(第45章)前世

(第45章)前世
 
閑岱のジルが借りている部屋。
「もしかしたら俺達はドラキュラ伯爵について
何か重大な事を見落としていたのかも知れんな。
鋼牙!屋敷から持って来たあの冊子がある筈だ!」
「あの冊子にはドラキュラ伯爵の情報は記載されていなかった。」
「違う!今俺達が探すべきホラーはそいつじゃない!
俺様の推測が正しければ!あいつはとんでもない大物ホラーだぜ!」
「その冊子って何だ?」
セラエノ断章だ。」
「まさか、あのクトゥル神話の登場人物の
ラバン・シュリュズベリ博士が書いた」
「正確にはシュリュズベリ法師がセラエノと言う土地で書いたものだ!
そしてこの冊子に俺達が今探すべきホラーが載っている。」
「だが、どう探せばいい?手がかかりは?」
「『這い寄る混沌の魔獣』というフレーズを探して見てくれ!」
「這い寄る混沌?まさか……そいつは!」
暫く鋼牙はページをめくっていたがやがて探していたホラーを見つけた。
「あったぞ!」
鋼牙の声に反応した邪美とクリスはセラエノ断章のページを覗きこんだ。
「這い寄る混沌の魔獣・ニャルラトホテプ。」
そのホラーの名前を観た瞬間、クリスの顔から血の気が引いた。
セラエノ断章に記載されているホラーの情報は以下の通りである。
ニャルラトホテプは人間に憑依しながらも
千の仮面を持ち、どの姿にも変化自在である。
元々ホラーは憑依した人間の陰我に応じて
様々な形態に一つだけ変化させられる。
しかしこのホラーは特殊で元の陰我に関係無く、
千のホラーの形態や人間の姿に自由に変身する能力がある。
本人の気分次第で千の人間の姿あるいはホラーの姿の内、
一つを選んで組み合わせる様に変身する。」
「これはあくまでも俺様の知る限りの情報だが。
闇を彷徨う者、黒の男。黒のファラオ、スケルタル・ホラー。
膨らんだ女、闇に住みつく者、無貌の神、アトゥ、黒い風。
自由気ままに奴は様々な姿に変身していたようだぜ。」とザルバ。
「ちょっと待ってくれ!ドラキュラ伯爵は?」
「ジルの言う通り、
ニャルラトホテプの千の仮面の中の一つの姿に過ぎないのだろう。
それにしても鋼牙!厄介な事になったな。
そいつは外神ホラーの一体だぜ
「外神ホラー?」
「これで以前からグレス最高神官の説明を
聞いた際に今まで感じていた疑問が解けたな。
良く思い出して見ろよ。鋼牙!グレス最高神官の説明を。」
鋼牙は最初にドラキュラ伯爵討伐の指令を
受けた際のグレス最高神官の説明を思い出した。
『ドラキュラは始祖ホラーメシアが産み出された普通の素体ホラーが
偶然にも始祖ホラーメシアの能力の一部を受け継ぎ、独自に進化した』と。
「じゃ、本当はどうなんだ?」
「いいか、みんな。外神ホラーは始祖ホラーから産み出された
普通の素体ホラーが偶然にも始祖ホラーメシアの能力の一部を受け継ぎ、
独自に進化を遂げた結果、
最初に生まれたのが白痴の魔王ホラー・アザトース。
続けてアザトースから3体の外神ホラーが産み出された。
無名の霧ホラー・ヨグ=ソートス。
闇ホラー・シュブ=二グラス。
今俺達が遭遇した這い寄る混沌ホラー・ニャルラトホテプだ。
そしてさっき俺様が言った4体の外神ホラーは
レギュレイス一族や使徒ホラー以上に強力な
しかもホラーの始祖メシア由来の全く異質な
別の種族だと俺様は考えている。」
「だが、何故?グレス最高神官は
そのニャルラトホテプの存在を隠したんだ?」
「恐らく奴も3体の外神ホラーも
一般人はおろか俺達、魔戒騎士や魔戒法師にも
存在すら知られてはいけない程、ヤバイ奴らだからだろう。
少なくともお前達が協力してその
ニャルラトホテプをこの閑岱で討伐したとしても。
グレス最高神官、元老院側の神官達は
這い寄る混沌ホラー・ニャルラトホテプでは無く、
あくまでも『伯爵ホラードラキュラ討伐』
として事後処理をするのは目に見えて明らかだ。」
「ドラキュラ伯爵討伐の指令を
俺が受けた時点で最初っからそのつもりだったのだろう。」
セラエノ断章に記載されているその
ニャルラトホテプに関する情報にはまだ続きがあった。
「始祖ホラーを産み出すには賢者の石を
人間の女性の子宮に注入する事で誕生する。
不思議な事にその始祖ホラーを
産み出す能力が使用可能なのは一回のみである。
2回目以降は始祖ホラーを産み出す能力は失われる。
一度、ニャルラトホテプと性行為をした
人間の女性は突発的に色情狂を起こす事がある。
ナイアラトホテプと接触した人間の女性は
元の正気に安定するまで管理と注意が必要。」
おい、この後、また一時的狂気に陥るのか?勘弁してくれ。
しかも俺達はその外神ホラーの一体を
最後に相手にしなくちゃいけないのか?
クリスは流石に精神が参り、疲れ切った表情を浮かべた。
そしてまだ恐怖の余り両耳を両手で塞ぎ、
全身を激しく震わせているジルを見た。
 
