(第2章)夜襲

(第2章)夜襲
 
ブラッドバッドのメンバー6人は隊長を
先頭に暗闇の廃工場の中を進んで行った。
その時、遠くの暗闇で物音がした。
「なんだ?」
リースは耳をすませた。
すると僅かだが何かを擦る様な音が聞えた。
また誰かの囁き声も聞こえた。
人間?まさか?ブレッド?
「どうしたの?」
「誰かの囁き声と何かを擦る様な音が……」
そしてミーシャは遠くを懐中電灯で照らした。
しかし真っ暗闇で何も見えなかった。
また囁き声も何かを擦るような音も止んでいた。
再び工場内は不気味な静寂が覆った。
「気になります。調べに行くべき。」
そうつぶやくとリースはアーサーとトムを追い越した。
また隊長のカイルを追い越そうとした時、
慌てて隊長のカイルが声を掛けた。
「おい!まて!まて!まて!何処へ行く気ですか?」
「あっちの方で誰かの囁き声と何かを擦る様な音が聞えたんです。」
カイルは冷静にリースが指さした方に懐中電灯を向けた。
静かに目をつぶり、周囲の音を確認した。
だが、何も聞こえず、不気味なほど静かだった。
「何も聞こえません。」
「空耳と違うか?」
トムの言葉にムッとした表情をしたリースはこう言い返した。
「いいえ、確かに聞えました!」
そう言うと再びカイルを追い抜いて歩こうとした。
カイルは彼の右肩を強く掴み、阻止した。
「単独行動は危険です!」
「でも、確かに聞こえたんです!それに人間一人でしょ?
しかも普通の一般市民で遺伝子学者と赤ん坊ではないですか?」
リースは大丈夫だと言う表情をした。
だがそれでもカイルは厳しい表情を崩さなかった。
「ルールに従え!死にますよ!それもあっという間に!」
やがてリースも渋々と「イエス・サー」と答えた。
「とにかく彼が聞いた音のした方向に向かう事にします!
もちろん全員です!」
カイルと5人の隊員はリースが聞いたと
言う音の方へ静かに慎重に歩いて行った。
やがて30分ほど歩いたか。結局、何も起こらなかった。
あったのはただ錆ついた機械と壊れかけた机だけだった。
「何も無いか……」
「そんな筈は!もっとある筈です!手掛かりが!」
リースは再びカイルの命令を無視し、先に歩き始めた。
カイルはすぐさま手を伸ばし、引き留めようとした。
しかし次は捕まるものかとカイルの手を
軽々と回避した後、リースは暗闇に消えた。
「おい!待てと言っているのが分かりませんか!?全く!」
いつも冷静なカイルも流石に声を荒げた。
「全くあいつは何を考えている!」とアーサー。
「おい!抜け駆けはずるいぞ!」とトム。
「大変!後を追わなきゃ!」とミーシャ。
暫くして突如、暗闇から凄まじい絶叫が聞えた。
「なんだ!」
「リースだ!」
「おい!かなりヤバイ!」
さらに暗闇からは凄まじい獣の唸り声に
ドスッと何かが突き刺さる音が聞えた。
「なんだ?ナイフが刺さった音か?」
「落ち着いて下さい!直ぐに助けに向かいましょう!」
カイルは一時に騒然となったメンバーを落ち着かせた。
しかし暗闇からリースの息も絶え絶えの苦悶の声と助けを請う叫び声。
さらにジュルジュルジュルと何かを吸い上げる音が聞えた。
まるでストローでジュースを飲んでいる様なそんな感じの音だった。
やがてリースの息も絶え絶えの苦悶の声と助けを請う叫び声が途絶えた。
同時にストローでジュースを飲んでいる様な何かを吸い上げる音も止んだ。
やがてカイル隊長を率いる残りの3人のメンバーが現場に駆け付けた。
「リース?」
カイル隊長は懐中電灯を遠くの暗闇に向けながら彼の名前を呼び続けた。
やがて懐中電灯の光は床に広がっている赤い血を照らした。
「血だぜ!まさか……」
「いや、まだ分からん!怪我をしているのかも知れん」
カイル隊長と仲間の3人は懸命に
