(第4章)同化

祝・バイオハザードシリーズ生誕20周年記念。
 
(第4章)同化
 
そこから場所が変わってニューヨーク・グランドセントラル駅。
ランドセントラル駅の改札口を過ぎ、5人の男達が
真っ黒なガスマスクと黒い服を着て、何かの準備をしていた。
そして5人の男は慌ただしく機械仕掛けの箱を
ホームの隅の白いタイルの上に置いた。
「よし!Tウィルス・生物兵器ヒル発射装置はここだな。」
「はい!次はこの先の階段を降りた駅のホームです!」
「明日までに残りのTウィルス・生物兵器用のヒル発射装置を
10個全て駅の各地に設置するんだ!」
「はい!セロ二アス・マーカス様!」
「これでグランドセントラル駅は明日大パニックになる!」
「そして我々テロリスト『赤い霧』の名がニューヨーク中に知れ渡り!
民共は恐怖と絶望におののくだろう!」
「大統領は我々の要求を飲んでくれるだろう!
ウクククッ!これでマーカス家は再び形は違うが全世界を支配できる!!
まずは手始めにニューヨークを我々の手中に収める!!」
そのとき一人の男が改札口の辺りを指さした。
「おい!あそこに女の子がいるぞ!」
「何を馬鹿な!今は真夜中だぞ!」
テロリストのリーダーのセロ二アスは驚き、男が指さした方を見た。
すると確かに16歳位の少女が歩いていた。
「なんだ?あの女の子?」
「真っ黒の縞模様の服?趣味が悪いな」
「セロ二アス様!いかがいたしましょう!」
「ええい。仕方が無い、女の子を捕まえろ!人質だ!」
「はっ」
5人の男達は真っ黒に縞模様の服の少女の周囲を取り囲んだ。
暫くして真っ黒に縞模様の服の少女は
周囲の男達を青い瞳でじっと観察していた。
「あれ?」
「どうした?ルッソ!」
「なんかBSAA隊員のジル・バレンタインの面影がありません?」
「はあー確かに本当だ。一体?女の子は何者だ?」
「彼女に一人娘なんていましたっけ?フリント!
確か貴方には娘がいるんですよね?」
「少なくともブランク!お前には紹介しねえ」
「ああ、そうですか。じゃ!お仕事!お仕事っと!」
「お前達、コメディなんかしている場合か?」
ルッソはブランクとフリントを叱りつけた。
「へーい」とブランク。
「へーい」とフリント。
「お嬢ちゃん!アメあげるからおじさんのとこおいで!」
一人の男がポケットから飴玉を取り出した。
そしてもう一人の男がこう尋ねた。
「嬢ちゃん!名前は?僕はハイド!君は?」
「ソフィア・マーカー」
「ソフィア?マーカー?変わった名前だね。」
「そう、嬉しいな」
ソフィアは飴に誘われるようにハイドに接近した。
「ちょっ!ええっ!良いのかな……」
「もう16歳だろ?この女の子」
「幾らなんでも無防備すぎるぞ!」
ブランク、フリント、ルッソはハイドの飴に釣られて
接近するソフィアを呆れた表情で見ていた。
その時、カランと言う音がした。
白いタイルの床に長い試験管が転がっていた。
全員は吸い寄せられるように長い試験管に
張り付けられていたラベルを見た。
『Tウィルス・生物兵器ヒル(女王型)』
全員、背筋が凍りつき、ガスマスクの内側で顔面蒼白になった。
「こっ。これは?」
「まさか?試験管の中のヒルを飲んだのか?」
「お嬢ちゃん!この試験管を何処で?」
ソフィア・マーカーは愛らしい口調でこう返した。
「この辺、人気が無くて、食べ物が無かったから。
トラックを漁っている内に偶然見つけて飲んじゃったの
「マッ……マジかよ」
「まっ!いや、お嬢ちゃん、お腹は何とも無いのかい?」
「なんだか。凄くぬめぬめして気持ち悪かったけど。
しばらくしたらあたしの身体と同化したの。
「そんな!信じられん!」
「馬鹿な!あの偉大なるマーカス博士と同じ現象が起こったと言うのか?」
