(第31章)山岸と凛の決死の反撃

(第31章)山岸と凛の決死の反撃

大戸島近海を航行していた新轟天号は大戸島ビルでのバイオテロの発生を受けて現場に向かっていた。
 対テロ特殊部隊SPB(スピーシ・パック)はそれぞれ轟天号から武器を持って降り、
バイオテロが発生した大戸島ビルの玄関に立っていた。
地元の警察やCDCの関係者達がビル周辺の道路を封鎖していた。
 隊員の一人であるスノウの携帯に電話がかかった。
彼は他の隊員達に不審がられないように近くの木の陰に隠れ、電話に出た。
「今、突入準備が。あっ!これは大統領閣下」
「スノウ、忙しいようだから手短に話そう。君のおかげでドラクルと
MJ12の二つの犯罪組織の犯罪行為の実態が明らかになった。」
「と言う事は?2つの組織の幹部やメンバー達は?」
「既にCIAと国際警察が一斉に検挙した。」
「しかし、MJ12のGコロ二―計画に関する情報は僅かしか手に入っていませんが。」
「そうだな、君はさらにGコロニー計画について調べてくれ!では。」
スノウは携帯をポケットにしまうと木の陰から出た。
自分の駒にしていたMJ12とドラクルの組織をこうもあっさりと切り捨てるなんて大統領閣下はなんて人だ。
「おい、何をしているの!早く集合しなさいよ!」
遠くで他のメンバーは集合し、杏子が大声を上げてスノウを呼んでいた。
「はいはいただいま」
スノウはすぐにほかのメンバーが集合している大戸島ビルの玄関前に立った。

 日東テレビレポーターの真鍋とカメラマンの山岸は大戸島の
古い大きな洋館に突入した蓮と覇王を見計らい、
2人は古い大きな洋館の周辺の茂みの中に入り、
蓮と覇王の活躍をカメラに収めようと古い窓を順序良く観察していた。
「なかなか見つからないな。」
真鍋はマイクを持ち、古い窓を一つ一つ見て回った。
それから山岸は真鍋にこう言った。
「やっぱり無理ですよ。」
「いや、発見して見せます!」
しかし幾ら探せど探せど覇王と蓮の活躍をカメラに収められそうな理想の窓は見つからなかった。
「まって下さい」
咄嗟に真鍋は山岸の上着の裾を掴んだ。
「えっ、えっ、何ですか?」
「あれはなんですか?窓を!窓を見て下さい!」
真鍋は窓を指さした。山岸がメガネを掛け直し、窓を見た。
窓からはブロンドの女性が得体の知れない怪物に襲われていた。
その得体の知れない怪物は半ば腫瘍に覆われた成人女性に見えた。
まさか?凛ちゃん?どうしてここに?山岸は大声を上げそうになった。
真鍋は大慌てで彼の口を塞いだ。
「待て!見つかるぞ!」
真鍋は声を潜ませ、そう言った。
「でも、助けないと」
そして洋館の窓からは得体の知れない半ば腫瘍に覆われた成人女性が
無数の牙のある巨大な口を開き、赤い4本の長い舌で凛の顔面を覆い尽していた。
マズイ、このままじゃ。
すぐ近くにあった窓ガラスが割れる音が聞こえた。
「なんだ?」
真鍋は窓ガラスが割れる音がした茂みの方を反射的に見た。山岸はカメラを構え、
凛と異形の怪物がいる廊下を映していた。
まさか?島上冬樹さん?山岸は最初そう思った。
凛を襲っている異形の怪物に向かってその黒い影は物凄い足音を響かせて近づいた。
その黒い影は茶髪のアメリカ人の男性のようだ。
両目は青い複眼をもっていた。
と言う事は凛ちゃんを襲っている半ば腫瘍に覆われた女性の姿をした怪物の仲間なのか?
しかし現れた異形の怪物の特徴はかなり異なっていた。
巨大なタコの頭部、口の周辺からは蛇とも触手ともつかないものが無数に生えていた。
全身を覆っているのは腫瘍では無く青い昆虫に似た外骨格に似た皮膚だった。
女性の姿をした異形の怪物は背後で気配を感じ、凛の顔面を覆っていた舌を剥がすと
凛から距離を取り、離れ、振り向いた。
次の瞬間、アメリカ人の男性の姿をしたその異形の生物は鋭い7本の鉤爪を持つ右手を大きく振り上げた。
ギエエエエエエッ! 甲高い断末魔の悲鳴と共に半ば腫瘍に覆われた女性の姿をした
異形の怪物の身体は一瞬で引き裂かれたちまち真っ二つになった。
凛はゲホゲホ咳き込み、まだ全身に力入らず立ち上がることが出来ないのか仰向けに倒れたままだった。
アメリカ人の姿をした異形の怪物は凛に近づき、無数の牙と
口の周辺の蛇とも触手ともつかないもののある巨大な口を開けた。
鈴の様な形に変異した口の中から螺旋状に捻じれた1本の長い管状の舌が伸びた。
凛ちゃん!起きて!お願い!
山岸の願いが通じたのか凛は目覚めた。
彼女の瞳孔は深紅色になり、両掌に黄金に輝く巨大な壁(反重力シールド)が現れた。
ふと山岸は何かを決心したようにカメラを真鍋に無言で手渡し、腰のズボンから何かを取り出した。
「それは一体どこで?」
「ル―シさんのあの洋館の見取り図の中に入っていました。」
山岸はそう答えると両手でベレッタMS200を構えた。
その時、山岸は脳裏に一週間前、東京のカクテルバーで元MBI女性捜査官と
男性捜査官に言った言葉が脳裏をよぎった。
僕は彼女と子供を守り切ります。
例え得体の知れない敵が襲ってきても!絶対に!
彼は額に汗を滲ませ、異形の怪物の額に銃口を向けた。
「凛ちゃんから離れろ!この醜い化け物め!」
そう言うなり、山岸はタイミング良く、引き金を引いた。
 そして彼が放った9mmのメ―サパラベラム光弾はその異形の怪物の額に命中した。
 異形の怪物は左右の長い管状の舌を振り回し悶え苦しんだ。
 山岸がやったと小さく歓声を上げた。彼は当たったのが嬉しくて、
嬉しくてたまらないと言う表情で真鍋の顔を見た。
 凛は異形の怪物がひるんだ隙に両掌に現れた黄金に輝く
巨大な壁(反重力シールド)を直接、異形の怪物の身体に叩きつけた。
それにより異形の怪物はそのまま真後ろに弾かれ、仰向けに転倒、後頭部を強打した。

(第32章に続く)