懐中電灯の明かりを頼りにリースの行方を捜した。
やがて鋼で覆われた大きな箱の上に何かが乗っかっているのに気付いた。
最初は余りにも暗いのでただの服だと思っていた。
しかし良く見るとそれは人間の形をしていた。
「まさか……」
カイル隊長はゴクリと唾を飲み、懐中電灯でそれを照らした。
その鋼の箱の上にはブリッジの態勢のまま
乗っかっているリース・クレイの死体だった。
「嘘だろ……」
トムは目の前の衝撃的な光景に絶句した。
「なんてこった……うううっ!酷い……」
アーサーも余りにも悲惨な彼の末路に開いた口がしばらく塞がらなかった。
やがて気持ち悪くなり、思わず両手で口を覆った。
ミーシャもショックのあまり言葉が出せずにいた。
カイル隊長は仕方が無く彼の死体の状況を確認した。
彼は何者かに天井から襲われた。
彼の軍服が破れ、露出した胸部には大きな2対の穴が開いていた。
恐らく何ものかに軍服を破られ、
胸部に2つのストローを付き立てられたのだろう。
更に恐ろしいのは中身を吸い尽されていると言う事だ。
体液も肉も血液も何もかもが吸い出され、
完全に骨と皮だけのミイラと化していた。
「普通の人間では不可能ですね。」
「おいおい、まさか俺達が追っている男はとんでもない殺人鬼じゃ?」
「いえ、あり得ません。彼は人間で遺伝子学者です。」
「いや、分からないぜ。きっと自分の遺伝子に
何か別の生物の遺伝子を移植したんじゃないのか?」
「何を言っているんだ。」
アーサーは馬鹿馬鹿しいと言う表情をした。
「でもあり得ます。最近の遺伝子学の技術はかなり進んでいます。」
「つまり遺伝子療法と遺伝子操作か……」
カイルは暫く何か考え込んでいた。
アーサーはがっかりした表情をした。
「畜生……俺が……色々な事を教えてやろうとしたのに……」
彼は両目から涙を滲ませた。
そして彼の死体の傍に落ちていたリボルバーMP103NIを拾った。
攻撃力が高いが弾が少ない。畜生。
まだ一発も使っていないじゃないか……。
「とにかく彼を殺した何者かの正体を突き止め、
赤ちゃんとブレッドを探そう。」
「そうだな。きっとブレッドって奴なら何ものを見たのかも……」
「でもあたし達の目的はブレッドの暗殺と
『無敵の歩兵』の生体サンプルの奪取よ」
「ああ、だがその前に何者かの正体を探って始末しておかないとな!」
「ですね。今後、私達はそいつの標的にされるでしよう。」
それからカイル達は死体となったリースを現場に置き、
後で回収班に死体の回収を任せる事にした。
カイル隊長を含む4名のブラッドバッド隊員のメンバーは
更に暗闇に包まれた廃工場の奥へ進んだ。
そしてブラッドバッドは目の前に大きな扉あの所まで辿り着いた。
大きな扉には四角い金属の何かが貼り付けられていた。
「これは……」
カイル隊長の質問にアーサーがこう答えた。
「これは爆弾だ。」
「例の怪物対策か?」
「解除できるか?」
「ああ、どうやら素人が作った爆弾らしい。解除は簡単だな。」
アーサーは全員に出来るだけ下がって距離を置くよう言った。
そして彼は一人で黙々と無言で爆弾の解除を始めた。
彼はデルタフォースで爆弾処理を学んでいた。
その為、爆弾の事は良く知っていたし、解除も簡単だった。
やがてカチッと言う音と共に爆弾は
解除されたと同時に自動で大きな扉が開いた。
それからアーサーは一度、後退し、
両手でリボルバーMP103NIを構えた。
同時に全員、それぞれの愛用の武器を構えた。
そしてカイル隊長が先頭に出ると扉の奥を懐中電灯で照らした。
扉の奥は狭い部屋になっているらしい。
昔、休憩所に使用されていたようだ。
やがて大きなテーブルの椅子の上に座っている男を見つけた。
 
(第3章に続く)