(第82章)つかの間の休息

(第82章)つかの間の休息

 網走厚生病院から千歳空港に向かってバスで
移動中だった凛達一行に意外なトラブルが待ち受けていた。
 網走市から千歳空港に移動中の間、
外は物凄い大吹雪になり、バスに整備されていたテレビでは、
ほとんどの東京行きの飛行機が欠便になり、
いざ帰ろうとした多くの観光客や修学旅行者のクラスは
そこで足止めを受けているという事だった。
吹雪は今日の午後には収まるらしいが
飛行機が動くのは明日の朝頃になると
日東テレビのレポーターの音無杏奈がニュースで伝えた。
 それにもかかわらず、
つまり明日の朝まで北海道にいられるのだと分かったクラス全員は喜んだ。
しかし、すでに緊急に貸し出された空港の会議室は、原田先生が空港に直接問い合わせた結果、
満員で全員寝泊まりする場所が確保出来ませんと返事が来たので、
学校は予定を変更し、仕方無く全員電車でそこに移動した。
そこは前から修学旅行で行く予定だった壮瞥町蟠渓温泉の大きなホテルだった。

 地球防衛軍の尾崎達ミュータント兵はレイとサンドラを北海道の
網走厚生病院からコンテナで極秘に送還させる為、ロシアの輸送船に積んでいた。
 ガーニャとジーナ、サミーは尾崎達に敬礼し
「今まで協力していただいてありがとうございます!」
ニックは
「何……例にも及びませんよ!」
グレンは
「達者でな!」
ジーナはアヤノの手を握り
「本当にありがとうございます!」
アヤノは
「いいえ!全力を尽くしただけです!」
するとニックが
「そういえば?サンドラは結局怪獣化してもゴジラは騙せなかったな!」
ガーニャは苦笑いを浮かべ
「ああ……ジェレルさんによろしく!」
それから3人は輸送船に乗ってロシアへ帰って行った。

 壮瞥町蟠渓温泉の大きなホテルで凛のクラスの
生徒達は今までの疲れを癒そうと先を争って温泉に入って行った。
幸いにもここでは吹雪はほとんどやんでいて、今はチラチラと雪が降っていた。
蓮は
「これなら?少し待っていたら帰れたんじゃないか?」
とつぶやいた。
 そのホテルでの夕食で赤飯が出た。
 凛達クラスでは、赤飯の中に入っている黒豆について、
中山さんの
「なんでここは甘いんだろう?」
というさりげない疑問から始まり、クラス全体で議論になった。
山岸は
「甘いのは……あまり好きじゃないな……」
しかし凛が平然と
「別にあたしはどっちも食べてもおいしいと思うけど……」
と言ったので、東京生まれのクラスの生徒達が一斉に凛の方を見た。
山岸は慌てふためいた声で
「いや!凛ちゃんは甘いほうがいいとか言った訳じゃないから!」
すると江黒が
「僕……生まれは北海道だから!甘い黒豆の方がいいね!」
そこにすかさず東京生まれの一人が
「いや!甘く無い黒豆の方が常識だよ!」
しかし江黒は
「違うね!北海道では甘い黒豆の方が常識だよ!」
と反発した。
蓮はなんだか雲行きが怪しくなってきたので
「きっと北海道は寒いから糖分が必要で甘い豆を使っているんじゃないの?」
と江黒のフォローに入った。
凛も
「東京は北海道程寒くないから甘い必要が無いんじゃないの?」
と東京生まれのクラスの一人のフォローも忘れずに行った。
しかし山岸は
「そういえば、東北は寒いからしょっぱいって聞いたことがある」
これ以上議論してもキリが無いと判断し、凛も蓮も赤飯に全く
関係の無い別の話題に切り換えた。
 就寝後、凛は寝返りをうっている山岸の耳元で
「ホテルの下の方のオサル温泉に行かない?」
と誘った。
しかし山岸は寝ぼけ眼で目を擦り
「温泉?外に行くの?寒いよぉ!」
とかすれた声で言うと大あくびをして毛布を掛け直し、寝返りをうち、
そっぽを向くと、またムニャムニャと眠り始めた。
 蓮も同じ状態だったので、凛は仕方無く眠れずにまだ起きていたユキと洋子を誘った。
3人は大きなバスタオルと洗面器を持って、密かにホテルを抜け出しその噂のオサル温泉へ行った。
 3人は岩だらけの所を降り、水深が浅いオサルの湯に
降りると脱衣所が無いのでその場でバスタブに着替え、
浅い露天風呂へ入った。
洋子は
「ぬるい……ちょうどいいわ……」
しかし友紀と凛は
「うーんでも!あたし達には少し寒いわね!」
と言いながら少し体を震わせた。
外はすっかり止み、チラチラと雪が降っていた。
洋子は
「友紀ちゃんは蓮君の事今でも好きなの?」
ユキはどう答えていいか分からず長い間、沈黙していた。
やがて口を開き
「いいのよ!だって……修学旅行に行く前から喧嘩ばかりしていたから……」
洋子はそれ以上何も言えなくなり、しばらく押し黙った。
その洋子と雪の間に凛が無理に笑い
「そういえば……もう春になったら卒業だね!」
と話題を変えた。
友紀は
「そうよね……それだったら蓮君と別れても……」
洋子は
「山岸君とか蓮君とかどうするんだろう?」
凛は
「さあ…分からないわ……」
しかし友紀の一言により凛は思わず浅い湯船の中に沈んで行った。
その一言は
「そういえば……卒業試験があるっけ?」
その友紀の一言を聞いた凛は
「そうだわ……あーっ……ヤバい!東京に帰ったら原田先生の
理系科目の地獄のトレーニングが……」
その言葉を聞いた洋子とユキは大慌てで同時に
「大丈夫よ!あたし達も手伝うから!」
と励ました。
しかし凛は浅い湯船の中にますます沈んで行き、
ブクブクとぬるいお湯を泡立てさせ
「あーっ駄目だぁ!理系科目はまた最下位だ……」
と絶望的な声でつぶやいた。

(83章に続く)

今日の変更はここまでです。
では♪♪