「一体?この子は何者だ!」
「確か昨日、トラックの中の試験管が一個足りなかった。」
「はあ?お前!仕事サボったな!
しかも重要な女王ヒルの試験管が無くなったのに!」
ブランクの独り言を聞いたルッソは怒り出した。
「落ち着くんだ!二人共!そんなに騒いだらバレるだろ?!
俺達のテロ攻撃が!」
「あたしお腹空いたの!」
5人のテロリストのメンバーに向かってソフィアは妖艶な笑みを浮かべた。
更に5人のテロリストに近づき、こう言った。
「昨日はその女王ヒルを食べたけど……次は……」
その瞬間、5人の脳裏に旧支配者のキャロルが流れ始めた。
セロ二アス達はソフィアの妖艶な笑みに恐怖を感じ、徐々に後退した。
「おいおい!なんだよ!」とフリント。
「明らかにこいつおかしいぞ!」とハイド。
「早く逃げた方が……」とブランク。
「馬鹿野郎!それでは我々のテロ攻撃が……」とルッソ。
「皆!落ち着くんだ!彼女を捕えて作業を続けよう!」
「しかし……女王ヒルが……」
「変異ヒルを駅の各地に手当たり次第バラ撒けば!十分な被害が出せる!」
リーダーのセロ二アスは皆を落ち着かせるよう声を掛けた。
「あんた達を喰う事にしたわ!今日のあたしのメニューよ!」
ソフィアは嘲笑いそう言うと、口を大きく開いた。
次の瞬間、口からまたアルを捕食したのと同じ、
オレンジ色に輝く触手が5本伸びて来た。
しかも先端を良く見るとまるでヒルのような
鋭い牙の並んだ円形の吸盤が付いていた。
「うわああああああああ!」
「なんなんだ?これは?」
「うっ!うわあああっ!来るな!来るな!
やめろおおおっ!ぎゃあああああっ!」
ソフィアの口から伸びたオレンジ色に輝く触手の一本が
恐怖に顔を歪めたルッソのガスマスクを貫いた。
「ルッソ!クッソオオッ!」
フリントは両手でハンドガンを構えた。
しかし彼が引き金を引くよりも早くオレンジ色に輝く触手は
フリントのガスマスクを貫いていた。
残り3本のオレンジ色に輝く触手は
彼らが想像もつかない程の速さで俊敏に動き回った。
一本のオレンジ色に輝く触手は断末魔の絶叫を上げ、
ハイドのガスマスクを刺し貫いた。
「うわああああああああ」
恐怖に駆られたブランクは頭がパニックになった。
彼はパニックの余り冷静に動けなかった。
彼はハンドガンを両手で構え、引き金を引き続けた。
更に無謀にも怪物化したソフィアに突進した。
当然、2本目のオレンジ色に輝く触手は
ブランクのガスマスクを容易に貫いた。
最後の1本は信じられない表情で茫然と立ち尽くしている
セロ二アスのガスマスクを瞬時に貫いた。
約一分後、ソフィアの周りにはアルと同じく
体内の血液と体液を全て吸い尽され、石化した
5人の哀れなテロリスト達が石像の様に立っていた。
ソフィアは大きく口を開け、旨そうにセロ二アス、ルッソ。
ハイド、フリント、ブランクの順に石化した肉体を
バリバリと大きな音を立てて、ひとかけらも残さず貪り喰い尽した。
彼女は満足な表情を浮かべた後、
テロリストが落としたと思われる一枚のメモを拾った。
「Tウィルスと始祖ウィルスについて。
始祖ウィルスは偉大なるジェームズ・マーカス博士が
アフリカ原産の植物『始祖花』から発見した新種のRNAウィルスである。
ジェームズ・マーカス博士はこの始祖ウィルスと
ヒルのDNAを組み合わせてTウィルスを開発した。」 
成程、これであの女王ヒルがあたしの身体に
侵入して同化した理由が分かったわ。
あの子はきっと自らの体内のTウィルスの欠陥修復の為
母親のあたしの体内に帰りたがっていたのね。
ソフィアは再び妖艶な笑みを浮かべると
ランドセントラル駅を後にした。
 
(第5章に続く)