(第2話)黒傘

(第2話)黒傘 
 
ジルとクリスは邪美、翼、烈花と言う人物に案内され、閑岱に着いた。
閑岱は大きな藁の小屋が並ぶ、平穏な村だった。
周囲には見た事無い黒い文字の書いた旗。
不思議な何に使うか分からない物があった。
そして翼と邪美の前に白いコートを羽織った男がいた。
「冴島鋼牙!」
「ああ、翼、邪美、烈花!元気だったか?」
冴島鋼牙と言う人物は穏やかな笑みを浮かべた。
「あんたも元気そうで何よりだよ!」
「俺も元気だ!」
邪美と烈花は嬉しそうに言った。
「久しぶりだな!邪美!烈花!」
クリスとジルは不意にあたりをキョロキョロした。
人の声?誰もいないぞ。
「オイオイどこを見ているんだ?俺様はここだぜ!」
クリスとジルは鋼牙の指に嵌められた髑髏の指輪を見た。
髑髏の指輪はカチカチと音を立て、しゃべり出した。
「よお、俺様はザルバ!魔導輪だ!」
「指輪がし・し・し・しゃべった!」
ジルは上ずった声を上げ、ザルバと言う髑髏の指輪を見た。
「ワシもおるぞ!」
クリスが振り向くと今度は翼の腕に嵌められた
竜のブレスレットがカチカチと話し始めた。
「ワシはゴルバ!魔導具じゃ!」
「一体どういう仕組みでしゃべっているんだ?」
ジルとクリスは驚きの余り、それぞれ開いた口が塞がらなくなった。
藁の小屋の囲炉裏を囲んで鋼牙、邪美、翼,烈花に
ジルとクリスはこれまでの旅の経緯を簡単に話して聞かせた。
「なるほど。時の歪みを利用しての長い旅か。
鋼牙、俺も行ってみたいぜ!」
「俺は御免だ。」
「それにしてもお前達もとんだ災難だったな。」と烈花。
「でもいきなりの長い旅なんてあんた達苦労したねぇ」と邪美。
やがて日は完全に落ち辺りは夜の暗闇に包まれた。
 
