(第6章)対決

(第6章)対決
 
暗視ゴーグルを付けたブラッドバックのメンバーの
隊員達は口々に感想を述べた。
「これで大丈夫だ」とカイル。
「良く見えるわ……便利なものね……」とミーシャ。
「反撃開始だ!」とトム。
それからカイル隊長、ミーシャ隊員、トム隊員と
拘束中のブレッドは無敵の歩兵』を探した。
やがて10m先の廃工場の広い敷地内の隅に黒い大きな塊が見えた。
「まさか?」
「いたか?」
「ええ」
カイル隊長とミーシャ隊員はそれぞれの愛用の武器を構えた。
そしてカイル隊長とミーシャ隊員は息を殺し、
慎重にその黒い大きな塊に近づいて行った。
確かに黒い塊は『無敵の歩兵』だ。しかも動いていない。
眠っているのか?死んでいるのか?
ミーシャはある程度の距離まで接近すると
スナイパーライフルB82Aの対戦車用ライフルを慎重に両手で構えた。
そしてライフルのスコープを覗きこんだ。
狙いは『無敵の歩兵』の頭部。
命中すれば即死させられるかも知れない。
そして息を殺し、額と掌から汗を流した。
廃工場内にピンと張りつめた空気が流れた。
ミーシャは慎重にスナイパーライフルB82Aの引き金に指を掛けた。
心臓は大きく早鐘の様に鳴り続けた。
ミーシャは意を決した。
スナイパーライフルB82Aの引き金を指で引いた。
パアン!と乾いた音が鳴り響いた。
放たれたスナイパーライフルの細長い銃弾は
彼女がスコープで狙った頭部に見事直撃した。
微かに『無敵の歩兵』は甲高い鳴き声を上げた。
頭部からオレンジ色の血を流し、怒りに満ちた甲高い咆哮を上げた。
嘘……頭部を狙ったのよ……
さらに『無敵の歩兵』は8つの真っ黒な複眼で周囲を見渡し始めた。
どうやら自分を攻撃した外敵を探しているようだ。
くそっ!ミーシャは心の中で舌打ちをした。
その時、『無敵の歩兵』は8つの真っ黒な複眼でミーシャの方を見た。
トム隊員は何か胸騒ぎを感じた。
すぐさま愛用のアサルトライフルFNHCを両手で構えた。
『無敵の歩兵』は先程、狙撃をしたミーシャの位置を正確に確認した。
次の瞬間、『無敵の歩兵』はミーシャに向かって大きな口を開けた。
やがて口内から再び2対の巨大な挟角を伸ばした。
だが『無敵の歩兵』が常人ではあり得ない速度で猛然と走り出す寸前。
トムは愛用のアサルトライフルFNHCの引き金を素早く引いた。
ダダダダダダダダダダ!
と凄まじい銃音を立て、数十発のライフルの銃弾が連続で発射された。
そして数十発のライフルの銃弾は『無敵の歩兵』の頭部を初め、
背中の背中から生えた8対の真っ赤な毛に
覆われた毛むくじゃらのクモの脚。
更に胴体を連続で何度も撃ち抜いた。
その度に『無敵の歩兵』の胴体や8対の真っ赤な毛に覆われた
毛むくじゃらのクモの脚からオレンジ色の血が周囲に飛び散った。
『無敵の歩兵』はアサルトライフルの連続攻撃に怯んだ。
「いまだ!もう一発!」とトムが声を掛けた。
普段の俊敏な動きでミーシャは
スナイパーライフルB82Aの引き金を指で引いた。
再びパアン!と乾いた音が鳴り響いた。
放たれたスナイパーライフルの細長い銃弾は
8つの複眼の内の右上複眼に見事直撃した。
ギエエエエッ!『無敵の歩兵』は苦悶に満ちた甲高い声を上げた。
右上複眼からオレンジ色の血をダラダラと流した。
『無敵の歩兵』はその場に留まり、
首を左右に振り、怒りの咆哮を上げ続けた。
「トム!下がって下さい!」
カイル隊長は愛用銃のグレネードランチャーRG140を両手で構えた。
『無敵の歩兵』は潰された右上複眼を除く7つの複眼でカイル隊長を見た。
既にカイル隊長はグレネードランチャーRG140の引き金を引いていた。
ボン!と言う大きな重い音と共に黄色い弾が発射された。
やがてグレネードランチャーRG140の弾は
『無敵の歩兵』の身体に直撃した。
ドオオン!と大きな爆発音と共に廃工場周辺は爆煙で覆い尽された。
その為、全員、暗視ゴーグルですら何も見えなくなっていた。
