(第30章)リヴァイアサン

(第30章)リヴァイアサン

午後7時50分。
大戸島近海。
 初代ゴジラのクローンは、途中で見失ったゴジラを探して泳いでいたが、
未知の病原菌に感染しガニメ達がいた洞窟の近くの岩場に腰をおろしていたゴジラを発見した。
初代ゴジラのクローンは心配した表情で静かに眠っているゴジラの寝顔をのぞきこんだ。
 しかし急にゴジラは瞼を開けて、オレンジ色の目で睨みつけた。
 初代ゴジラのクローンは心臓が飛び出るくらい驚き、近くの岩場に尻餅をついてしまった。
ゴジラは片手で頭を押さえて、身体を起こした。さらに頭を上げて海面をじっと見た。
海面には赤い丸い物体が見えた。
 ゴジラは僅かに唸り声を上げた。
 明らかに赤い球体に対して敵意をむき出しにしていた。
 ゴジラは起き上がり、再び猛スピードで泳ぎ始め、その赤い球体を確認する為に海面に上昇した。
 初代ゴジラのクローンも慌ててゴジラの後を追った。
 海面に上がり、2匹は頭部を海面から突き出し、さっき海中から見えた赤い球体を探して周りを見渡した。
 初代ゴジラのクローンは上空に静止している赤い球体を発見した。
ゴジラもその姿を肉眼ではっきりと確認した。

轟天号内のブリッジの中央に設置された巨大なモニター画面に映し出された
静止している赤い球体を映し出してから5分あまり経過した頃。
 ジェレルに無線で日本の地球防衛軍の司令官から出動要請があった。
「艦長!SPBに大戸島の大戸ビルでバイオテロ発生。既に小型怪獣の襲撃により
大勢の死者や負傷者が出ています。
そして日本の地球防衛軍の司令官から対テロ特殊部隊のSPBの出動要請が出ています。」
バイオテロだと?」
艦長のゴードン上級大佐は唇を噛んだ。そしてこう乗組員に命令した。
「よし、直ちに現場に向かい、負傷者の救出と小型怪獣の撃滅を開始する。」
「了解!」
 直後、赤い球体のUFOは赤く何度も点滅したあとまるでスイカ割りのように
自動で爆発し、粉々に吹き飛ぶ様子が映し出された。
また、バシャアアンと何か巨大なものが海上に落下したのか大きな水柱が見えた。
 ニックとグレンは不意に起こった凄まじい破裂音と船体が激しく揺れる音で心臓が飛び出るくらい驚いた。
「赤い球体のUFOがひとりでに爆発したようです。原因は不明!」
といつでも冷静なジェレル。
「赤い球体のUFOが自動で爆発するなんて。」
とニック。
「マジ!なんなんだよ!タチの悪いドッキリか?」
海上に何かが落下しました!」
とジェレル。
「その落下したやつ、さっきの爆発で完全にお陀仏じゃないのか?」
「いや、どうやらそうじゃないみたいです。」
ジェレルとニックとグレンは吸い寄せられる様にモニター画面を見た。

大戸島近海。
 急に爆発した赤い球体のUFOの破片が降り注ぐ中、バシャン!と再び水柱が上がっていた。
さらに水柱は右左右と幾つも現れた。
そして猛スピードで初代ゴジラのクローンとゴジラの方に向かって来た。
 ゴジラはあくまでも冷静に再び口を開けて、放射熱線を放った。
だが、海上では動きが早く、たちまち右に避けられた。
 ゴジラの目の前で水柱が立った。
 目の前には鞭のようにしなやかな深紅の尾が現れた。
さらに尾の先端の電気発声器官と思しき部位から赤い光弾を放った。
突然の不意打ちに反撃できず、赤い光弾はゴジラの顔面に直撃した。
大きな爆音と共にバシャーン!と100mの巨大な身体は水面に叩きつけられた。
 初代ゴジラのクローンは驚き、動揺しつつも海中を警戒した。
 バシャーン!続いて背後から竜型の三角形の兜を被った頭部が現れた。
 初代ゴジラのクローンは素早く振り向くと、口を大きく開けて無我夢中で噛みついた。
 だが、深紅の三角形の兜を被った様な皮膚は鎧のように固く、文字通り全く歯が立たなかった。
 その巨大な怪獣は三角形の兜を被った頭部を左右に振り回し
初代ゴジラのクローンを宙にブン投げた。初代ゴジラのクローンは宙を舞い、そのまま頭から海上に落下した。
 再び上昇したゴジラはもう一度、口を開き、しっかり狙いを定め、放射熱線を発射した。
放射熱線は今度こそ竜型のおぞましい三角形の兜を被った頭部に直撃した。
しかし全く効果が無かった。
そればかりか逆に鎧の様に強固な皮膚により、一瞬で弾き返された。
弾き返された放射熱線はゴジラの胸に直撃した。ゴジラは周囲に衝撃波を発生させ、海面を吹き飛ばされた。
 ゴジラは息が詰まりそうになりながら再び海面から起き上がると素早く怪獣の真横に回り込んだ。
そして間髪入れず、海面に浮いている巨大な深紅の強固な鎧に覆われた胴体に向かって放射熱線を放った。
 しかし再び逆に弾き返され、放射熱線はゴジラの方へ向かって来た。
 ゴジラは危うく直撃しそうだったがなんとかかわした。
 くっ!くそっ!なんて奴だ!
 海上から長い鞭のようにしなやかな深紅の尾が現れた。深紅の尾は大きく弧を描き、
初代ゴジラのクローンの首に巻き付いた。急に息が詰まり、苦しさの余り、呻き声を上げた。
 ゴジラは放射熱線を吐いた。バキキッと大きな音を立てて、
深紅の尾を先端の電気発声器官共々、粉々に破壊した。
 初代ゴジラのクローンは呼吸が楽になり、大きく深呼吸した。
 だが破壊された筈の尾の切断面から数本の触手状の物が生えた。
そしてたちまち自己再生した。
今まで戦って来た怪獣達よりも遥かに高い戦闘力を持っている。ゴジラはそう確信した。
 初代ゴジラのクローンはまさに頭の中がパニックになっていた。
 ヤバい!ヤバイ!ヤバイ!
 再び、海面から竜型のおぞましい三角形の兜を被った頭部が上昇した。
そして青く光る複眼で初代ゴジラのクローンを見ると巨大な4つの牙をガバッと開けた。
巨大な口からは巨大な毒針をまるで吹き矢のように放った。
巨大な毒針は初代ゴジラのクローンの腕にブスリと突き刺さった。
 初代ゴジラのクローンは激痛で悲鳴を上げた。
ゴジラは何とかして敵の全体像を掴もうと大きく息を吸い、海中に潜った。
 海中には深紅の鎧の様な皮膚に覆われた雄牛の腸の形をした
海蛇のように長いクネクネとした胴体が見えた。胴体から棘に覆われた昆虫の脚らしきものが見えた。
全体像はおぼろげに掴み、ゴジラは再び海面に上昇した。
 ふと見ると初代ゴジラのクローンが右腕に激痛を感じ、苦しみ悶えているのが見えた。
ゴジラはすぐに初代ゴジラのクローンの元に駆け付けた。
 黒い鱗に覆われた右腕には巨大な針が刺さっていた。
 ゴジラは迷わずその巨大な針を黒い鱗に覆われた手で掴み、力の限り、引き抜いた。
初代ゴジラのクローンは激痛で凄まじい悲鳴を上げた。

(第31章に続く)