(第57章)ラスト・コーリング・エスケープ

(第57章)ラスト・コーリング・エスケープ

 凛はまだ怪獣世界に入る方法を考えていた。
蓮はすっかりあきれ果て
「まだ!考えているのかい?そんな世界は存在しないよ!」
と否定した。
しかし凛は
「いいえ!確実に存在するわ!」
蓮は
「じゃ?死神は存在するのか?」
凛は
「分からないわ!」
蓮は少し笑いながら
「じゃ?存在しないんじゃないか?」
凛は少し怒った表情で
「何?訳の分から無い事を言っているのよ!」
蓮はまるで父親が娘に言い聞かす様な口調で
「思っているだけで実際見えないんだから科学的証明のしようがないじゃないか?」
その言葉に凛は口ごもり、無言となった。
再び蓮が
「何故目に見えない怪獣世界に固執するんだ?」
しかし凛は何も答えなかった。
隣で聞いていた洋子は
「怪獣世界?一体?何話しているの?」
蓮は苦笑しながら
「なんでも無いよ!」
山岸は興味深々な顔で
「怪獣世界ってどんな世界なの?」
と尋ねた。
凛が
「それはね……」
と言い掛けた時、
再び凛の脳裏に
「助けて……助けて……助けて……」
と何度も繰り返し、サンドラの声が聞こえた。
凛の隣の青いビニールシートに座っていた蓮にもサンドラの声が脳裏に流れていた。
「まだ!生きていたのか?」
とイライラした様子でつぶやいた。
しかし凛は
「サンドラ??」
大声で言うなり立ち上がった。
彼女の大声に驚いた患者や医師、看護婦、医療スタッフが一斉に凛の方に注目した。
山岸も訳が分からず
「どうしたの??凛ちゃん??サンドラって誰??」
と尋ねた。しかし凛は山岸の発言を無視した。
今度は複数の男性らしき声が同じ言葉で聞こえた
「同じ悲劇を繰り返してはいけない!警告!」
更にサンドラとは別の女性の声は
「危険!全てを抹消して!恐ろしい……策略……」
と聞こえると声は止んだ。
凛は
「誰??誰なのよ??サンドラなの??」
蓮もさすがに混乱し
「誰だ??複数の男女の声??どうなっている!!」
と独り言を言った。その声を聞いた洋子は
「どうしたの??何を言っているの??」
と尋ねたが蓮は彼女の問いには答えなかった。

再び凛の脳裏に流れる声がサンドラのものになり
「死にたくない……死にたくない……自分が自分で無くなる!
怖い……怖い……ここは現実それとも単なる悪夢なの??暗くて怖い!怖い!」
と聞こえた時、隣にいた山岸に大声で
「凛ちゃん!」
と呼びかけられようやく我に返った。
凛は
「御免なさい……悪かったわ……」
山岸は少し怒った表情で
「君!どうかしてるよ!」
と言った。
凛は
「御免なさい……」
とつぶやくと青いビニールシートに座りこんだ。
その瞬間、彼女の首に掛けていたインファント島のお守りが黄金に発光し、
サンドラがゴジラに噛み付いて自殺しようとする様子が凛の脳裏に流れた。
凛は思わず大声で
「駄目よ!サンドラ!」
と大声を言って再び青いビニールシートから立ち上がった。
山岸は再び凛の大声に驚いて、飲んでいた水を危く喉に詰まらせるところだった。
山岸はしばらく咳込みかすれた声で
「凛……ちゃん??一体どうしたの??」
尋ねた。
凛は再び我に返り、水を喉に詰まらせ咳込んでいる山岸を見て大あわてで
「御免なさい…あっ!大丈夫??御免なさい本当に!!」
と言って再び座り込み、背中をさすった。
蓮は微笑を浮かべ
「とうとう……死を選んだのか?」
と言った瞬間、先程聞こえた複数の男女の声が再び蓮と凛の脳裏に聞こえた。
「助けて!」

「助けてくれ!」
と。
その中にサンドラの声も混じっていた。

蓮と凛が複数の男女の声とサンドラの声を聞いてから数分後。
山岸が大勢の避難した人混みの中で
「リーンちゃん!」
と名前を呼んでいた。
洋子が
「レーン君!」
と名前を呼んでいた。
2人は避難所の廊下で合流し、
「蓮君!見つかった?」
と山岸。
しかし洋子は首を左右に振り
「いないの!どこにも!凛ちゃんは?」
山岸も首を左右に振り
「どこにも……凜ちゃん何処に行ったんだろう??
僕が水を喉に詰まらせた間は確かにそこに居たのに……」
とため息をついた。
しかし洋子は
「もしかした?2人ともトイレかも?」
山岸は
「そうかも知れない!よし!トイレ辺りを探してみよう!」
と言うと2人はトイレに向かって走って行った。
 気絶していた凛はうっすらと目を開け、
フラフラと起き上った。男性の「ウーン!」と唸る声が聞こえた。
凛が見ると隣に男性がいた。
その男性は先程まで凛の隣のビニールシートの上で洋子と話していた蓮だった。
 蓮も片手で頭を抱えながら起き上った。
 そして2人は呆然と互いに顔を見合わせ全く同じ問いをした。
「あれ?ここはどこ?」

(第58章に続く)