(第9章)米大統領の娘

(第9章)米大統領の娘

 10時30分。
 蓮たちは仕方なく凜を置いて、レンタカーで、失踪した島上
冬樹の自宅に着いた。そこは大きな洋館風の建物だった。
 蓮は玄関のチャイムを押した。
 間もなくして豪華な黄金色の恐竜の模様をあしらったドアが開いた。
玄関口には彼の妻だと名乗る青みが掛った黒髪の女性が立っていた。
「ようこそ」
そして彼の妻だと名乗る女性は
「どうぞ!」
4人を部屋に招き入れた。
 自宅内にはトラの毛皮の絨毯や赤色のトンボの模様を
あしらったソファーが置かれていた。
山岸は家主の許可を得ていないのでカメラの電源を切った。
 島上冬樹の妻と名乗るメガネをかけた女性は4人に自己紹介をした。
「初めまして。島上ルーシーです。」
彼女は自分について語り始めた。
 それによると彼女はエバート米大統領の娘で、
26年前にゴジラ抹殺に断固反対して以来、
父親のエバート米大統領とは不仲だった。
そしてアメリカの大学で、現在失踪中の島上冬樹と
、父の反対を押し切った形で結婚し、今、この島に秘密で暮らしている。
だからくれぐれも内密にしてほしいということだった。
真鍋は驚き、口をポカンと開け、
「そんな、嘘だろ??アメリカの大統領の娘さんがこんな場所に住んでいるなんて」
蓮も山岸も驚き、唖然とした表情でルーシーの顔を見ていた。
 ふと、山岸はル―シーの右腕に、
黄金色の鱗の形をした刺青(タトゥ)が目に入った。
凛ちゃんとおそろいだなと思った。
「そういえば、大戸島自然史博物館の館長の
田中健二さんの右腕にも黄金色の鱗の形をした刺青が彫ってあったな?
偶然かな?何か意味があるのだろうか? 」                  
一方、その山岸の隣で覇王はほとんど動じることなく、静かな口調で
「それで5時間前の電話で、御主人の失踪の手がかかりになり
そうなものを見つけたと聞きましたが」
「日記を夫の部屋から見つけたんです。」
と日記らしき本を覇王に手渡した。
覇王は彼が残した日記を開いた。
だがどの日記のページにも他愛のない日常的な文章が所狭しと書かれていた。
 ルーシーは日記帳を指さし、
「日記帳におかしな新聞記事が貼ってあるんです。
なんだか犯罪組織に関する記事で、もしかしたら?
何かおかしな事件に巻き込まれたのではと思うと不安になって夜も眠れなくて」
「何?」
と覇王はそのスクラップ記事が貼られているページをめくると、
彼女の言う通り、新聞のスクラップ記事が貼ってあった。
 記事の日付は去年の8月10日とあった。記事のタイトルは
「世界中で未知の病原菌発生!!
秘密結社『ドラクル』の売春が感染に関与か?」
と書かれていた。
 記事によれば『ドラクル』のメンバーと思われるアメリカ人の男が、
ロサンゼルスで10歳から14歳の少女達を次々と児童買春、
児童ポルノに利用した容疑で逮捕された。
さらにロサンゼルス警察の事情聴取をしている最中に警察官達は
10から14歳の少女達の顔や両腕に青いドーム状のイボが現れているのに気が付いた。
 そして後の事情聴取で2日前に頭痛や腰痛を両親に訴え、
病院で検査を受けている。
しかし改めて病院で精密検査を受けた結果、
極めて感染力の高い未知の病原菌に感染していた事が判明した。
 男は児童買春、児童ポルノ禁止法の違反の容疑を否認。
さらに少女達がその未知の病原菌に感染していた事などは全く知らなかったと供述した。
 ロサンゼルス警察は、売春グループの根絶と
未知の病原菌による感染予防の為、
厳しく容疑を追及する方針である。
「まさかこの記事が?島上冬樹さんの失踪と未知の
病原菌の間に何か関係が?」
「だが?一体?どういう関係があるんでしょうか?」
と真鍋はマイクを覇王に向けた。
その真鍋の質問に対し覇王はこう答えた。
「いや、まだ何とも言えない。もう少し手掛かりが必要だ!」
「その『秘密結社ドラクル』と島上冬樹さんの失踪。何か謎だらけで……」
と言いかけた真鍋は、深刻な表情をしている
島上冬樹の妻のルーシーの顔を見て、それ以上言うの止め、口を閉じた。
 ふと山岸は彼女の家の外に気配を感じたので、カメラを窓に向けた。
カメラにはうっすらと初代ゴジラに似た何か黒い影が
一瞬だけ暗闇の中から見えた。
 山岸は首を傾げるとカメラを戻した。           

 11時10分。
 大戸島米軍基地。
 特殊な閃光弾で、米軍兵達やオニール軍曹、
ウィルソン上級大佐の目を眩ませ、危機を脱した音無凛は、
米軍最高機密情報を盗んでから逃げようと、
米軍基地内の最高機密文章が保管さ
れている倉庫を目指して巨大なタグトの中を進んでいた。
 やがて真下の金網を通して、最高機密文章が
保管されている倉庫らしき部屋が見えた。
 凛は金網を慎重に外した。
そこにライフル銃を持った監視兵が3人いた。
 凛は迷わず、金網を外した四角い天井の穴に
下半身だけ素早く降ろしながら、その勢いで左右にいた
監視兵の顔面を思いっきり蹴りとばした。
2人は左右にそれぞれ一回転し、倒れ気絶した。
次に、丁度真下にいて驚いていた監視兵の首を、脚を閉じる勢いを利用して、
美しい両のももの根元に挟み、そのまま力を込めて勢いよく腰を捻り締め上げた。
監視兵は瞬時に意識を失い倒れた。
 それから凛は床に降り、まるで獣のように四つん這いになって着地した。
 奇妙な事にどこに行っても厳重な筈の
セキュリティシステムの警報は一切作動しなかった。
まるで誰かが厳重なセキュリティシステムをオフにしたかのように。
 彼女は一番奥の資料室に着くと「タイラント・カクテル」と
言う毒薬に関する情報を手の平サイズのパソコンで探し始めた。
 やがてキャンサーカクテルに関係あるデータが特殊な画面に
表示された。そのデータ名は「ブルーアイ」と言う。
さらにデータを検索しようとキーボードとカーソルに動かした。
 昆虫のDNAのデータとキャンサーカクテルと言う毒薬のデータが見つかった。
他にもRNA(リボ核酸を持つ分子機械に関するデータも見つかった。
どうやらそのRNA(リボ核酸)を持つ分子機械の名前を「ブルーアイ」と言うらしい。
 果たして「ブルーアイ」の正体とは?

(第10章に続く)