(第14章)霊魂

(第14章)霊魂
 
幽霊が出ると噂される廃墟になった老人ホーム。
ハロウィンの夜。テラセイブの仕事を終え、モイラとクレアは
その廃墟となった老人ホームの玄関前でジルと鋼牙と待ち合わせをした。
ちなみに『ゴースト・エンカウンターズ』の取材よりも
早くこのハロウィンの真夜中にここを
訪れたのは鋼牙の提案だったからである。
もちろん理由は今の鋼牙とジルも人前に姿を見せると新聞やニュース
になってあとあと面倒な事になるからである。
「さあー行こう!」
モイラは楽しそうに廃墟になった老人ホームの玄関前に立った。
一方、廃墟になった老人ホームの屋根の上で
ジルとモイラの姿を観察する者がいた。
その者は真っ黒で縞模様の不思議な服を着た少女だった。
やがて真っ黒で縞模様の不思議な服を着た少女は
幽霊の様にスッと消えて行った。
モイラ、クレア、ジル、鋼牙は廃墟になった
老人ホームの玄関ホールを通り、内部に足を踏み入れた。
居間になっていて床にオレンジ色の大きなカーペットが敷かれていた。
周りには壊れたソファや棚が置かれていた。
ついでに壊れていない新品のテレビもあった。
「静かね」
「当たり前だ。埃を被った年数を考えてもう長い事、
生きた人間がいないのだろう。」
だがいきなり、誰もいない筈なのにパッとテレビの電源が入った。
テレビ画面が砂嵐となり、ザーザーザーとノイズ音が聞えた。
その大きな音に鋼牙以外のジル、クレア、モイラは反射的に悲鳴を上げた。
「ああ、直ぐ近くにいるわよ……きっと……」とモイラ。
「ゆっ!幽霊なんか」とクレア。
「怖くないわ……」とジル。
「気お付けろ!すぐ近くに霊魂の気配だ!」
鋼牙は鋭い目になり、周囲を警戒した。
しかしクレアとモイラとジルは神経質に周囲を見渡した。
だが周囲は薄暗く、人影が全くなかった。
不意にジルは「キャッ!」と悲鳴を上げた。
「どうした?」
「だっ!誰かが!あたしのお尻を!」
続けて今度はクレアが「キャッ!」と悲鳴を上げた。
「ちょっと!誰よ!あたしのお尻を触ったの!」
更にモイラは喘ぐ様な声を上げ始めた。
「あっ!はっ!あっ!」
「おい!大丈夫か?」
「だっ!誰か?あっ!はっ!あたしの胸を……」
鋼牙がモイラの胸を見ると確かに誰かが触られているかのように
大きな丸い右胸が上下左右に動いていた。
「おい!止めろ!」
鋼牙が喝を入れるとモイラの右胸の動きは止んだ。
「やれやれとんだ変態だな」
「気お付けろ!クレア!すぐ近くにいる!」
「えっ?」とクレア。
「うそっ!どこに?どこに?」とモイラ。
「嫌だぁ……ちょっと……」とジル。
3人は周囲を見渡した。
だが幾ら見渡しても人影は一切無かった。
暫くしてクレアが悲鳴を上げた。
ジルとモイラは驚き、クレアを見た。
クレアは突然、目に見えない何かにお
尻を揉まれている感覚を覚え、背筋が凍りついた。
「何をしている!」
「おい!鋼牙!霊魂をあまり刺激するな!」
ザルバが警告した瞬間、鋼牙は正面から強く突き飛ばされた。
彼は咄嗟に両腕を組んでガードした。
しかし吹き飛ばされ、木製のテーブルの上を通過した。
そして彼の身体は後転しながら近くの木製の壁に激突した。
「鋼牙!!」
「来るな!怒っているようだ!」
鋼牙が言うか早いか駆け寄ったジルも
目に見えない何かに突き飛ばされた。
そして鋼牙と同じ木製の壁に激突した。
「ジル!」
「ちょっと!何すんのよ!」
クレアは怒って霊魂に抗議した。
すると彼女はうしろ髪を物凄い力で引っ張られるのを感じた。
「ちょっと!痛い!痛い!何すんのよ!」
クレアは痛みでと恐怖で微かに顔を歪ませた。
鋼牙は立ち上がり、クレアの背後の
何も無い空間に強烈な回し蹴りを炸裂させた。
その瞬間、うしろ髪を引っ張られる感覚は消えた。
代わりにガッシャアン!!
と大きな音と共に大きな窓ガラスは粉々になった。
「全く!なんて乱暴な霊魂なんだ!」
「大丈夫か?クレア?」
「ええ」とクレアは後ろ髪を右手で抑え立ち上がった。
「ねえ?なんでそんなに怒るの?」
「モイラ!霊魂の相手をするな!」
「そうだぜ!危険すぎるぜ!」
「でも。怒るのには何か理由があるんだよ!」
突如、モイラは背中の服を凄まじく
強い力で無理矢理、後ろに引っ張られるのを感じた。
「うっ!うわああああああああっ!」
モイラは身体をくの字のまま開きっ放しの
ドアの中に猛スピードで吸い込まれて行った。
「しまった!!」
「モイラ!!」
「大変!」
3人は慌ててドアに向かって駆け寄ったが不意に
バン!!と目と鼻の先で木製のドアが閉まった。
「もう!これだから幽霊は!」
「ちょっと!いい??」
ジルはドアノブに手をかけ、静かに開いた。
「この部屋のどこかにモイラが……」
「うーむ、しらみつぶしに探すしかないな。」
鋼牙は老人ホーム特有の幾つもの病院がある広場を見渡した。
「気お付けろ!モイラをさらった霊魂の他に
まだかなり多くの霊魂がさよっているようだ!」
「止めてよ!なんでそんなにいるのよ!」
クレアはザルバの指摘に思わず泣きそうな表情でそう言った。
そして鋼牙を先頭にクレアとジルは
おっかなびっくりと広場へ入って行った。
「気お付けろ!ジルとクレアのお尻を触った霊魂がいる!」
「さっきから何で?セクハラする霊魂しかいないのよ!」
「きゃっ!止めて!」
再びクレアはお尻をサワッと撫でられ、悲鳴を上げた。
「頼むから!もういい加減にしてくれ!」
鋼牙は大声を張り上げた。
やがて何処からか笑い声が聞えた。
「楽しんでいるらしい。」とザルバ。
「呆れた霊魂だな……」と鋼牙。
ジルは首筋に何か冷たいものが当たり、悲鳴を上げた。
「ひゃあああっ!」
「うっ!きゃああっ!白い影が……」
クレアは震える指で浴室と思われるドアを指さした。
やがて浴室で蛇口を捻る音と水が出る音が聞えた。
「構うんじゃない!ただの悪戯だ!」
鋼牙は鋭い声でそう言った。
「そっ!そうね!」
「それより!モイラを……」
「早く連れて帰りましょう……」
クレアとジルは震える声で言った。
 
モイラ・バートンは何処かの個室で目を覚ました。
ここに住んでいた老人の個室らしい。
彼女はベッドから起き上がった。
続けて周囲を見渡したが誰もいない。
しかし遠くで微かにお湯が流れる音がした。
「ジル?クレア?ここは何処?」
モイラはベッドから上半身を起こした。
彼女は落下防止用の柵を飛び越え、ベッドから降りた。
「そこに入るの?なんであたしをここに?」
何も無い空間で質問をして見た。
しかし長い間、返事は無かった。
「御免ね。面白半分で入って。」
不意にモイラは反省し、謝罪した。
 
(第15章に続く)