(第1話)無線

牙狼バイオハザード・伯爵騎士編
 
(第1話)無線
 
牙浪の世界。
魔戒騎士であり、白夜騎士ダンの称号を持つ男・山刀翼は久しぶりに
修練場から魔戒法師の里の閑岱の地に戻る為、深い森の中を歩いていた。
しかしその道中、ふと背後に強い気配を感じ、足を止めた。
翼は白い長い魔戒槍を構え、素早く振り向いた先には
白いスーツを着た男が立っていた。
白いスーツの男はオールバックの茶髪と茶色の眉毛。
筋肉質でガッチリとした体格をしていた。
男は榛色の瞳から鋭い眼光を放ち、翼を見ていた。
「もうすぐこの閑岱の土地で面白い事が起こりますよ!」
男は唐突に一言そう言うと大胆不敵な笑みを浮かべた。
その後、白いスーツの男はその場から素早く走り去った。
翼はすぐさま白いスーツの男を追って森の中を走り始めた。
その時、彼の腕に嵌められていたブレスレッドがこうしゃべった。
「あやつからホラーの気配を感じない……しかし!
ただ者では無いようじゃ!」
 
閑岱の森の中、魔戒法師の烈花は近くの
切り株に腰かけ、横笛を吹いていた。
その時、茂みの中に何かが落ちる音がした。
烈花は笛を吹くのを止め、切り株から立ち上がると
音のした方の茂みを掻き分けた。
すると黒い箱のような物が見つかった。
「なんだ?これは?」
烈花は警戒し、懐から魔導筆を取り出した。
「まさか?ホラーのオブジェか?」
黒い箱からノイズ交じりの声が聞えたのでドキッとした。
「こちら……クイーン・ゼノビア……応答願います!応……答を……」
クイーン・ゼノビア?聞いた事無いな……。
烈花は驚きの余り、尻餅を付き、首を傾げつつも
恐る恐る黒い箱を手に取り、話しかけた。
「応答とやらをしたぞ!?」
「こちらBSAA隊員クエント・ケッチャム!貴方は誰ですか?」
「おっ!俺は烈花だ!お前の名前はクエントだっけ?」
「烈花?不思議な名前ですね。貴方は一般人ですか?」
「いや、えーと、そのーえー」
烈花は自分の身分である魔戒法師を名乗るべきなのか迷った。
しかし結局、散々悩んだ末、魔戒法師と名乗った。
「魔戒法師?なんでしようか?」
錬金術師みたいなものさ」
錬金術?えええっ!ちょっと待って下さい!
どうなっているのでしようか?」
『それは俺が聞きたい』と烈花は猛烈にそう思ったが口には出さなかった。
「それでそのBSAAってなんだ?」
「対バイオテロ組織です。」
烈花はますます訳が分からなかった。
「そうだ!お願いがあります!ジル・バレンタイン
クリス・レッドフィールドと言う人物を探せませんか?」
「分かった!仲間達に色々当たって探してみるよ」
「ありがとうございます!」
「ああ、いいのさ」
烈花は口ではそう言ったものの仲間の法師達がジルとクリスと言う
名前の人物を見知っているのかどうか確証はなかった。
しかしクエントと言う男はかなり仲間を心配しているんだな。
烈花はそう思うとどうにも見過ごせなかった。
そして烈花は無線をしまうと閑岱に戻って行った。
 
閑岱の森を出た広場。
その広場の中央の空間がグニャリと大きく歪んだ。
続いて大きく歪んだ空間から2人の男女が飛び出した。
2人の男女は周囲を見渡した。
「ここは何処だ?クイーン・ゼノビアじゃないな。」
2人はお互い顔を見合わせ途方に暮れた。
「参ったなぁ。ジル!ここは日本の森だ!しかももうすぐで夜だぞ!」
「ええ、どうやら別の世界の日本の森に紛れこんじゃったようね。クリス」
その時、背後で声がした。
「何者だ?」
2人が振り向くと白を基調とした赤と黒の装飾品
を付けたコートを着た男が立っていた。
「貴方は?」
「俺は山刀翼。お前達は何故この閑岱の地の森にいる」
「あたし達は旅人で迷ったんです。」
「迷ってここへ?こんなところまで?」
翼はジルを探る様に青い眼をしばらく凝視した。
そこに今度は森の茂みを掻き分け、胸元と太ももを露出させ、
黒い服を着た女性が現れた。
「翼!烈花を見なかったかい?」
「見ていない。」
邪美は2人に近づくと暫くそれぞれの顔を覗き込んだ。
「見た事無い顔だねぇ。もしかしてあんた達、旅人かい?
しょうがないねえ」
邪美は二人について来いと首を振り合図した。
「待ってくれ!この者達は……」
「だからってこの森に放置する訳にもいかないだろ?」
翼が話の続きを言う前に邪美はそう言い返すと
2人を案内してとっとと歩き去った。
その頃には、もう日がだいぶ傾き、森は徐々に暗闇に包まれつつあった。
途中、胸元と太ももを露出させ、
黒い服を着た邪美よりも若い女性に遭遇した。
「烈花!何処に行っていたんだ?」
「ああ、邪美ねえ……ちょっとな……」
そう答えると烈花は真剣な表情でジルとクリスを見た。
「もしかして?ジルとクリス?」
「ああ、どうして君は俺達の事を?」
「俺の名前は烈花!お前達の仲間が探していた」
烈花は無線機をジルに向かって投げた。
ジルは耳を当てた。
「こちら!クエント!ジルですか?」
「ええ!こちらバーミリオン!クリスも無事よ!」
「よかった!早速、北米支部に連絡しないと!」
「オイオイ俺には報告は無いのか?」
クエントの他にも別の男の声が聞えた。
「パーカー久しぶりね!」
「やれやれだぜ!2人の無事は確認できた。今何処にいるんだ?」
そしてジルは再び、これまでの旅の経緯を話して聞かせた。
ついでに別世界の森にいる事も。
「それはマジなのか?」
パーカーは信じられないと言った口調でそう言った。
「どうやらそうなのよ。
既に時空絡みの事件を起こした組織は壊滅させたわ。
あとは元の世界に戻るだけよ。でも……」
「ああ、大丈夫さ。俺達はここで待っている!大切な仲間だからな」
「ええ、そうね。必ず帰るわ!以上」
ジルはパーカーの優しい言葉に心の底から感謝した。
そして少しだけ名残惜しそうに無線を切った。
 
(第2話に続く)