クリスとジルは森の近くで今後お互いどうするのか話し合っていた。
突如、空間が大きく歪んだと同時に
大きな黒傘を被り、茶色の衣類を纏った大男。
白夜ホラーレギュレイスが現れた。
「まさか?時空の歪みで開発中だった新型のタイラントが出現したのか?」
次の瞬間、いきなりレギュレイスは耳まで裂けた大きな口を開けた。
そして空を切る音と共に無数の棘に覆われた
長い舌をクリスに向かって伸ばした。
クリスは咄嗟に真横に側転した。
同時に無数の棘に覆われた長い舌は
彼の真横をスレスレのところを通過した。
「気付けてクリス!こいつなんかヤバいわ!」
ジルは背中からマシンガンを取り出し、引き金を引いた。
180発のマシンガンの弾はビチャビチャと
血しぶきを飛ばし、大男の身体を撃ち抜いた。
しかし大男はたじろぐ事すらしなかった。
効かない!この程度じゃ!怯む事さえしないの?
ガサッと草木を掻き分け、冴島鋼牙が現れた。
彼は華麗にジャンプをすると魔戒剣を頭上に掲げ、
一気に右斜めに振り降ろした。
しかしレギュレイスは拳で鋼牙の魔戒剣を真上に叩き上げた。
魔戒剣は彼の手から離れ、ヒュンヒュンと弧を描き、
ドスンと地面に落下した。
続いてレギュレイスは拳で彼の顔面を殴り付けた。
彼は身体をグルグルと回転させ、大木に激突し、仰向けに落下した。
マズイ!こいつをここに放置したら!周囲の人間が危険だ!
クリスはそう判断し、強い正義感からか勇敢にも
レギュレイスに一気に接近した。
「止せ!殺されるぞ!」と茂みから現れた翼はそう警告した。
その時、レギュレイスはいきなりクリスの顔面を
容赦無く右頬と左頬を何度も殴り付けた。
クリスは両頬に激痛を感じ、頭がクラクラした。
レギュレイスはそのままクリスの右腕を掴み、軽々と真後ろに放り投げた。
クリスは天と地が逆さまのまま大木に背中と
頭部を強打し、痛みで呻き声を上げた。
ジルはふと目の前に鋼牙が持っていた魔戒剣が目に入った。
ひょっとしたらこれなら!奴を倒せるかも?
すかさずジルは魔戒剣を両手で握った。
しかし幾ら持ち上げようとしても常人には
超重量で持ち上げる事は不可能だった。
ちょっと!なんで!持ち上がらないの?
レギュレイスは人語とは異なった言語である魔界語でしゃべり始めた。
「ギザマニ、ソウルメタル、ホアズガベルノガ?
ムボナバガギダ!アギラメボ!ニンゲン!」
意味は何となく彼女は理解した。
しかし諦めるつもりは毛頭なかった。
ジルはナイフを取り出した。
次の瞬間、凄まじい衝撃がジルの下顎を襲った。
ジルの身体はロケットの様に空高く打ち上げられたのを感じた。
少なくとも体感的に5m位は吹っ飛んだのだろうか?
そこからジルは茂みにドサッと落ちる音
を聞いたのを最後に意識が途絶えた。
クリスは必死にジルの名前を呼んだ。
しかし彼女からの返事は無かった。
「貴様あああああっ!」
翼は魔戒槍を両手で構えるとレギュレイスに突進した。
だが、レギュレイスは右腕をひと振りし、
裏拳で翼の胸部を殴り、遠くに吹き飛ばした。
レギュレイスは大きく魔界語でそう言い残すとジャンプし、闇夜に消えた。
「ナザレシチ!ナザレボシ!ニンゲン!リシオサネカセレバ!
ヤメラザリトスコアメ!ジュウ二ジカズ!ヲクガリバザメロ!」
レギュレイスにアッパーで殴られ、意識を失っていた
ジルは夢らしきものを見た気がした。
彼女の目の前に白いスーツを着た見知らぬ男が現れた。
次の瞬間、ジルの後頭部に激痛が走り、痛みの余り、呻き声を上げた。
「君は何故?レギュレイスに正面から立ち向かった?」
白いスーツの男はジルの顔をしばらく観察していた。
やがて何かを思い出した様子で微かにハッ!と声を上げた。
「もしかして!君は?昔、私が『命』を助けた。
あの時の幼い少女か?」           
その後、ジルはフラッシュバックの後、完全に意識を取り戻した。
彼女は閑岱の小屋の中にある布団の上にいた。
彼女の傍には邪美と烈花が座っていた。
「ああ、気が付いたか?」と烈花。
「あいつにぶん殴られて良く生きていられたもんだねぇ!」
邪美は感心するやら呆れるやら複雑な表情をしていた。
近くのベッドにはクリスがうーんと唸り、
痛みで時々顔を歪ませ、寝ていた。
「しかし、何故?レギュレイスは俺達が封印した筈だ!」
すぐ傍には鋼牙と翼が椅子に座っていた。
貴方達?なんでそんなに身体が丈夫なのよ?
「俺には心当たりがある。」
ベッドの上に寝たままクリスがそう言った。
「恐らくあの組織が時空の境界線を越えるのに使用した
特殊な石の影響がこの世界にも残っているのだろう。」
「だとしたら?レギュレイスが蘇った原因も
この世界の時空の境界線が乱れているから?」
「つまり、他のホラー達も復活している可能性があると言う事か?」
鋼牙の質問にジルとクリスは頷いた。
「なんてことだ……」翼も思わず異常事態に頭を抱え込んでしまった。
 
(第3話に続く)