(第35章)猛攻

(第35章)猛攻
 
廃工場の内部。
ジルは素早くクラーケンに急接近した。
続けてその場で大きく弧を描く様に横回転し、
足の裏でクラーケンの腹を蹴りつけた。
彼女の得意技の一つ『ソバット』である。
もちろん彼女は手ごたえがあった。
しかしクラーケンは無反応だった。
再びジルはもう一度、長くしなやかな太腿を振り上げた。
更にその場で大きく弧を描く様に、横回転し、
足の裏でクラーケンの腹を蹴り上げた。
だがそれでもクラーケンは無反応だった。
「ぐっ!」
ジルは両拳をミシミシと筋肉を軋ませ、握りしめた。
続けてクラーケンの胸部に何度も何度も連続パンチを喰らわせた。
しかし彼女の力強いパンチをもってしてもまるで
マットの様に弾力性のあるクラーケンの胸部は
ジルのパンチの威力を完全に吸収し、無効化していた。
そう、イカ特有の軟体である。
「無駄じゃ!その程度の力では痛くも痒くも無いわ!」
クラーケンはせせら笑いそう言った。
次の瞬間、クラーケンは目にも止まらぬ速さで右脚を勢い良く振り上げた。
続けてその場でもう一度、大きく弧を描き、ハイキックで
ジルの右頬にキックを喰らわせた。
と同時にその場でもう一度、大きく弧を描き、ハイキックで
ジルの左頬にキックを喰らわせた。
更にトドメに右脚を真上に振り上げ、
ジルの脳天に強力な踵落としを炸裂させた。
「ぐあああああああっ!」
ジルはそのまま勢い良くうつ伏せに金属の床に叩き伏せられた。
「なんじゃ?賢者の石の力を持ちながらその程度の力かのう?」
クラーケンは再びせせら笑い、
ズゴオンと大きな音を立てて、ジルの下顎を蹴り上げた。
ジルは大きく宙へ吹き飛ばされた。
それでもジルは何んとかクルクルと
後転しながら両足で力強く、金属の床に着地した。
直後、クラーケンは着地したジルに向かって
口から真っ赤に輝く高熱の墨を吐きかけた。
「何?ぐあああああっ!熱い!熱い!熱い!嫌ああああああっ!」
ジルの身体を包みこんだ真っ赤な墨は全身の緑色の鎧を焼き尽くした。
ジルはどうにか真っ赤な墨から逃れようと周囲を見渡した。
しかし視界は完全に封じられており、目の前は真っ赤で何も見えなかった。
「ぐっ!何も見えない!何も見えない!」
クラーケンは左手を差し出した。
そして左手の多数の吸盤の付いた長い触腕を伸ばした。
左手の多数の吸盤の付いた長い触腕は
ジルの手の甲にグルグルと何重に巻き付いた。
一方、ジルはようやく視界が晴れ、自分の右手の甲に
長い触腕が巻き付いているのが見えた。
「触腕?うっ!ぐあああああああああっ!」
ジルは自分の右手の甲に巻き付いた触腕で締め上げられる激痛で絶叫した。
更にクラーケンはそのまま
ジルの身体を高々と5mまで軽々とすくい上げた。
「うっ!ぐあっ!ぐはあっ!ぐはっ!ぐわあっ!」
ジルは何度も全身を駆け回る激痛で絶叫した。
クラーケンはジルの身体を何度も何度も執拗に
5mの高さから金属の床に叩き付けて、
徹底的に痛めつけた後、投げ飛ばした。
ジルは吹き飛ばされつつもどうにか四つん這いで金属の床に着地した。
そして2本足でフラフラと立ち上がった。
ジルはひし形の大きな口を開けた。
「ウニャアアアアアアアアアアアッ!」
ジルは獣のような咆哮を上げた。
続けて右手の甲からニョキッと長く黄色い鉤爪を伸ばした。
彼女は両脚を踏みしめ、クラーケンに向かって大きくジャンプした。
そして右手の甲から伸びた長く黄色の鉤爪を
クラーケンに向け、急降下した。
しかしクラーケンは既に先読みしていた。