「やったか?」
両手にアサルトライフルFNHCを構えたトム隊員が呟いた。
「まって下さい!まだ油断してはいけません!」
グレネ―ドランチャーRG140を両手で
構えたまま厳しい声でカイル隊長が言った。
「あれは直撃……恐らく木端微塵ね……」
ミーシャも両手でスナイパーライフルB82Aを構えながらそう呟いた。
だが突如、爆煙から黒い大きな物体が飛び出して来た。
そして飛び出してきたその黒い物体は常人ではあり得ない
速度で猛然とカイル隊員に向かって突進して来た。
「危ねえ!」
咄嗟にトムはカイル隊長に体当たりした。
彼は真横に突き飛ばされ、廃工場の隅のコンクリートの床に転倒した。
すかさずブレッド駆け付け、両手で彼を助け起こした。
同時に鞄から鮮やかな手口で『無敵の歩兵』
の幼体を閉じ込めた空きビンを掏った。
トムは一歩後退した瞬間、コンクリートの床の溝に踵を引っ掛けた。
彼はそのまま勢い良く仰向けに転倒した。
『無敵の歩兵』の口内から再び2対の巨大な挟角がトムの胸部に迫った。
だが、まだ決着が付いた訳では無かった。
「おりやああああっ!」
トムはコンクリートの床の溝に踵を引っ掛け、
転倒した勢いを利用し、右脚を振り上げた。
ドゴオオン!と大きな音と共にトムの靴底は
『無敵の歩兵』柔らかい腹部に直撃した。
『無敵の歩兵』は甲高い悲鳴を上げた。
そして真上に吹き飛ばされた後、コンクリートの床に仰向けに落下した。
トム隊員は素早く起き上がり、
再び両手でアサルトライフルFNHCを構えた。
だが『無敵の歩兵』は仰向けに
引っくり返ったままピクリとも動かなかった。
「まさか?死んだの?」
ミーシャはスナイパーライフルB82Aを両手で構えた。
「まだ分らん!油断するな!」
カイル隊長もグレネードランチャーRG140を両手で構えた。
やがて『無敵の歩兵』の頭部、胴体、長い両腕と長い両脚、
背中から生えた8対の真っ赤な毛に覆われた毛むくじゃらの
クモの脚からオレンジ色の泡が吹き出した。
そして原形残さず、『無敵の歩兵』は完全に消滅した。
「私の最高傑作が……まあ!いい!お前達の仕事はここまでだ!」
カイル隊長、トム隊員、ミーシャ隊員は声がした方を一斉に見た。
ブレッドはいつの間に腰のホルスターから
取り出したハンドガンを右手で構えていた。
ハンドガンの銃口はカイル隊長、トム隊員、
ミーシャ隊員に向けられていた。
更に左手には『無敵の歩兵』の幼体を閉じ込めた空きビンを掴んでいた。
「くそっ!いつの間に!」
「コンビニのバイトとスリが副業だったもんでね。
カイル隊長の鞄から鮮やかに失敬させて貰ったよ。
さてこんなところでお別れの時間だ。」
ブレッドは邪悪な笑みを浮かべた。
「それは!あたしの子供よ!返しなさい!」
ミーシャは声を荒げた。
次の瞬間、ブレッドはけたたましい声で笑い始めた。
「あたしの子供?おいおい『無敵の歩兵』はただの怪物だ!
自国を脅かすテロリストの根絶を目標に私が製造した最高傑作だ!
なんだい?今更?情が移ったのか?母親を気取りたいのか?」
「あんたには分らないわ……」
「そうだろうな。私は子供が嫌いだ。
アホみたいに泣くし、クソや小便は垂れる。
とりあえずこれを誰かに売りつけて金が儲かれば別にいいのさ!
そもそも遺伝子学者になったのも金儲けができるからね!」
「最低野郎」とトムは吐き捨てるように言った。
「そうさ!私は最低野郎さ!だが!科学の発展に犠牲は付きものだ!」
そして警告も無くハンドガンの銃口をトムに向けて発砲した。
トムは咄嗟に右手で顔面を庇ったが間に合わず、
放たれた弾丸はトムの額に直撃した。
彼はそのまま驚愕の表情を浮かべたまま仰向けに鋼の床に倒れ、即死した。
「トム!」
「おっと!動くなよ!今度は君の額をうち抜いちゃうよー!!」
ブレッドはカイル隊長の額にハンドガンの銃口を向けた。
続けて彼は警告も無く再びハンドガンを発砲しようと指を掛けた。
 
(最終章に続く)