(第12章)指令

(第12章)指令
 
閑岱で時空の歪みが発生し、ジルとクリスが現われる3日前。
黄金騎士ガロの称号を持つ男。冴島鋼牙は全ての番犬所を束ねる上位機関
元老院』の最高神官グレスに呼び出されていた。
いわゆる魔戒騎士や法師の上司である。
鋼牙は奥さんのカオルに元老院へ行く事伝えた後、
執事のゴンザと奥さんのカオルが見送る中、
屋敷の玄関から白いコートを翻し、出た。
鋼牙は元老院に続く街のビルの壁に着くと魔導輪ザルバを壁にかざした。
すると元老院に続く入口が現われた。
やがて真っ暗な部屋に着いた。
目の前には白いドレスを着た女性・グレス最高神官が立っていた。
「冴島鋼牙殿!急な呼び出しで申し訳ありません!」
鋼牙は四角い足場の上にひざまずきお辞儀をした。
「ドラキュラが真魔界から人間界にゲートを通って侵入しました!」
「なんだって!あの伯爵ホラードラキュラが?」
「伯爵ホラー?」
「そうです伯爵ホラードラキュラは
あの白夜の魔獣レギュレイスさえも恐れおののく程の強大な力を持ち、
レギュレイスの毒や細胞を破壊する能力を持っています。」
「何故?そんな奴が人間界に?」
「不明です。ドラキュラは始祖ホラーメシア
から産み出された普通の素体ホラーでした。
しかし偶然にも彼は始祖ホラーの能力を一部受け継ぎ、
独自に進化を遂げました。」
「成程!人間達の生物学の言葉で言う
『突然変異』って奴だな。」とザルバ。
「ドラキュラは太古の時代から我々神官や魔戒騎士、魔戒法師、
更に普通の人間以上に知識が豊富で策略に長けています!
かつて多くの騎士や法師達が彼の策略により命を落としました。」
鋼牙に与えられた指令は『伯爵ホラードラキュラを討伐する事。』
グレス神官によれば既に彼により多数の人間達が捕食されていると言う。
鋼牙はこれ以上犠牲者が増えない内に
ドラキュラを討伐すべく元老院を出た。
そんな経緯があり、早速鋼牙はザルバのホラー探知の能力を使い、
ドラキュラの場所を突き止めようと
自分の管轄の街をしらみつぶしに探した。
しかしドラキュラは自ら邪気を消している為、なかなか見つからなかった。
もうすでに太陽は沈んで辺りの空は暗闇に包まれていると言うのに。
陰我のあるオブジェから人間に憑依したホラーは太陽が出ている昼間は
人間として振る舞い、憑依前とは変らない日常生活を送る。
夜間になると自らの能力を使い、チョウチンアンコウが頭部の
光の提灯で獲物を誘き出し、ワニガメが偽の餌に見立てた舌で
獲物を誘い出す様に人間を巧みに誘い出し、捕食する。
暫くしてザルバはドラキュラを探知した。
「いたぞ!あの中にいる!」
鋼牙は目の前にそびえ立っているビルを見た。
その時、全身、傷だらけのサラリーマンが
意味不明な言葉を叫び、一目散に走り去った。
「鋼牙!マズイ!人間がいるぞ!」
「分かっている!」
鋼牙は白いコートをはためかせ、ガラスのドアを開け中へ、入って行った。
ビルの中に入ると大理石で出来たエントランスホールが見えた。
続けてホールの中央には白いスーツの男と
その男に捕まった女子高生の姿が見えた。
鋼牙は白いスーツの男に捕まっている女子高生の周囲を見渡した。
すると真っ二つに折れたバッド。
山積みとなった小石の破片と学生服が大理石の床に
15か所余り、落ちているのが見えた。
どうやら白いスーツの男は15人もの人間、
つまり高校生を既に捕食したようだ。
白いスーツの男に捕まっている女子高生は
荒々しく息を吐き、甲高い声で喘いでいた。
白スーツの男は旨そうにズルズルと首筋から
溢れ出る大量の血を一気に吸い上げていた。
