(第29章)帰る場所

こんにちは畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第29章)帰る場所

 小笠原怪獣ランドの地下研究所『アルカドラン』。
 北村に連れられて自分の部屋に戻った美雪は一人ベッドの上で眠り浅い夢を見ていた。
 何処かの公園のベンチに25歳の頃の自分と、金髪で深紅のコートを着て、
片手にドイツ語の『ファウスト』を抱えている20歳の若い男の姿が見えた。
 彼は無音凛の父親であり、ケーニッヒギドラでもある覇王圭介その人である。
 夢の中で彼は美雪に
「じゃあ?岐阜県の何処の街で生まれたんだ?」
と尋ねた。
彼女は
「あたしは岐阜県の町じゃなくて荘川村って所で……」
「君が生まれたのか?」
「まだ小さかったから良く覚えていないけど……確か……
お母さんから聞いた話だと第二次世界大戦後の復興で電力が不足して……
それでウチの実家は毎日停電していて大変だったの……
それから電力不足を解消する為にダムが造られる事になったの……」
第二次世界大戦は本で読んだ事がある!それで?」
と興味津々な表情で美雪の顔を見た。
「それでウチや近所の人達は反対していたけど……
とうとう合意を決めてすぐに岐阜県の別の街に引っ越したわ!
そこが新しい実家なの!前の実家はそのダムが完成した時に水没して今はダムの底にあるの……」
「……帰る場所はあるんだな……」
「えっ?なんで?」
「いや……何でも無い……それよりそのダムの名前は?」
「御母衣ダムって言うのよ!それでね!あたしの実家の
あるダムの傍に『荘川桜』って言う桜があってね!
毎年春になるとダムの上で2本の桜の花が満開になって、とても綺麗なのよ!」
「そうか……2本の桜……いつか一緒に見たいものだな……」
と少し覇王は顔を赤くして笑いながら答えた。
そこで彼女は浅い眠りから目覚めた。
ベッドの上に寝転びじっとしたまま
「見たかったわ……一緒に……本当はあたしも帰る場所が無かったけど!
母が見つけてくれた!あたしも彼の帰る場所を見つけてあげたっけかな?
もう一度……会いたいわ……覇王君……2本の桜が……恋しい……」
と小さくつぶやき、美雪の目からは大粒の涙がとめ止めなく溢れ、嗚咽を漏らした。
大粒の涙は白い清潔な布団やシートを静かに濡らして行った。
 一方、美雪に乱暴を働いたマークは狭い部屋に閉じ込められていた。
「私は……なんて事をしてしまったんだ……」
彼の脳裏に美雪の首を両手で絞めようとする映像が一瞬流れた。
マークは後悔の念に駆られながら
「酷い男だ!なんてザマだ!」
と自分を責めた。
「私は……命について真剣に考えてジラを作ったんだ!……」
と言いながら両手で頭を抱え考え込んだ。
再びマークはふと顔を上げ
「確かに……彼女の言う通りだ!人間も宇宙人も怪獣も
全ての生物はDNAとゼリーもしくはゲル状の原形質で出来ている。
怪獣が人間に変身する事もあり得るかも知れない……
4人の巫女と2人の男性……いや!何を考えているんだ?!私は……」
とブツブツ小言をつぶやいた。

 真鶴・CCI特殊生物研究所内にある地下の『極秘特殊生物資料保管庫』。
 自分が書いたメモの文章を何度も読み返し、
しばらく考え込んでいたビリーは再びもう1枚のページを開き、
真剣な表情で次のページのメモを読んだ。
メモにはこう書かれていた。
「3つの名前とナンバーが書かれたカプセルが何に利用されていたかは不明。
ただカプセルの中に生物がいた痕跡がある事から、
なんらかの生命維持装置では無いかというのが分子生物学者の有力な説になっている。
またカプセルの土台の文章を並び替え、読み直すと、5年前に出現した怪獣の名前になる。
X星人の地下研究所で発見されたカプセルとその名前を書かれた怪獣達との関連は不明。」
さらにビリーは忙しなくメモのページをめくり、次のメモを読んだ。
「割れたそれぞれ3つのカプセルの土台の表面から採取された物質の成分を
CCIが分析した結果、黄青緑色のゲル状の物体からアオシソウのDNA。
マグマ状の物質からはアカツキシソウのDNA。
黒い塵からアカツキシソウの変異体のDNAがそれぞれ検出された。」
読み終わるとビリーは大きなため息を付き、部屋を行ったり来たりと歩き回り、
自分なりに考えをまとめようと頭の中で知恵を絞っていた。

 洋子の自宅の電話から聞こえた不気味な太い男の声が止み、
窓にいた何かが去った後、洋子はフローリングの床に座り込み、
しばらく放心状態だったが、何かを思い出した様子で急に立ち上がり、パソコンのスイッチを点けた。
 その時、再び「プルルルル!」と再び電話が鳴り始めたので
彼女は心臓が飛び上がる程、驚いた。
 それから用心深く電話機に近づき、緊張のあまり、
額に汗を滲ませながらスローモーションで受話器を取り、耳に付けた。
「プルルル!」と言う発信音まだ続いていた。
恐る恐る
「もっ……もしもし?」
「ガチャ!」
「もしもし?」
先程、話していた高校の同級生の明るい声が聞こえた途端、
洋子は再び緊張が解け、
「良かった!もしもし?」
その高校の同級生は
「何があったの?急に電話が繋がらなくなっちゃって……」
洋子は首を小刻みに振り
「ううん!気にしないで!」
「そう!それならいいけど……」
と心配そうな声が受話器から聞こえた。

 凛は東京の公園の現場から警視庁に運ばれた男の焼死体
司法解剖の結果を確認する為、警視庁を訪れていた。
 死亡した男の死因は焼死では無く、注射器から体内に注入された
人食いバクテリアと呼ばれるA群β溶血性レンサ球菌の感染によるものだと分かった。
 しかも小笠原諸島付近やアパラチア山脈で発見された
無数の怪獣の死体から検出されたものの同じG塩基と、
あのM塩基が作り出した特殊なたんぱく質を分解する毒素が検出された。
 それからある交番の巡査が新聞の切り抜きを見せた。
 切り抜きには「ミュータントに謎の感染症?!」と大見出しで書かれていた。
 凛は目を丸くして「これは?昨日の新聞記事?」と巡査に尋ねた。

(第30章に続く)