、ややトカゲに類似した顔に変異していたが、
触手と顔以外は人間の女性と変わりないようだった。
 ところがその時、コンテナ内に常備されたマイクのスイッチが入っていたらしく
「ジロジロ……見ないで……」
というレイの声が美雪のそばの机に置いてあるの大きなスピーカから小さい声で美雪の耳に聞こえた。
美雪は
「ごめんなさい……」
と思わず謝り、見るのをやめ、他のスタッフにも注意を与えた。
医療スタッフは
「この宇宙人のイメージ能力は特殊な力を持つらしく、イメージを実体化させること
で変身しているようです。
人類には見られない力です。
ある物質が関係しているのかもしれません。」
神宮寺博士は
「それじゃ?サンドラもこの能力が?」
FBI捜査官の女は
「それじゃ?」
美雪は
「ひょっとしたらG塩基を組み込んだ宇宙植物に何か秘密があ
るのかも?」
FBI捜査官は
「例えば宇宙人と怪獣を分離させる物質があるのかも?」
美雪は
「もしその物質が見つかれば彼女の命が助かるかも知れない!」
と言うなり、あわててG塩基を組み込んだ宇宙植物を見に走って行った。

(第57章に続く)