女子高生は両頬を紅潮させ、
何処かその表情はとても気持ちよさそうだった。
「ああ!あうん!もっと……もっと……吸って……下さい!
ああっ!あうあっ!ああっ!」
女子高生は口を大きく開け、荒い息を吐き、
甲高い声で喘ぎ声を上げ続けていた。
セーラー服に覆われた大きく丸く膨らんだ
両胸を何度も上下に激しく痙攣させていた。
やがて女子高生の肉体は急速に水分を失い、
カラカラに乾燥したミイラと化した。
そうなる頃には女子高生の言葉と喘ぎ声は既に途切れていた。
同時に女子高生の肉体は石像のようにバリンと音を立て砕け、
小石の破片を撒き散らした。
白いスーツの男は胸ポケットから白いハンカチを取り出した。
そして彼は血で汚れた唇を丁寧にふき取った。
「貴様がドラキュラか?」
「いかにも私の名は伯爵ホラードラキュラだ!
君は黄金騎士ガロ!冴島鋼牙だね!」
「ああ、そうだ。」
「ホラーの始祖メシア、レギュレイス、
魔境ホラーカルマを初めとする最凶の使徒ホラー。
『メシアの牙』、『究極ホラー』、
『太古の赤き魔獣』と称されるギャノンを倒したそうだな。」
「ああ、俺一人の力では無い。」
「ほう、興味深いね。」
鋼牙は強い口調でこうドラキュラに詰問した。
「狙いはあの女子高生か?高校生か?」
「ああ、自分の暴力に自己陶酔した人間は最高に旨い!
自分が暴力を振えば怖がらせて全ての人間を支配できる!
また人間を嘘で恐怖と与え、洗脳し、時には他人に理不尽な言葉や物理的な暴力を振るい!自らの欲の為に人間を支配する。
そんな人間は私にとって最高のディナーなのだよ。」
「悪趣味な奴だ。」
「では冴島鋼牙よ!お前はサラリーマンと言う弱い人間を面白可笑しく
痛めつけ、金を奪う、悪人に生きる権利はあるかね?」
「ああ、そんな奴らでも守りし者として
彼らにもきちんと生きる権利は与えるべきだ!」
「人殺しの重罪人でも?子供を虐待する親も?
集団で一人の人間をいじめるクズ共も?」
ドラキュラは捕食した女子高生のセーラー服を踏みつけ、
ギリギリと踏みにじった。
次の瞬間、鋼牙は白いコートの赤い内側から
まるで手品のように赤い鞘を取り出した。
「言いたい事はそれだけか?」
鋼牙は赤い鞘から剣を引き抜き、銀色に光る魔戒剣を両手に構えた。
続けてドラキュラの首筋に向かって右斜めに振り降ろした。
だがドラキュラは余裕の笑みを浮かべ、再び白い霧に変化し、姿を消した。
同時に鋼牙は右斜めに振り降ろした魔戒剣は空振りし、
虚しく空気を切った。
ドラキュラは再び白い霧から白いスーツの男の姿に戻り、
鋼牙の背後に現れた。
その瞬間、彼は振り向き魔戒剣を水平に振った。
しかしドラキュラは身体を大きく後ろにエビ反り回避した。
続けて両脚を勢いよく上に振り上げ、鋼牙の下顎を蹴り上げた。
彼は宙に吹き飛ばされた。
その後、ドラキュラはバック転をし、大理石の床に着地した。
同時に床を踏みしめ大ジャンプした。
鋼牙もバック転をして大理石の床に着地した。
反射的に真上を見上げた。
続けて身体を回転させ、横へ回避した。
ドラキュラは空高くから勢い良く落下した。
彼の裸足の踵は大理石の床に直撃した。
鋼牙はクレーターの中央に立っている
ドラキュラを再び鋭い眼光で睨みつけた。
「うーむ、ここで決着を着けたらやっぱりつまらんな。
3日後に閑岱へ行ってみるがいい。」
「目的はなんだ?!」
「3日後、ある異変が閑岱で起こる。
私の目的は閑岱に来て見てのお楽しみだ!」
そう答えるとドラキュラはあっという間に白い霧の姿になり、
空高く飛び去った。
 
(第13章に続く)