(第13章)再会

(第13章)再会
 
牙浪の世界の翌朝。3日後の閑岱。
ジルは朝食も食べずに芝生の上で訓練を続けるか?
止めるか?悩み考え続けていた。
そして翼が昨日、自分に言った言葉を反復した。
「君が初めて『ソウルメタルの扱い方を教えてほしい』と。
私に頼んだ時、私は君のその強い決意に満ちた青い瞳を信じた。」
「だから君も正しい自分でありたいと願った
自分自身の強い意志を私は信じて欲しい」
ジルは顔を上げると溜め息を付いた。          
ちなみにラクーン市警の特殊部隊STARS(スターズ)
のアルファチームに所属する前。
ジルは当時23歳の若さでデルタフォースの
訓練プログラムを終了していた。
そう彼女は腕立て伏せを2分間に55回以上。
腹筋を2分間に62回以上。
ランニング3.2kmを15分以内に完走。
ついでにこれはアメリカ陸軍の22歳から
26歳の男性兵士の基準値である。
彼女は地雷の撤去や爆発物処理などを学ぶ工兵専門課程の
15週間の厳しい訓練にも耐え抜いていた。
おかげで爆発物の処理の技術や簡単な鍵を
こじ開けるピッキング技術に長けていた。
故に彼女は厳しい訓練の過程で手に入れた体力と
精神力には並みならぬ自信があった。
しばらくしてジルはガーゴイルや翼に
心の弱さを見せてしまった事を思い出した。
彼女は恥ずかしくなり、顔を赤くした。
続いて彼女の心の中を激しい後悔の嵐が襲った。
彼女は泣きたくなったが精一杯強がり涙を堪えた。
しかし『自分の心は弱く無い』と強がれば強がる程、
自分の心がどんどん惨めになって行った。
あたしがSTARS(スターズ)に入隊した動機は。
「市民を脅かす悪が許せなかったから」だ。
でもあたしは自分の仲間も!ラクーンシティの人々も救えなかった。
結局あたしの存在価値は?今まで何の為に
アンブレラ社やテロリスト達と闘って来たの?
責任が重い……命の重さをあたしは
知っているの……だから……辛いの……。
彼女は自分自身の存在価値に強い疑問を抱き、自問自答をした。
答えは出なかった。
それでも暫く長い事、自分自身の存在価値を問い続けた。
しかし幾ら考えても答えが出なかった。
そんな彼女の頬を優しく風が撫でた。
まるで風が慰めてくれるかの様に。
ふと自分の母親の事を思い出し、急に両目から涙が無意識の内に溢れ出た。
ママ……どうして……死んじゃったの……。
しばらくしてジルは朝日を浴びて気持ち良くなったのか?
芝生の上でうたた寝をしていた。
そして短い夢を見ていた。
ジルが大好きな母に別れを告げたのは1985年の秋。
彼女がまだ10歳の頃だった。
当時、10歳のジルと大好きだった母は父の実家で待っている祖父と祖母に会いに行く為、車でバージニア州のハイウェイを走らせていた。
道路のカーブを大きく曲がった時、不意に道路を逆走して来た
赤い車が現われた。
母は驚いてブレーキを踏んだ。
キイイイッ!とタイヤが道路を擦る甲高い音が闇夜に木霊した。
更に母はハンドルを大きく左に大きく切り、正面衝突を避けようとした。
しかし避けきれずガシャンと音を立てて、車は赤い車の右側に衝突した。
続けてその勢いのまま大きくスピンし、
フェンスを突き破り、谷底に落下した。
彼女が覚えているのは目の前の眩しい光。
タイヤが道路を擦る音。
不意に空を飛んでいる様な気分になった事。
激しく上下に身体を揺さぶられた事。
彼女は朦朧とした意識の中、白いフードを被った男により、
強引に助け出された事。
男の顔は明らかに人間では無かった。
フードの中から2本の触角、真っ白な顔、赤い光を放つ瞳。
さらに鼻は大きく反り返っていた。
パトカーのサイレンとレスキュー隊のサイレンが聞えた。
同時に白いフードを被った男は姿を消した。
ジルは夢から覚め、我に返った。
そうあの時、母は谷底に落ちた際に亡くなった。
しかもぶつかって来た赤い車の運転手は飲酒運転だった。
それから大人になり、警察官の道を志すようになってから
彼女の母の命を奪った悪を許さない事を母の墓の前で誓った。
そして市民を脅かす悪を許さなくなったのも大体その頃だった。
さらに考えてしまう。
自分を助けた白いフードの男は何者なのか?
怪物か?それとも人間か?
或いは意識が朦朧としていたから幻を見たのかも知れない。
未だにその答えはいい大人になった今も分からない。
しばらくしてジルはポシェットの中に自分が
大切にしていた絵本ある事を思い出した。
彼女は絵本を腰に着いたポシェットから取り出した。
絵本の表紙には狼を象った黄金の鎧を纏った騎士の姿が絵描かれていた。
黄金の鎧を纏った騎士は黄金の両刃の長剣を勇ましく構えていた。
黄金騎士の隣には青い瞳の少女の姿が書かれていた。
幼い頃、楽しく読んでいたこの絵本のタイトルは『クナイの冒険』である。
彼女は芝生の上で体育座りになったまま
絵本のページをめくり、読んでいた。
次第にジルは懐かしい気持ちになり、徐々に気持ちが落ち着くのを感じた。
これはあたしのお母さんがあたしの為に書いてくれた大切な絵本。
この絵本に登場する悪魔と闘う正義の黄金騎士。
そう言えば山刀翼は白夜騎士と名乗っていた。
じゃあ、黄金騎士と名乗る者もこの世界の何処かにいるのだろうか?
あたしの知らない場所で悪魔=魔獣ホラーを倒し、人間を守る者。
だからこそ、あたしはこう思った。
『あたし達人間も彼らに守られているばかりではいけない』と。
彼はあたしの青い瞳の中の光を信じてくれる!
あたしの存在価値はまだ良く分からない。
でもここで諦めたくない!止める訳にはいかない!
彼はあたしを信じてくれているのに!
ジルは両手の甲で青い瞳から流れ出た涙をしっかりと拭った。
彼女は2本の足でしっかりと地面を踏みしめ、立ち上がった。
あたしは最後までやり遂げて見せる!
必ずソウルメタルを持ち上げて見せる!
ジルは決意も新たに短いソウルメタルが刺さっている場所へ走って行った。
その様子を森の中から山刀翼が優しく見守っていた。
「どうやら!あの娘は最後までソウルメタルの
訓練をやり遂げるつもりじゃ!」
翼はホッと一安心した。
しばらくして彼はゴルバにこう言った。
「ああ、彼女の挑戦はこれからさ!」。
 
牙浪の世界。
ドラキュラは高い木の上から覗き込むように
芝生の上に座っているジルを見ていた。
彼は彼女の姿を見ている内に過去に会った
あの幼い少女と面影が何度も繰り返し重なった。
彼女は昔、私が『命』を助けた。あの時の幼い少女に間違いない。
だがそれよりも果たして彼女の口が奏でる性欲の旋律は
どのような音を奏でるのだろう?
 
(第14章に続く)