バイオの世界・クイーン・ゼノビア上階客室。
クエントと烈花はベッドの上に寝転びながらお互い視線を合わせた。
烈花はこちら側(バイオ)の世界でパーカーや
クエントと共にレギュレイスに眷族のラクリの群体との
闘いに行く際に我雷法師に言われた二つの条件を思い出した。
彼女は一目の条件『向こう側(バイオ)
の世界を何が何でも己が死なずにパーカー
クエント、向こう側(バイオ)の世界に住む大勢の
人々の命を守り切る事』は辛うじて果たせた。
レギュレイスの毒を喰らった時は本当に死ぬかと思った。
彼女は改めてその事を思い出し、
白夜の魔獣の恐ろしさ、身の程を思い知ったのであった。
そして問題は2つ目の条件だ。
烈花はさりげなくクエントにこう質問をぶつけて見た。
「俺の事?深く愛しているか?」
「はい、愛しています。貴方無しの人生は考えられません」
烈花は再び口を開き、少しの間、躊躇していたがようやく話し始めた。
「俺と子供を作らないか?」
クエントは余りにも唐突な烈花の言葉に絶句した。
彼はそのまま脳内がフリーズし、思考が止まった。
暫くしてクエントはようやく口を開いた。
「それじゃ?できちゃった婚になりますよ?」
「俺は構わない。お前はどうなんだ?」
「わっ!私はでも妊娠なんて一回じゃ!いやいや!そう言う事じゃなくて」
烈花は顔を真っ赤にして完全に動揺しているクエントをしばらく観察した。
そうする事で彼の答えを聞こうとしたのだが。
何故か彼女はそれが面倒臭くなり、両腕でクエントの身体を抱き寄せた。
続けて彼の口に熱いキスを交わした。
するとクエントは何故かその気になり、自ら自分の衣服を脱ぎ始めた。
烈花も魔導衣を脱ぎ、お互い裸になった。
クエントは烈花の身体をベッドの上に仰向けに押し倒した。
クエントは彼女の両脚の太腿を両手で掴み、大きく広げさせた。
暫くして烈花は両頬を紅潮させ、大きく口を開けた。
同時に甲高い喘ぎ声を何度も上げ始めた。
クエントも少し笑い、腰を前後に大きく振り続けた。
ベッドをギシギシと軋ませ、
烈花の大きな両乳房は前後に大きく揺れ続けた。
クエントも烈花の甲高い喘ぎ声を聞き、
強い性的興奮が湧き上がるのを感じた。
彼は烈花の喘ぎ声に合わせる様に太い喘ぎ声を上げ続けた。
 
それから2時間後のクイーン・ゼノビアの上階客室。
一回のセックスが終わると2人はそれぞれ衣服と魔導衣を着た。
烈花とクエントは仲良くベッドの上に座った。
そしてクエントが持っているPCのDVDシステムを使い、
烈花と一緒に『創聖のアクエリオン』を観ていた。
創聖のアクエリオンは日本のロボットアニメの一つである。
ストーリーはかつて人間と堕天翅族との間で行われた大戦。
殺戮の天使として人類から恐れられていたアポロ二アスは
人間の戦士セリアンと恋に落ち、堕天翅族を裏切り、人類の側に着いた。
そしてかつての婚約者の頭翅(トーマ)の目の前で
自ら翅を引き千切り、セリアンを庇った。
それから一万二千年後、地球の環境の大変動により、
復活した堕天翅族は荒廃したアトランディアの復興の為、
収穫獣を使い、人間達を次々と拉致していた。
地球が荒廃する中、エレメントと呼ばれる特殊能力を持った子供達は
創聖の書に記された伝説の機械天使『アクエリオン』に乗り込み、
堕天翅族は差し向ける神話獣、ケルビム兵に立ち向かうと言うものである。
烈花はこのアニメの主人公のアポロと言う野生児と
ヒロインでお姫様のシルヴィアがそれぞれアポロ二アスとセリアンの
生れ変わりだったと言う設定に強い興味を示した。
それからクエントは丁度、
第13話を見終えたのを見計らい烈花にこう質問した。
「輪廻転生って本当にあるのでしようか?」
「ああ、本当に存在するよ!」
「じゃ!チベットダライ・ラマ法王の話も本当だったんですね!」
「魔戒法師になる子供達は必ず輪廻転生について学ばされる。
魔戒法師を目指す子供達の必須科目さ!」
烈花は再びベッドの上に仰向けになり、クエントの質問に答えた。
クエントも再びベッドの上に仰向けになり、話を続けた。
「じゃ!現在の私と烈花さんの前世の人はどんな人だったのでしよう?」
「うーん、分からないな。過去生の記憶が無いからな。」
「私にもありませんね。」
クエントはもしかしたら彼女と自分は前世で会っているかも?
そう頭でぼんやりと考え、彼は暫く自分の思い当たる記憶を探って見た。
しかし結局、頭の中に過去生らしい
記憶は何も浮かばず残念な気持ちになった。
どうやら烈花も同じらしい。
クエントと同じく残念な表情を浮かべていた。
 
(第46章に続く)