(第9章)逃亡

(第9章)逃亡
 
何処にいるんだ?
ジョーダンは暗闇の中に目玉の異生物が潜んでいると考え、何度も何度も懐中電灯で暗闇を照らし続けた。
見つからない。どこにいるんだ?
ノートンも暗闇の中に潜んでいる目玉の異生物を探し、周囲を懐中電灯で照らし続けた。
だが、いくら懐中電灯で照らしても目玉の異生物の姿はとうとう見つかる事は無かった。
駄目だ!見つからない。
「おい、大変だ!すぐに戻って来てくれ!アシュリーが!」
「なんだ?一体何があったんだ?」
ジョーダンは持っていた無線を耳に当ててそう言った。
「彼女が消えた……」
「消えただと?ジョナサンはいるか?」
「ああ、いるよ。しかし彼が戻って来た頃には……彼女がいなくなっていた」
「ジム……お前が見ていた筈だろ?」
「ああ、だが、僅かに目を離した隙にあっという間にどこかに行っちまったんだ。」
「分かった。まずはここのどこかにいる目玉の異生物をどうにかしてからだ……」
ジョーダンが無線でジムと連絡を取っている合間に目玉の異生物は
確実にノートンの背後に換気用ダクトの制御室の壁を伝い、静かに音も無く忍び寄っていた。
目玉の異生物は鎌首をもたげ、巨大な眼球で自分を必死に探しているノートンの背中を見た。
次の瞬間、巨大な眼球が緑色に発光した。
同時に緑色の光線が放たれた。
ノートン!危ない!」
異変に一足早く気付き、無線を持ちながら振り向いたジョーダンはノートンに警告をした。
だが、間に合わない。
ノートンは目の前に緑色の光線が迫り、戦慄を覚え、全身が金縛り状態になった。
しかし咄嗟にジョーダンは持っていた無線機を力いっぱい投げた。
目玉の異生物が放った緑色の光線は無線機に当たった。
そして無線機を構成している金属等の構成物質を分解し消滅させた。
同時にノートンは懐中電灯を構え、懐中電灯の光を目玉の異生物の巨大な眼球に向けた。
目玉の異生物は巨大な眼球に暑さと激痛を感じた。
「ジョーダン!」
ジョーダンも懐中電灯を取り出し、目玉の異生物の巨大な眼球に向けた。
目玉の異生物はノートンとジョーダンが向けた懐中電灯の光を避け、再び制御室内の周囲を伺った。
「逃がすな!ここで食い止めろ!」
ノートンは懐中電灯の光を目玉の異生物の眼球に向けた。
目玉の異生物は苦しみ、長いく赤い触手を勢いよく振りまわした。
それはノートンの顔面に直撃した。
彼の身体は宙に浮き、そのまま騒がしい音を立てて近くの修理用の部品や工具が入った棚に衝突した。
衝突した勢いで棚に乗っていた修理用の部品や工具がバラバラとジムの頭の上に降り注ぎ、棚が倒れた。
彼は棚の下敷きになり、修理用の部品や工具に埋もれ、そのまま意識を失った。
ノートン!畜生!」
ジョーダンは懐中電灯を目玉の異生物の巨大な眼球を照らした。
しかし目玉の異生物はジョーダンの懐中電灯の光を避け、近くのコンクリートの壁に素早くよじ登った。
「この野郎!」
更に目玉の異生物は長い視神経に似た尾を伸ばし、ジョーダンの身体に巻き付けた。
「離せ!離せ!」
ジョーダンは右拳で長い視神経に似た尾の赤い皮膚を叩いたが無駄だった。
そして彼の身体はいとも簡単に投げ飛ばされた。
目玉の異生物は巨大な眼球を緑色に光らせた。
ジョーダンは投げられた勢いですぐ傍の壁に叩きつけられ失神しかけていた。
薄れゆく意識の中、ジョーダンは何か目玉の異生物の進行を阻止する物が無いか必死に手探りをした。
しかし手探りしている間に彼の意識は薄れ、とうとう失神した。
「ジョーダン!ジョーダン!大丈夫?大丈夫か?」
ジョーダンは仰向けに倒れていた。
そしてうっすらと目を開けると短い茶髪の男の顔が見えた。
「ジム……」
「君が無事で良かったよ。」
その時、ハッと意識が完全に戻り、起き上がろうとした。
しかし全身に激痛が走り、起き上がることは不可能だった。
「目玉の異生物はどうなったんだ?」
ジムは暫く黙っていた。
ジョーダンはジムの横顔を見るなり、嫌な予感がした。
彼はジムの見ている方向を見るのが怖かった。
しかし勇気を振り絞り、彼女の見ている方向を見た。
ああっ………そんな……何てことだ……。
ジョーダンとジムが見た先には。
恐ろしい事に換気用ダクトの制御室のコンクリートの壁には綺麗な円形の巨大な穴が開いていた。
コンクリートの壁に空いた円形の巨大な穴からは朝日が昇り、2人の姿を明るく照らした。
 
しばらくして意気消沈したジムとジョーダンはとにかく棚の下敷きになり、
修理用の部品や工具に埋もれ、そのまま意識を失っているノートンを救出した。
そしてガラス張りの素粒子加速器のコントロール室に戻った
3人は止む無く、怪我をしてベッドで横になっているジョナサンにこう報告した。
「逃がしてしまった……何てことだ……」
ジョナサンはジムの報告にショックの余り、頭が真っ白になり、口を半開きにしてしばらく茫然としていた。
「さて、アシュリーは一体?何処へ行ったんだ?」
「分かりません……待てよ……」
「なんだ?」
「もう一度、目玉の異生物の細胞を調べる必要があるかも知れません。」
ノートンはそう言い残すとジョーダンを連れてノートンの部屋に向かった。
既に目玉の異生物は極秘研究所の外に逃亡しているので極秘研究所内は安全だった。
だが本当は非常にマズイ事である。
彼はもう一度、目玉の異生物の細胞を調べ直す必要があった。
何故なら。
彼女がなぜ急にいなくなった理由が分かるとノートンは確信していた。
そして自分の彼は以前、最初に出現した時に採取した目玉の異生物の赤い体組織を再び遺伝子検査をした。
「やはり……思った通りです。」
「なんだ?」とジョナサン。
「あの目玉の異生物は紙魚に似た原始的な昆虫のDNAの他にあった。」
「一体?何のDNAだ?」
ハリガネムシに類似した寄生虫のDNAが発見されました。」
「なんだって!」とジム。
ノートンの言葉を聞いたジョナサンは気持ち悪くなり、両手を押さえ、吐き気を堪えた。
 
(第10章に続く)