(第1章)裏切り者

(畑内オリジナル短編小説)無敵の歩兵
 
(第1章)裏切り者
 
2015年。
アメリカ合衆国は2001年に発生したアメリ
同時多発テロ事件以降、この世界は対テロ戦争の時代に突入した。
アメリカ合衆国政府はー
メルデバック製薬会社の莫大な資金と技術援助を受け、
自国を脅かすテロリストの根絶を目標に
メリーランド州フレデリック市にあるフォードデトリックの
アメリカ陸軍感染医学研究所の所長のマイク・ジョージは
研究所内の研究員のブレッド・グラビアンスを初め、
多くの遺伝子学者や生物学者
研究チームを集め、極秘の研究を行わせていた。
そして極秘の研究は高度な遺伝子技術や研究者達の熱意により、
約2年以上の歳月を得て、ようやく新たな生物が創造された。
そして研究者のブレッドはこの完成した新たな生物に
『無敵の歩兵』と言うコードネームを与えた。
完成した『無敵の歩兵』はまだ胎児の姿であり、
研究所内の無菌室の隔離部屋で育てられていた。
無菌室の隔離部屋は白い狭い部屋だった。
そこに真っ白な防護服とマスクをした男が入って来た。
男の名は研究チームの一人のブレッド・グラビアンス。
『無敵の歩兵』が眠っている大きな保育器の下部にある
暗証番号を押し、透明な保育器を開けた。
そして静かに両手で『無敵の歩兵』を抱え上げた。
周囲の研究員達や所長のゲイリーには
定期的な健康診断をすると伝えてある。
もちろん嘘である。
彼の目的はこの『無敵の歩兵』を連れ去る事。
さらにアメリカ国外にある各国の巨大企業グループか政府に売り付けて
自分が一生遊んで暮らせるだけの金を手に入れる事。
別に子供が好きな訳ではない。むしろ嫌いだ。
子供はアホ見たいに泣くし、クソや小便は垂れる。
とりあえず誰かに売りつけて金が儲かれば別にいい。
そもそも遺伝子学者になったのも金儲けができるからだ。
男はその赤ちゃんを抱いたまま無菌室の隔離部屋を出た。
そして数日前に入念に下調べを行い、監視カメラや
警備員達の目が行き届かないルートを通り、地下の駐車場まで辿りついた。
やがて用意した真っ黒な巨大な車に
『無敵の歩兵』を入れた後、彼は車に乗り込んだ。
直後、目の前が真っ白に輝いた。
ブレッドは眩しくて反射的に両手を覆った。
「ブレッド・グラビアンス!!そこを動くな!!」
彼の目の前にはざっと10000人程の警備員がズラリと立ち並んでいた。
しかも皆、強力なアサルトライフルを構えていた。
ブレッドは不敵な笑みを浮かべた。
次の瞬間、彼は車のアクセルを思いっきり踏んだ。
大きくタイヤが擦れる甲高い音が聞えた。
彼は躊躇なく10000人程の警備員の群れに車を突っ込ませた。
「マジか!!撃て!撃て!タイヤだ!タイヤを撃て!」
リーダーと思われる警備員は驚きつつも冷静に部下達に指示を与えた。
しかしドンと鈍い音と共に何人かの警備員が車に撥ねられ、即死した。
残りの数名の警備員はアサルトライフルの引き金を引いた。
アサルトライフルの弾丸は車のフロントガラスや黒いボディに直撃した。
しかしタイヤには当たらず、彼が乗った黒い車は駐車場の入口の
分厚い扉を破壊し、猛スピードで外へ入り去った。
「くそっ!なんて奴だ!命をなんだと思ってやがる!!」
リーダーと思われる警備員は吐き捨てるようにそう言った。
駐車場の警備員の報告を受けたアメリカ陸軍感染医学研究所の所長
マイク・ジョージは怒りに駆られて、凄まじい声で罵声を叫び続けた。
「あのくそったれの小悪党!あのゴミ野郎!
これから新しい実験を始める時に!」
その凄まじい威罵の怒鳴り声は
所長室の外にいた研究員や職員の耳にも届いていた。
マイクはしばらく考えた末にある事を思いついた。               
「待てよ……いや。あれは歩兵だ!出来るぞ……よし!」
マイクは電話に飛びつくと何処かに電話を掛けた。
「もしもし。アメリカ陸軍のデルタフォースのブラッドバッドを頼む!!」
暫くして軍人と思われる冷静かつ威厳のある男性の声がした。
「カイル・ベントン隊長!」
「ああ、そうですが?つまり緊急事態ですか?」
「ああ、そうだ!直ぐに部隊の出動をして欲しい!」
「イエス・サー!直ぐに出動の準備をさせます!
しばらくお待ちください!」
それからマイクは受話器を降ろすと、再び持ち上げ、電話を掛けた。
「もしもし!国防総省のNSAの職員か?
よしよし。ある男の行方を捜査して貰いたい!
名前はブレッド・グラビアンスだ!大至急だ!急いでくれ!」
 
