(第27章)真実(後編)

(第27章)真実(後編)
 
1971年。12月24日。クリスマス・イヴ。
その男は天空に現れた謎の青い四角形を
追って走っている内に教会の前で立ち止まった。
ここか?さっき空に青い四角形が浮かんでいたのは!
あれは確かにこの歴史書に書いてあった記述と絵と一致する!」
彼は空を見上げた。
しかし厚い白い雲に覆われ、青空はおろか何も見えなかった。
「気のせいだろうか?あれは魔戒法師が作った結界じゃなかったのか?」
彼は両手を膝に起き、口からハアハア息を吐いた。
バアアン!!
彼はいきなり聞こえた爆音に驚き、再び空を仰いだ。
空には再び青い四角形が物体に浮かんでいた。
あれが本当に結界って奴なのか?
しばらくして大きな爆音と共に中央のひし形
から人間らしき物体を吐き出していた。
ドスッ!と雪を撥ね、人間らしき物体は雪降る地面に落下した。
やがて青い四角形の物体はスーと消え去った。
彼は直ぐに人間らしき者が落ちた現場に駆け付けた。
よく見ると茶色のショートヘアーに見た事も無い服を着た女性だった。
まさか?実在していたなんて……。
彼は自分が持っている古い歴史書を見た。
その歴史書は日本のとある蔵から発見されたものだった。
ちなみに彼はアメリカ全土で一番有名な歴史家で世界中の
昔の人間達が残した書物や装飾品、
武器等を集めては研究している男である。
女性はかなり高い位置から落ちたのにも関わらず身体は無傷だった。
彼は気絶している女性を抱き上げた。
しばらく迷った末に自分の家に連れて行く事にした。
やがて家で目覚めた彼女は彼の事を酷く警戒していた。
自分は敵では無い事、自分は君を助けた事を伝えた。
彼女は徐々に彼が敵では無い事を知り、
ようやく安心したらしく彼の話に熱心に耳を傾ける様になった。
かれはその女性に慎重に言葉を選びつつも色々質問をした。
そして彼女の話を聞いた結果、彼は確信した。
「魔戒法師と言う存在は実在する」と。
彼女によれば自分は悪に染まった魔戒法師の仲間達に殺されそうになり、
自分の命を守る為、無我夢中であの異空間に続く結界を通って
この異世界に逃亡したと言う。
しばらくして彼はある歴史書を彼女に見せた。
彼女はしばらく歴史書のページをめくり読んでいた。
「これは?何処で?」
「日本のとある蔵から見つかったんだ!」
「間違いないわ。魔戒法師の歴史書よ。でも……どうしてこれが……。」
魔戒法師はどんな事が出来るか彼女に尋ねた。
彼女は魔導筆で文字を描くだけで水流や鳥、蝶等を自在に創り出した。
それから二人は一緒に同棲する事になった。
やがて彼女はFBIアカデミーの実習生として行動科学課に所属した。
彼女は誘拐連続殺人事件の捜査の為、元精神科の医師であり、
凶悪犯だったある男の助言を受け、連続誘拐殺人犯の男を逮捕した。
彼女はアメリカ全土のニュースや新聞で一時、話題となった。
 
