(第34章)変身

(第34章)変身
 
その日の夜。
ジル、鋼牙、クレアはそれぞれ、闘いの準備ジルの隠れ家で済ませた。
準備の後、3人はまたモイラの車を借りてマルセロの約束通り、
8時にニューヨーク港の廃工場に到着した。
3人はモイラの車から降りると廃工場の建物全体をざっと見た。
どうやら長い間、使われていないらしくほとんどの建物の壁の
コンクリートは全て剥がれ落ち、
中のボロボロになった骨組みが露出していた。
更にボロボロになった骨組みの鉄の数本の棒や
建物を支えている柱も錆に覆われて茶色をしていた。
しかも草もろくに整備されていないらしく伸び放題、生え放題だった。
「酷い外見だな!」
「ああ、だが間違いないぜ!あの廃工場にホラーの気配を感じる!」
「急ぎましょう!」
「ええ」
3人はすぐさま廃工場の内部に突入した。
廃工場の内部は薄暗く陰気な場所だった。
周囲には壊れかけた錆だらけの機械が見えた。
暫くして広い敷地の中央に白髪の白い服を着た老人と
両手両足を縛られているモイラの姿があった。
「ドクター・リーパー!いや、マルセロ・タワノビッチ!」
「もう!お前の逃げ場など無い!」
「モイラを返しなさい!」
マルセロは一人、椅子に座り、パソコンを操作していた。
「何をしている!」
「見て分からぬのかね?仕事じゃよ!」
「仕事って貴方は?」
「ある組織からの依頼でのう!」
「ある組織って?一体?貴方は?御月製薬の?」
「スパイじゃよ!イアン・フレミングの007の小説も知らんかのう?」
「一体?何を?」
「わしは御月製薬の北米支部の研究室のパソコンにのう。
自作のコンピューターウィルスを送信しておるのじゃ!」
「そんな事をして何になる?」
鋼牙の言葉にマルセロはフフフッと笑った。
「このコンピューターウィルスは偽のメールに仕込んで送信しておる。
もちろんあっちの研究所のセキュリティシステムは
数カ月以上前から分析解読済みじゃ!」
そう言うとマルセロはキーボードを叩き、メールを送信した。
「これで完了じゃ!後は偽のメールを馬鹿な研究員が開き、と言う具合に。
わしが作った自作のコンピューターウィルス『プロメテウス』は
メールが開いた瞬間に作動し、まずはアンチウィルスソフトと
セキュリティシステムを一時的に停止させる。
続けてコンピューター内の機密情報を全て別のパソコンの
メールに送信されるようにメールボックスを自動で操るのじゃ。
これで!あわれ!機密情報はまんまと外部に盗み出されてしまうのじゃな!
前のスパイが失敗して酷い死に方をしたのじゃからその仇じゃ!
安達由美と言う名前の女じゃ!かわいそうに。まだ若いのにのう。
ついでに『プロメテウス』はロジックボム論理爆弾)じゃからのう。
全てのデータの盗用の後、自滅する仕組みになっておる。
故に証拠は何も残らん!」
「一体?そのデータを盗んで何処のパソコンに送ったの?」
「答える義理は無いのう!組織のルールじゃからのう!
さて、軽い自慢話はこの位にして本題に入ろうかのう」
「本題って何よ?」
ジル・バレンタイン!もう知っていると思うが
君はわしとパズズが共同で開発した
薬品によって賢者の石の力を目覚めさせ、
緑の異形の戦士アンノウンに変身させる力を与えたのう。
じゃが君はまだ外神ホラーとして精神が未覚醒な上に。
肉体は外神ホラーとしてまだ不完全じゃな!」
「そうね!」
ジルは鋼牙から予めその事実は伝えられていたので特に驚かなかった。
「そうか!別に驚かぬのう。しかしこの事実はどうじゃ?」
マルセロはニヤリと笑い、こう話を続けた。
「君は緑の異形の戦士アンノウンとなり。
数体の魔獣ホラー達の陰我を絶ち切り。
自らの体内に封印しておる!
今はいいが、少なくともわしが
『賢者の石の力を使えば富と権力が手に入る』
とわざわざ誘惑するまでもあるまい!
何故なら自らの体内に封印した魔獣ホラー達の邪気は養分となり、
遅かれ早かれ、君は外神ホラーの完全体として目覚め、
人を喰らう様になるじゃろうて。」
「それは絶対に有り得ないわ!」
ジルは大声で堂々とそう言い返した。
「もちろん君が外神ホラーの完全体になった暁には
その賢者の石の力を使って我々、魔獣ホラーである
仲間やわしは喜んで協力するじゃがのう」
「そんなの絶対に有り得ないって言った筈よ!」
ジルは強い意志でマルセロの話を拒否した。
「では?わしを封印するのかのう?」
マルセロはニヤニヤと笑った。
「ええ、もちろんよ!」
「では君が異形の戦士アンノウンに変身した時、
その戦闘力や賢者の石の力を使いこなせているのか?確認させて貰おう!
なに!遠慮する事は無い!わしも全力で君を殺しにかかるからのう!」
「鋼牙!ジル!クレア!来るぞ!気お付けろ!」
「さあ、モイラ・バートンを助けたくば!
わしを封印してみるがいい!ジル・バレンタイン!」
マルセロ・タワノビッチは両腕を組んだ。
そして獣のような大きな咆哮を上げた。
「グオオオオオオン!」
続けて両腕を大きく広げた。
同時に腰の四角いバックルに付いている四角形の宝石が真っ赤に発光した。
一瞬で真の姿に変身した。
その特徴は。2対の三角形のひれの付いたイカの頭部。
両目は無く、代わりにY字型のモノアイが存在していた。
両頬から2対の吸盤の付いたイカの短い触手が生えていた。
首元には三角形の服の襟のような物が生えていた。
両肩は円形の柔らかい装甲。
胸部は分厚く柔らかい赤い鎧に覆われていた。
多数の吸盤の付いた長い触腕が左手から伸びていた。
右手からはオレンジ色の短い爪が生えていた。
腰の下からお尻や両脚は円形の分厚い鎧に覆われていた。
両脚はイカのひれを思わせる、三角形の赤い靴に変化していた。
しかも唯一この部分だけは外骨格で出来ていた。
彼はイカのようにふわふわと浮遊した。
ジルは『変身!』の掛け声を上げた。
そして両手で黒いジャンバーを左右に開いた。
腰のベルトのバックルに付いている球体が真っ赤に発光した。
一瞬で頭部を除いて全身が異形の鎧を纏った姿に変身した。
ジルは昆虫に似た2対の緑色の太い触角の付いた
マスクを自分の頭部に両手で装着した。
ジルは両腕を天に向かって勢い良く突き上げた。
「ウニャアアアアアアアアッ!」
ジルはいつもより激しく甲高い野獣の咆哮を上げた。
続けてジルは金属の床を力強く蹴った。
「うおおおおおおおっ!」
ジルはクラーケンに向かって急接近した。
続けてジルはその場で身体を大きく捻った。
 
(第35章につづく)