(第41章)この地球上に大いなる災いを

(第41章)この地球上に大いなる災い
 
大戸島病院。島上冬樹の病室。
「だとしたら?旧支配者クトゥルフに偽のヨグーソートスの召喚方法を教わり、それを利用して」
今まで黙っていた覇王は口を開き、旧支配者クトゥルフが感染した人間を呉爾羅化させる
危険な生物兵器つまりウィルスか何かをばら撒こうとしている可能性を指摘した。
「……騙されたのか?」
島上冬樹はようやく自分が騙された事に気付いた。
さらにテレビではまだニュースは続いていた。
「またその大戸島の無人島に現れた別の巨大なぜん虫(ワーム)の怪獣の身体に変化がありました。
その巨大なぜん虫の怪獣はUMAのモンゴリアン・デスワームに
類似しているとの未確認情報が入っており……。
現在その巨大なぜん虫の怪獣は不定型な青い肉の塊になったあと徐々に
タコとドラゴンを戯画した様な姿に変化しました。
さらにタコのような巨大な頭部と巨大な翼があるそうです。
その変身した怪獣の姿を見た数名のスタッフやアナウンサーやカメラマン達はその異形の怪獣の姿を
見るなり酷く怯え、正気を失ったとの報告もあり、どうやらおぞましい存在であることは確かなようです。」
「ああっ!旧支配者クトゥルフだ!あらゆる地球上の生物や人類やミュータントの未来はもう終わりだああっ!」
そう言うなり、島上冬樹は絶望に包まれ、両手で頭を抱え、ベッドの上にうずくまった。
 
