(第70章)ホムンクルス

おはようございます。
畑内です。
ゴジラの自作小説を載せます。

(第70章)ホムンクルス

 東京・地球防衛軍特殊生物情報部で、
ガーニャと元FBI捜査官の男は、カナダ政府が
ひた隠しにしていたある怪獣に関する実験を調べていた。
 ロシア人のガーニャはパソコンの画面を睨みつけ、忙しなくキーボードを押していた。
 カナダの特殊生物研究所内でノスフェラトゥの宇宙人や
カナダの地球防衛軍の関係者による謎の人体実験が行われたようだ。
 カナダの地球防衛軍の最高機密扱いなので詳細な実験内容は不明だが、
どうやらノスフェラトゥの体細胞と人間の女性の受精していない卵細胞を利用して、
その優勢遺伝子を持つ体細胞クローンと、G塩基を持つゴジラの細胞を培養し、
ノスフェラトゥの血液に混ぜた開発途中のG血清を体内に投与し、
人工的に『無症候性モンスター・キャリア』を作り出そうとしたらしい。
 G血清を投与されたほとんどの人間と、
体細胞クローンの実験体達は体内で拒絶反応による異常を起こし、多くが消滅した。
 しかしたった一人だけ、実験に成功し、人工的に
『無症候性モンスター・キャリア』になった実験体『ホムンクルス』がいたが、
実験成功直後、カナダの特殊生物研究所から脱走した。
『ヨシアキ・カワネ』と『ユウカ・カワネ』という人物にに引き取られたとの情報がある。
 ちなみに3年前、北海道網走厚生病院に立て籠ったサンドラ、
メイスンを除く、レイ、レベッカ、シャランも、実は『ホムンクルス』達だった。
 しかし彼らはかなり高い知能を得たと同時に、妄想や攻撃性、
凶暴性等の精神異常や、危険な殺人癖を持ち合わせていた事が
5歳時の精神検査によって判明していた為、G血清の実験体には利用されなかった。」
 それを読んでいた時、ふと何か思い当たった様子で元FBI捜査官は顔を上げ、
「そう言えば?カワネって言う名前の女の子を知っているぞ!」
ガーニャは驚き
「日本ではそういう名前はいくらでも…えっ?一体?まさか?凛ちゃんの友達の?」
FBI捜査官は真剣な表情で
「カワネ・ヨウコ……」
とカナダの地図を広げ、孤児院の位置を指さし、
「実際に彼女がいたカナダの孤児院はここ!
彼女がその実験体の可能性は高いな……」
その時ガーニャがパソコンの画面を見ると、
いつの間にか「システムエラー」と表示され、
続いて「データ削除中……」と表示された。
ガーニャは大慌てでキーボードをいじり
「おいおい!どうしたんだ??」
やがてパソコンの画面の背景が真っ青になり、
「データ削除完了!シャットダウン中……」
と表示された後、パソコンは強制終了された。
ガーニャはガッカリした口調で
「そんな……政府の人体実験のデータが全部お釈迦なんて」
「これは誰かの隠ぺい工作だ!もう一度パソコンを立ち上げたとしても!もう手遅れだろうな」
と元FBI捜査官は静かに言った。
しかしガーニャは
「彼女がカナダ政府によって人為的に作られた
『無症候性モンスター・キャリア』型・ホムンクルス第1号なら」
と言いかけた時、元FBI捜査官は
「可能性はあり得ると思うよ!無症候性キャリアは
ウィルスや細菌に感染した時に、ごく稀なんだけど……
感染した際にその細菌やウィルスに対する抗体があって感染しても無症候なんだ……
うーんつまり!感染しても症状を一切発生しないんだ!
それと同じで彼女も『モンスター・キャリア』ならゴジラの血を持っているが、
体内に怪獣化を抑える抗体が存在しているから怪獣化しないし……もちろん自覚症状も無いからね!」
「レイ、レベッカ、シャランもそのG血清の実験の為に造られた『ホムンクルス』だったなんて!」
「もし?彼女達にゴジラの細胞を培養したG血清を投与していたらと思うと……ゾッとするね……」
と思わず元FBI捜査官とガーニャは全身をブルッと震わせた。

 アルカドランのプールのある広場でバキューンと言う銃声がこだました。
凛はその銃音を聞き付け、続いて「バタン!」と何かが倒れる音が聞こえたので
「まさか?」と思い、冷たいプールの床で尻餅をついていた洋子の方を見た。
 しかし洋子は無事で完全に腰を抜かし、その場から動けずにいた。
 一方、美雪は怒りに顔を歪ませ、再びマークに飛びかかった。
 マークは再びコルト・ガバメントを構えた。
 凛は思わず大声で
「ママ!」
と言うなり、美雪とマークに割って入ろうと、
床を強く蹴り、走り出した。
その時、ふいに凛は地下極秘研究所アルカドランに
忍び込む前に感じたあの新しい力を再び感じた。
一方、マークの脳裏には
「あいつも危険だ!殺せ!」
と、しわがれたまるで悪魔に似た囁き声を聞き、
まるでそれに操られたかのようにマークは恐怖に怯え
「ワアアアッ!」
と再び悲鳴を上げ、コルト・ガバメントの引き金を引こうとした。
 しかし凛は素早くマークの目の前にすり足で近付くと、
マークが引き金を引く直前、両手で構えているコルト・ガバメントを激しく叩きつけた。
 コルト・ガバメントはいとも簡単にマークの両手から弾き飛ばされ、
しばらく宙に舞いやがて広場のプールの中にボチャン!と水柱を立てて落下した。
 マークの両手はまるでバットで両手を殴られたような衝撃を受け、
たちまち両手の感覚が麻痺してしまった。
 凛は、廃棄されたばかりの研究所跡で壊れかけた水槽の中で
死んでいた怪獣の子供の死体をまた思い出し、
再び心の底からわき上がった悲しみと怒りの表情で、そのままマークの麻痺し
た右腕を掴むと、通常、肩の関節の曲がる
方向とは逆の方に強く捩じり、「ゴキッ!」と脱臼させると冷たい床に激しく叩きつけた。
 マークは急に呼吸が出来無くなり、胸の痛みで思わず、咳き込み両目に涙がにじんだ。
 しばらくして凛の呼吸が落ち着くと、太くなった筋肉は徐々に元通り、
女性らしい細い腕に戻った。どうやら山根蓮の、腕を伸縮させる能力と違って、
凛は筋肉を太くさせる能力を得たらしい。
それと同時に母親の美雪の心も徐々に落ち着きを取り戻し、
「グルル……凛?グルル……凛……グルル……」
それを聞いた凛はここぞとばかり
「そうよ!娘の凛!あたしよ!」
と必死に訴えた。
 ようやく正気に戻った凛の母親の美雪と娘の凛は涙を流し、お互いを強く抱き合い、
再会を喜び合った。凛は笑いながら美雪の頬に軽くキスをすると、
ふと何かを思い出した様子で腕時計を見
「もうすぐで時間ね! 」
と独り言をつぶやいた。

(第71章に続く)

では♪♪