それから翌朝。
国防総省のNSAは『無敵の歩兵』の生体サンプルを奪って
逃亡したブレッドが乗った黒い車のナンバーや種類を特定した。
さらに追跡調査の末、彼の隠れ家も鮮やかに特定した。
どうやらアメリカ海岸近くに建っている廃工場の中にいるらしい。
マイクの命令で派遣されたアメリカ陸軍デルタフォースの
特殊部隊ブラッドバッドは彼の隠れ家の所で車を止めた。
5人のデルタフォースの特殊部隊ブラッドバッドの
メンバーが車から降りて来た。
任務はアメリカ陸軍感染医学研究所から盗まれた
『無敵の歩兵』の生体サンプルの奪取。
アメリカの国家の裏切り者のブレッド・グラビアンスの射殺である。
最初に車から降りたのは隊長の名前はカイル・ベントン。
彼は細身でいかにも弱そうな感じだが、実は意外にも腕はやたらに強い。
またどんな状況に陥っても焦らず適正な判断を下す事が出来た。
また時々、とんでもない無茶をする事がある。
しかしそのおかげで何度も特殊部隊ブラッドバッドの
壊滅の危機を何度も救って来た。
彼ら部隊の英雄だったし、優秀な隊長だった。
彼女は4人の部下を引き連れ、
隠れ家となっている廃工場のドアを蹴り破り中に突入した。
5人の部隊は各々の愛用の武器を向け、廃工場内を見渡した。
廃工場内は真っ暗で何も見えなかった。
「くらっ!ライト!ライト!あー!あー!あー!嫌だ!嫌だ!」
特殊部隊の男はすぐさま愛用のアサルトライフルFNHC
に備え付けられているライトのスイッチを押した。
真っ白なライトは廃工場の錆だらけの壁や壊れかけた機械を照らした。
「不気味だなあ、こんなとこと歩くのかよ……」そう不満げにつぶやいた。
彼の名前はトム・アンダーソン。
この特殊部隊ブラッドバッドの中でも陽気な性格でどんなに
生存不可で絶望無状況に陥ったとしても暗い気持ちは一切持たず、
絶望する隊員達やテロリストの人質に
囚われていた人々を勇気づけたりした。
しかしその割には臆病で暗闇が苦手なのがタマにキズである。
「ああ、だが、油断するな!もしかしたら。
あいつも武器を隠し持っているかも知れん。」
トムは声のした方にライトを向けた。
すると自分の隣で懐中電灯のスイッチを
押している筋肉質の男が目に入った。
名前はアーサー・スチュワート。
彼は爆弾処理のプロであり、CQCやナイフ戦術の達人だった。
またいざと言う時は二丁のハンドガンを使い
テロリスト達と闘う事もあった。
「その時は私が冷静に状況を見極める。
そして少しずつ確実に彼を追い詰めるように君達に指示を与える!」
カイル隊長はいつもと変わらない冷静さでそう言った。
「赤ちゃん探しなら俺に任せてください!
僕は子供には好かれているので!」
明るい青年の声がしたのでカイルはライトを向けた。
そこにはまだ初々しい青年の新人隊員の顔が照らし出されていた。
名前はリース・クレイ。
彼は1年半前に入隊したばかりの若い米軍陸軍兵だった。
また今回の任務も初参加である。
それ故、まだ色々と分からない事ばかりだった。
「あら、あたしも子供は好きよ!」
ブラッドバッドのメンバーの中で唯一の女性隊員は
懐中電灯をリース・クレイに向けた後、愛らしい笑顔を見せた。
名前はミーシャ・ラヴクラフト
彼女は常に冷静で誰よりも目が良くどんなに遠いところからでも
百発百中の腕で命中させる凄腕のスナイパーである。
だがデルタフォースの特殊部隊ブラッドバッドに所属していながら
実際は殺し屋の仕事をしていて
各国の要人やテロリストを数多く暗殺して来た。
彼女に「狙われたら最後」
と評判で各国の要人もテロリストも彼女を恐れていた。
今回は特殊部隊ブラッドバッドの隊員として
政府の裏切り者のブレッドの射殺任務についていた。
愛用武器はスナイパーライフルB82A。これは対戦車用ライフルである。
そしてカイル隊長を含む5人の特殊部隊ブラッドバッドは
暗い廃工場の中を進んで行った。
 
(第2章へ続く)