大戸島の無人島。
ゴジラに脳の一部を破壊されたのにも関わらず、リヴァイアサンは再び起き上がった。
畜生!しつこい野郎だ。
リヴァイアサンは再びガバッと巨大な4本の牙のある口を大きく開けた。
既に自分の体内からテロメラーゼの活性を自由にコントロールさせる特殊な物質は完全に消滅している。
つまりテロメラーゼを高活性化させて一時的に寿命を延ばすあの離れ業を使用するのは不可能だ。
既にゴジラは完全に力を失い、全身はおろか指一本さえも動かせない程、衰弱していた。
だが、まだごく微量ながら核エネルギーは残っている。
しかし自分の心臓に向けられたリヴァイアサンの毒針をかわすほどの体力はもう残されていない。
すまない。できればもっと……。
リヴァイアサンはそして巨大な口の中にある毒針をゴジラの心臓に狙いを付けた。
ゴジラは覚悟を決めて、両目を閉じた。
次の瞬間、いきなり何かが破裂する音がした。
しかしゴジラは不思議と激痛を感じなかった。
そうかもう死にかけ……。
いや、おかしいぞ。
ゴジラは再びオレンジ色の目を開けた。
彼の眼にはとんでもない光景が飛び込んできた。
リヴァイアサンはそのまま激痛でのたうち長い全身をくねらせ、激しく暴れ回っていた。
何?一体どうなって……。
次第にリヴァイアサンの背中の分厚い外骨格の皮膚組織にヒビが入り始めた。
やがてバキン!バキン!と大きな音を立てて、まるでメッキが剥がれる様に
分厚い外骨格の皮膚組織は剥がれて行き、中身の青い肉の部分が露出した。
その悪夢のような光景を見たゴジラと初代ゴジラのクローンは全身に戦慄が走った。
まさか?あいつ?何かに身体を乗っ取られているのか?
リヴァイアサンの頭部から全身を覆っていた分厚い外骨格の皮膚組織がバラバラと全て剥がれ落ちた。
さらに深紅の尾の先端の電気発声器官もまるで風船のように膨らみ破裂し、消滅した。
そして中身の青い肉の部分が露出したリヴァイアサン不定型な青い肉の塊になった。
やがて徐々にタコとドラゴンを戯画した様な姿に変わって行った。
タコのような巨大な頭部に4本の牙を持つ巨大な口の周辺には蛇とも触手ともつかぬものが生えて来た。
背中からは巨大な青と深紅の部分が混じったメガギラスとドラゴンを掛け合わせたような翼が生えて来た。
両胸と両腹部の4本の青い昆虫の外骨格に覆われた触手は消滅していた。
更に全長100mから200mに巨大化した全身は青い腫瘍に覆われて行った。
しかもさらに大きくまるで熟れた果実の様に徐々に膨らみを増して行った。
まさか?あの全身の青い腫瘍にもあの虹色の円筒状の生物と同じ、
怪獣や人間達に感染する未知の病原菌があるのか?
マズイな、あの青い腫瘍の中に病原菌があるとするとそれが地球上に蔓延すれば……。
全人類や地球上のあらゆる生物達がクトゥルフ由来の怪物に変身する危険性が高い。
間違いないあいつは旧支配者クトゥルフだ!
もしこの二つの人間や他の怪獣達の間で流行したら?
もしかしたら我々はクトゥルフ達に住処を追われる事になるかも知れない。
同族や住処を守る為に何としても危険な病原菌が世界中に蔓延するのを何としても阻止しなければ!
ゴジラはオレンジ色の目で初代ゴジラのクローンの顔を真剣に見た。
お前、放射熱線の吐き方を知っているか?
だが、急にゴジラにそう言われ、動揺し、魚の様に泳いでいるオレンジ色の両目を見た瞬間、ゴジラは悟った。
この若いゴジラはまだ放射熱線の吐き方を知らないばかりか一度も使った事が無い事に。
ゴジラの体内にはもう強力な放射熱線を吐けるほどの核エネルギーは残っていなかった。
だが、初代ゴジラのクローンには円筒状の生物の体内を高温で焼き尽くし、
塵に変えて崩壊させる程の膨大な謎の高エネルギーを蓄えている。
あのクトゥルフが持つ病原菌の蔓延を阻止する方法はたった一つしかない。
初代ゴジラのクローンに放射熱線の吐き方を教え、あの旧支配者クトゥルフを迎撃させる。
私は間もなく寿命を迎える。
その前に目の前の若いゴジラ放射熱線の吐き方を教えなければならない。
だが、この目の前の若いゴジラに放射熱線の吐き方さえ教えればあとは何とかなるかも知れない。
ゴジラは初代ゴジラのクローンを真剣な眼差しで見た。
 
大戸島町の病院。                                
「なんだって?人間が発狂だと?」
覇王と真鍋は唖然とした表情でTVのニュースを見ていた。
その時、覇王と凛の頭の中で女性の声が聞こえた。
「凛さん!覇王さん!聞こえますか?」
2人はその声に聞き覚えがあった。
「その声は小美人か?」
「はい、そうです!今インファント島から貴方達とテレパシーで会話しています。」
「久しぶりね。」
凛は思わず笑みをこぼした。
しかしすぐに覇王は小美人の声がおかしい事に気が付いた。
いつもは強く優しくしっかりとした口調で語りかけて来るのに。
今日は明らかに何かに怯え、声はかなり震えていた。
「貴方達に危険を伝えなければいけません。
大戸島の無人島で新しく誕生したのはクトゥルフの同族です。
旧支配者クトゥルフはテレパシーで邪悪な指示を与え、大勢の人間達を操って狡猾に策略を立てました。
彼らはこれまで長い地球上の歴史の中でかつてない程の邪悪で危険な存在です。
新しく誕生したクトゥルフの同族が放つテレパシーに触れた人間達は精神を狂わされ正気を失ってしまいます」と
「奴の目的はなんだ?」
「恐らく新たな眷族の創造かあるいは自らの肉体の復活を試みているのかも知れません。
そして彼らはあたし達や人類を滅亡させる為、この地球上に大いなる災いをもたらそうとしています。」
小美人は震える声で蓮の質問にそう答えた。
 
(第41章に続く)