(第2章)回想、凛達が高校を卒業する前。

(第2章)回想、凛達が高校を卒業する前。

 東京・地球防衛軍本部『特殊生物犯罪調査部』の大きな部屋に
金髪の少女と黒髪の少年が重々しい顔で入って来た。
 正面を見ると目の前のソファーに凛の護衛が座っていた。
 その3人は長い間沈黙していた。
 凛の護衛が深いため息を付き、率直に切り出した。
「凛さんと蓮君は東京の高校卒業後、米連邦証人保護プログラムを受けますか?」
凛は深刻な顔で
「そのプログラムを受けたら……今後、友人や恋人、家族さえも会えなくなるんですよね?」
凛の護衛は無言で頷くと
「そう…凛さんや蓮君のそれぞれの友達……山岸君、友紀さん、洋子さん……
小野さん、中山さん、江黒さん、巌さん、原田先生、長野先生とも……
少なくとも君達の状況は極めて深刻な為、生涯ずっと会えない可能性もあります!」
「北海道の修学旅行で……友達を巻き込んでしまったからな……」
「今!決めないと駄目ですか?」
凛の護衛は
「いや……駄目とは言わない……しかし……今後の君達の安全の為に出来るだけ早く返事が欲しい!」
蓮は
「僕は受けます!母親も!」
凛の護衛は動揺した顔で
「いいのかね?もし受けたら?友紀さんや他の家族や友達とも会えないのだよ!」
蓮はそこで無言となり、押し黙った。
凛は「母親も受けるの?」
凛の護衛は
「さあ……まだ返事は来ていない!」
蓮は
「そのプログラムはどれだけ効果があるんですか?」
凛の護衛は腕組みし
「分からない……恐らく今後、友人達がテロ事件に巻き込まれるという事は無くなるだろう……
ただ……相手はかなり手ごわい……どこまで効果があるか?」
凛は
「山岸君と洋子ちゃんにも証人保護プログラムを受ける事を勧めたのは本当ですか?」
凛の護衛は
「ああ……本当だ……君と恋人や友人達が安全にいられるように……」
蓮は
「でも!他の友人や家族には会えないんでしょ?」
凛は必死に
「あたしは……彼の事が好きです!だから……いきなり別れたくありません!」
蓮も
「このプログラムを受けたら!住所も名前も……電話番号も全て変わるんですね?」
凛の護衛は
「ああ……その通りだ!君達の母親も免許所やパスポート、
さらに社会保障番号も全て変わり、完全な別人になる!」
凛は
「それじゃ?山岸君や洋子ちゃんも受けたら?」
凛の護衛は
「もちろん完全な別人になる!少なくとも洋子さんや山岸君からは
『君達が受けるなら自分も受ける』と返事を貰った!あとは君達次第だ!」
蓮は
「いつ?返事をすれば?」
凛の護衛は
「それは君達できちんと決めるんだ!もう少しで大人になるからな!」
蓮と凛は大人びた声で
「分かりました!」
と答えた。
 それから2人は地球防衛軍『特殊生物犯罪調査部』の部屋のドアを開け、
「失礼します!」
と同時に言うとそれぞれの自宅へ帰って行った。

 凛達が高校を卒業する3日前。
 凛と蓮は再び地球防衛軍本部の『特殊生物犯罪調査部』を訪れた。
凛の護衛は
「それで?返事は?」
しばらくの沈黙の後、凛が口を開いた。
「やっぱり受けたくありません!」
続けて蓮も
「僕も同じです!」
凛の護衛は
「そうか……理由は?」
蓮は
「俺達は……」
凛が
「あたし達はこの運命を受け入れているからです!うまく言えないけど……
他の友人や家族に会えないのは嫌です!このまま普通の人間でいたい……」
凛の護衛は
「分かった!」
凛は
「あっ!あともう一つだけ!頼みが!」
凛の護衛は驚いた顔で
「えっ?」
そのとき蓮は凛より早く口を開き
「代わりに……『地球防衛軍の特殊犯罪調査部』で働かせて下さい!」
「犯罪調査部?働きたいのかね?」
凛は強い口調で
「テロリストから恋人や友人、見ず知らずの人達を守りたいからです!」
と答えた。隣にいた蓮も
「僕も凛さんと同じ地球防衛軍の犯罪調査部に入って!
人類と怪獣が共存出来るような世界を作りたいと思っているんです!」
凛の護衛はしばらく考え込み、やがて口を開き
「君達の意見は聞いた!ただ君達が目指している道はどれも厳しく難しいものだぞ!
そもそも高校を卒業したばかりの君達が地球防衛軍本部の犯罪調査部に入ることはできない。
まず大学を卒業して国際公務員の試験を受けなければならない!
とにかくそれについては……大学でゆっくり考えなさい」
と答えた。
護衛の言葉を聞いた2人は真剣な顔で
「ありがとうございます!」
と礼をすると外へ出て行った。

(第3章に続く)