魔戒の森の入口の祠。
「そして向こう側(バイオ)世界で
自分を助けてくれた人間の男と結婚後、子供を儲けた。
その愛する娘がジル、貴方なのよ。」
「あたしは一般の人間と魔戒法師の子供なの……」
ジルは自分の母や冴島家にまつわる意外な真実を
目の当たりにし、ショックで茫然としていた。
クナイ法師は茫然としているジルに静かにこう言った。
「この真実はいつか貴方にあたしの口から
伝えなければならければいけなかった。
でも、上手く伝えられる自信が無かった。
だからあたしは愛する娘の為に『クナイの冒険』
と言うタイトルの絵本を描いたの。」
「なんで?魔戒法師の歴史書が向こう側(バイオ)
世界の日本の蔵で見つかったのかしら?」
「それはもしかしたら?こちら側(牙浪)と向こう側(バイオ)
の2つの世界はガラス瓶の中の別々の世界だった。」とクナイ。
「成程。つまり、こちら側(牙浪)と向こう側(バイオ)の
2つのガラス瓶の中の別々の世界は俺様達やお前達の知らない
場所でまるで鉄橋の様に繋がっていたと言う訳か?」とザルバ。
それから最後にクナイは真心を込めてこう言った。
「生きている間にうまく真実を伝える事が出来なくて御免なさい。
でもね。貴方はあたしの誇りなの!」
「あたしが……ママの誇り?」
「そうよ、貴方は世界中の大勢の人々の命を守る為に
悪の企みを暴き、また悪の横暴を阻止して来た。」
「でも……あたし……」
するとクナイはそっと人差し指を彼女の唇に付けた。
「駄目よ。話は最後まで聞きなさい。」
ジルは無言で頷いた。
「貴方は世界中の人々の平和を邪悪な人間達から守るBSAA隊員にして、
魔戒法師や魔戒騎士と同じ強い善の心を持つ『守りし者』よ!」
「あたしが守りし者?あたしに強い善なんて……」
「でもね。その前に貴方はあたしの大事な娘よ!」
クナイは両腕でジルの身体を優しくぎゅっと抱きしめた。
ジルは実の母親の温もりを感じ、
彼女の心の中に熱い思いが湧き上がるのを感じた。
続けて両目から一気に水色に光る大粒の涙が溢れた。
「貴方は一人じゃない。
ママやパパの他に貴方の周りには貴方の事を大切に思う仲間達がいる。」
「ええ、クリス、クエント、パーカー、カーク。
鋼牙、邪美、翼、烈花、他にも時空の旅で出会った大勢の仲間達。」
「だからね。もし、貴方が道につまずいて悪の道に転びそうになっても
貴方を信頼し、守りたいと願う仲間達が命懸けで貴方の足元支えてくれる!
だから大きな災いを恐れず前へ進みなさい!
強くなるのよ!守りし者として!
そしてあたしの心は常に貴方と共にある。
ずーっと貴方の傍で見守っている!
パパもママも貴方を愛しているわ!
いつまでも!いつまでも!いつまでも!いつまでも!」
クナイは再び死伝鳥の姿になると翼長4,8mの翼をバサッと広げた。
ジルは別れが近づいている事を悟り、静かにクナイから離れた。
やがて死伝鳥は月に向かって飛び立った。
ジルは月に向かって力強く羽ばたき飛んで行く死伝鳥を
両目から大粒の涙を止め止め無く流し、右腕をちぎれんばかりに
大きく左右に振り月の彼方に消え行く死伝鳥を。
いつまでも、いつまでも、いつまでも、いつまでも、見送った。
一方、ジルと邪美法師の背後の森の奥に
白いスーツを着たドラキュラ伯爵が立っていた。
「私は君に初めて会った時、微かだが君の中に魔導力を感じていた。
理由はしばらく私も疑問だったが。
彼女のお母さんが魔戒法師。それが疑問の答えだ。
しかも私は幼い少女の彼女の命を助けた。
そして私は……大人になった君に再会した。
恐らく彼女こそ!我々、魔獣ホラーが
救済される道標になるのかも知れない。
これで善と悪が巡り合う運命は存在すると言う事が証明されたな。
実に皮肉な話だ。」
ドラキュラ伯爵はそうつぶやくとくるりと背を向け、
森の奥の闇の中に消えた。
 
死伝鳥となり、月の彼方に飛び去ったクナイ法師を見送った
ジルと邪美法師は魔戒の森の入口の祠から
元の閑岱の帰り道の森の中を歩いていた。
「今日の出来事が信じられない……でも……嬉しかった。」
「そうかい。よかったね。」
ジルの笑顔を見た邪美も釣られて笑顔になった。
しばらく二人は無言で歩いていた。
やがてジルの方がこう切り出した。
「ねえ、明日ソウルメタルが持てるか挑戦してみたい……だから」
邪美法師は彼女のお願いを既に悟っていた。
「分かっているさ!それじゃ!
仲間を皆集めて、挑戦してみようじゃないか?」
ジルは心を読まれた事に驚いた。
「邪美。まさか。読心術があるの?」
「いや、女の勘さ!」と邪美は得意満面の笑みでそう答えた。
そして森を抜け、閑岱の広場に戻った。
すると広場の中央で豪快に大の字で眠っているクリスを発見した。
「えっ?ちょっと!クリス!そんな所で……」
「ああ、こいつは赤酒だ。誰が飲ませたのやら。
まあ、二日酔いにはならないだろうね。」
邪美法師はクリスの口元でくんくんと酒の匂いを嗅ぎそう言った。
クリスはムニャムニャと寝言を言い始めた。
「ジル……ジル……ア……言えない……言えね……。」
「もーだらしが無いわね!いい加減!その酒癖を直しなさい!」
「あたしに任せな!」
邪美法師はクリスの顔面の上に『酔醒』の文字を描き、円を描いた。
バッシャン!と言う大きな水しぶきと共に
『酔醒』の文字からバケツ一杯の水が落下した。
それは見事、クリスの顔面に直撃した。
クリスはうおおおおおっ!と声を上げ、撥ね戸のように上半身を起こした。
「だっ!誰だ!水をぶっかけたのは??」
完全に酔いが醒めたクリスは目の前に邪美法師と
ジルが立っていたのに気が付いた。
「ジル!邪美!真夜中なのにここで何をしている?」
クリスの余りにも間抜けな質問にジルは
片手で顔を覆い、呆れ果てたようにこう言った。
「それはこっちのセリフだっつーの!」と。
 
(第28章に続く)