(第7章)怪獣刑務所

ゴジラの自作小説です。

(第7章)怪獣刑務所

 小笠原怪獣ランドの全体を管理する地下のコントロールセンターから
数km離れた地下にはもう一つ世界最大の特殊生物研究施設『アルガドラン』があった。
 そこでは極秘に地上で飼育と管理をされている怪獣達を実験台にして
違法な軍事用の強力な生物兵器の開発を進めていた。
『アルガドラン』で働く多く医療スタッフや職員達は
この特殊生物研究施設の事を『怪獣刑務所』とも呼んでいた。
 何故ならここにはバイオ・セーフティレベル1~4までの研究部屋の他にも、
表で国連が怪獣の捕獲に成功したが、飼い慣らせず凶暴で貪欲で危険な怪獣達は、
極秘にこの施設に設置されている檻に問答無用で収監され、
まるで刑務所の囚人のような生活を強いられていたからである。
実際、普通の人間には制御不可能な怪獣達が200体以上もここに収監されているのだ。
 この刑務所に似た研究施設が出来たのは20世紀の終わり頃、
ゴジラモスラの脱走やキラアク星人による地球侵略事件が起こった以降で、ごく最近の事である。
 さらにここに収監されている凶暴な怪獣達は何ヶ月かに一回、
完成真近に迫った軍事用の生物兵器の戦闘訓練に利用されていた。
年間何十体もの怪獣がこの研究所で開発された最新の軍
生物兵器との戦いによって命を落としていた。
 しかし運が良ければその戦いで生き残る怪獣もいた。
生き残った優秀な怪獣は生物兵器の研究に利用された。
 医療スタッフや怪獣刑務所を管理する職員達の多くは
常に自分が凶暴な怪獣達に殺されるかも知れない言いようの無い恐怖と
緊張感のせいで毎日神経が張り詰めていた。
それでも自己点検回路とAIを持つ最新の制御装置のおかげで
職員や医療スタッフの安全はきちんと管理されていて衛生面も徹底されていた。

 地球防衛軍本部『特殊犯罪調査部』の凛の仕事部屋。
 彼女は自分のデスクに座るとパソコンを起動させ、
誰かから送られたメールの資料を熱心に読み始めた。
そのメールの内容は以下の通りである。

デストロイア・ウィルス(A-MON1南米型)」
「空気感染し、高温にも冷凍にも様々な抗生物質等に耐性を
持っていたが謎のミクロオキシゲン中和剤により保菌者と共に根絶された。
1・初期症状は主に脳や心臓の血管にウィルスが集まり、巨大な腫瘍を作り出す。
2・動脈硬化から心筋梗塞脳梗塞等の合併症を引き起こす。
3・免疫機能も破壊され、日和見感染症も併発する。
4・激しい咳と共に白い粒の混じった血淡を吐いたのち、呼吸困難になり、意識不明になる。
5・肺や気管支に『肺結核』によく見られる小さな出血が起こり、
高熱にうなされ、エボラ出血熱の様に猛烈に増殖したウィルスが血管細胞や
皮膚、胃、腎臓、肺等のあらゆる臓器を食い破り、
ミクロオキシゲンにより全身から白い液体が吹き出し苦悶のうちに死亡する。」
凛はさらにもう一枚の資料をめくり、それを読んだ。
デストロイア・ウィルス(B-NOロシア型)」
ノスフェラトゥと言う宇宙人の生体組織の原始的な細胞
から発見されたデストロイアに類似したウィルス。
人間に感染しても命に関わる症状は起こさない。
むしろ宿主と共存して繁殖しようとする。
根絶はされていないがほとんどの個体は湯たんぽやタオルで体温を上げ、
平温に戻せば簡単に死滅する。」
 凛はまた行方不明の母親に関する手掛かりがあるのではと期待し、
少し笑いながらもう一枚をめくった。
しかし残念ながらもう一枚の資料には
「サンドラ・ウィルス」と書かれていた。
凛は物凄くがっかりした様子でその資料を渋々読み始めた。
アカツキシソウの変異体とヒグマやクリオネその他多種多様の生物の
DNAを持つ複数のオルガナイザーG1とG塩基を組み込み完成させたウィルス兵器。
感染者のサンドラの体内にはデストロイア・ウィルス(B-NOロシア型)が存在する為、
さらに変異した可能性があるが現在調査中である。」
凛は
「そのG塩基はあたしとママのDNAもあるけどね!」
と言いさらに続きを読んだ。
「感染したクリオネは怪獣化し、ウィルスの開発者のサンドラが感染した時の症状は以下の通り、
1・G塩基の免疫反応により、全身が酷い刺激臭を放つ。
2・全身から激しい激痛と共に肉芽種が発生する。
3・細胞が壊死し、皮膚が紫色に変色し、身体から酷い刺激臭を放つ。
最後はゴジラにより、感染者であるサンドラから分裂した怪獣を破壊。
ウィルスは根絶された。(しかしサンドラと怪獣が分裂した原因は不明である)」
 それから凛は数枚の資料を読み終えると、
また2枚の「アカツキシソウ」と「アオシソウ」に関する資料を見つけたが、も
う目が疲れたので手に持っていた資料をデスクに置くと
「ああ……ママの行方の手掛かりは結局無しかぁ…」
と言いながら大あくびし、背伸びをした。

 彼女がこの地球防衛軍の本部に入った頃は、
中近東のサラジア共和国やアメリカのバイオメジャーによるテロ事件、
新型のデストロイア・ウィルスの大流行、中国のテロリスト達による誘拐事件、
さらにロシアのテロリスト達による北海道網走病院立て籠り事件等が相次いだ頃で、
世界中で過激な活動を行う新手の動物愛護団体が新聞や各メディアを騒がせていた。
 その動物愛護団体は様々な研究施設に無断で侵入し、
動物実験で使われていたネズミやチンパンジー、ウサギ、犬と猫を逃がそうとした。
また生物兵器によるテロ行為の再発防止を訴えるデモ行進を起こしていた。
 この動物愛護団体の団員から、小笠原怪獣ランドで
管理・飼育している怪獣達を極秘に実験台にして軍事用の生物兵器
開発していると言う噂がまことしやかに囁かれ始め、世間の不安を煽っていた。

(第8章に続く)