クラーケンは左手の多数の吸盤の付いた触腕を伸ばした。
左手の触腕はジルの首に巻き付き、怪力で一気に締め上げた。
ジルは急に呼吸が出来無くなった。
やがて徐々に全身の力が抜けて行くのを感じた。
ジルは首を絞め上げられる苦しみで唸り続けた。
徐々に意識が遠退いて行った。
更に僅かだが筋肉の痙攣を感じ、やがて消えた。
やがて意識は完全に消失した。筈だった……。
その時、ジルの脳裏に女の子の声がした。
「ママ!負けないで!!お願い!生きて!生きて!」
次の瞬間、ジルは急に意識を取り戻した。
同時に全身の力も元に戻った。
ジルは無意識の内に自分を奮い立たせた。
両手でクラーケンの触腕を掴んだ。
ひし形の口を大きく開け、獣の咆哮を上げた。
「ウニャアアアアアアアアッ!」
ジルは両手で持てる力を全て振り絞り、左右に両手を広げた。
そして一気に自分の首に巻き付いていた
クラーケンの右手の触腕をふりほどいた。
続けて既に伸ばしていた右手の甲の
長く黄色い鉤爪に賢者の石の力を集束させた。
彼女は賢者の石の力を集束させた
右手の甲の黄色い鉤爪をクラーケンの胸部に突き刺した。
「グッ……馬鹿な……」
クラーケンが驚く中、ジルは天に向かって野獣の咆哮を上げた。
「ウニャアアアアアアアアッ!」
ジルは右脚でクラーケンの下腹部を蹴り上げた。
彼女の蹴り上げは軟体で威力を封じられていたが
それでも3m程、吹き飛ばされた。
そして仰向けに金属の床に叩き付けられた。
暫くクラーケンはフラフラと立ち上がった。
「うっ!ぐああっ!ぐおおおおおおおおん!」
クラーケンは両腕を左右に広げた。
天に向かって無数の牙が並んだ口を大きく開けた。
同時に体内に注入された
賢者の石の封印エネルギーを逆に取り込み、無力化させた。
「無駄じゃ!わしに賢者の石の封印エネルギーは通用せん!」
しかしクラーケンは一瞬だけフラッと左右によろめいた。
胸部からダラダラとホラーのどす黒い血を流していた。
ジルは再び必殺技を繰り出そうと獣の咆哮を上げた。
「ウニャアアアアアアアアアアッ!」
「二度も同じ手は通用せんわ!」
クラーケンは短いオレンジ色の爪の5本の生えた右手を差し出した。
そして右掌の皮膚がビリッと十字に裂けた。
更に十字に裂けた掌の皮膚からオレンジ色に輝くキャノン砲が現われた。
キイイイイイイイイイイン!
甲高い音を立ててオレンジ色に輝くキャノン砲に
賢者の石の力を集束させた。
ドオオオオオン!
轟音と共にオレンジ色に輝くキャノン砲から真っ赤に輝く光弾を発射した。
そして放たれた赤く輝く光弾は5mもジャンプし、
右手の甲から伸びた黄色の鉤爪を振り降ろさんとする
ジルの昆虫に似た2つの緑色の太い触角の付いたマスクに直撃した。
直後、大爆発が起こり、2回、後天した後、5mの高さから落下し、
仰向けに金属の床に叩き付けられた。
同時に緑色の異形の戦士アンノウンの鎧は強制解除された。
そして元の黒いジャンバーのジルの姿に戻った。
しかしジルが落下したと同時に既に黄金騎士ガロの鎧を纏った
冴島鋼牙がジルの代わりに5mジャンプをした。
続けて彼は牙浪剣をクラーケンの胸部に向かって振り降ろそうとした。
しかし既にクラーケンは右掌のオレンジ色に輝くキャノン砲から
賢者の石を集束した真っ赤に輝く光弾を轟音と共に発射していた。
発射された真っ赤に輝く光弾は鋼牙の
黄金騎士ガロの黄金の鎧の胸部に直撃した。
そして彼の身体は大爆発し、全身は黒い煙と炎に包まれた。
 
(第36章に続く)